第三章・3
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「おい、常磐はどうした」
席に常磐の姿がないのを見て、東田が西山に訊いた。
「常磐なら病院に行ったわよ。ついでに例の夢占いでもしてくればって言ったんだけど」
「夢くらいできゃあきゃあ言いやがって。女子じゃあるまいし」
東田は笑った。東田もまさか常磐が今、本当に夢占いをしているとは思ってもみない。
「昨日の女子高生から、常磐に礼を言いたいって電話があったんだけどな」
「あら、もったいない」
「じゃ、俺はちょっと前の被害者に会ってくるわ」
「分かったわ」
東田は署を出ようとして、
「おっと、便所便所」
一階の奥のトイレへと寄る。
東田がトイレに入ると、あまり使われないそのトイレの個室三つが並んだうち、真ん中のドアが閉まっていた。
誰か入っているのか。
東田は用を済ませると手を洗い、もう一度個室の方へと目をやる。人の気配がしてこない。よく見ると鍵はかかっていないことに気がついた。
「……なんだよ。空いてるじゃねえか」
東田は閉まっている個室のドアを押した。ギイイと錆びた蝶番が音をたてながら、ゆっくりとドアは開いた。
「なんだ?」
そこにはダンボールの小さな箱が一つ。蓋を閉められた洋式便座の上に置かれていた。
◆◆◆◆◆◆
「それで?」
鈴は箱を置く手真似も交えながら話す、常磐の動きが止まってしまったのを見て言った。
「箱を置いて署を出て行きました」
「それだけ?」
霧藤が期待はずれというような顔をする。
「すみません……」
「その夢が、前の夢とどう同じだと」
「それは、あの心臓が苦しくなるような……」
「異常な興奮状態が?」
鈴が言った言葉に、常磐は顔をしかめる。
「興奮なんてしていません」
「それは失礼」
さらりと返す鈴。
常磐は少しムッとした。どうみてもただの子供じゃないか。
そこに携帯電話の着信音がした。
「あ、ちょっとすみません」
常磐はスーツの胸ポケットを探りながら、電話に出るため座敷の外に出ていった。
「どう思う?」
常磐が出て行くと、霧藤は鈴に訊いた。
「どうも何も。ただの夢だ。普段気にしていることが、夢に出てきただけのこと」
鈴はだるそうに欠伸をした。
「やっぱり、そうなのかな」
そこに常磐が戻って来た。その顔が青ざめているのに霧藤は気づく。
「どうしました?」
「今……」
常磐は言った。
「今、爆発があったって連絡が。霞野署一階の男子トイレで……」