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プロローグ

薄暗い地下のような暗室の中にある小さな棺。

周りには松明が1つだけ壁にかけられており、真っ暗な闇の中を頼りない明かりが棺を照らす。

私は棺桶で目覚め、ゆっくりと起き上がる。

周囲を見やると、廃材で出来た隙間だらけの扉が1つ、そしてボロボロになった黄色の髪をした女の子のぬいぐるみが1つ近くにあるだけで何も無い。

見慣れた光景だ。どうやら私は、また戻ってきてしまったらしい。

嘆息をつきながら下を向き、自分の身体を見る。

長い事放置していた金色の長い髪が邪魔をするが、やはりと言うかそこには何も無かった。

山も無ければ谷も無い薄い胸から真っ直ぐに下腹部まで見える。

下着まで無いなんて…また、先生に怒られそうだ。

裸でいる事よりも、この後の事を考えて嫌な気分になりながら、私は立ち上がり固められただけの土の上を歩く。

ひんやりとした土を踏みしめながら扉を開けると、木の階段があり、1段目の前に小さな水桶があった。

水は濁っており、よく見たら何か小さい物が泳いでいる。

どうやらしばらく変えられていないそれに汚れた足を突っ込み、階段に座りながら足を洗う。謎の生き物はうねうねしてるが、多分問題無いだろう。

私は足を荒い終えると、階段の隅に置いてあったタオルを手に取る。タオルも水同様しばらく変えられておらず、かちかちに固まっており拭きにくい。

少し大変だったが足を拭き終わり、タオルと水桶を元の場所に戻すと、綺麗にした足を汚さないように階段を登る。

1段登る度にささくれだった木片が素足にチクチクと刺さって痛いが、靴を無くしてしまっている為仕方がない。階段とはそういう物だし、血が出て汚さなければそれで良い。

しばらく我慢していると、暗闇の中ぼんやりと木の扉が現れた。

先程の扉には無かったドアノブを握り、カチャリと音を鳴らしながら引くと溢れ出る光に目が眩む。

反射的に目を瞑ってしまったので、ゆっくりと目を開けると、そこは小さな小部屋だった。

そこには、木箱や物が飛び出た麻布、鉄や木の廃材に畑で使うであろう嫌な匂いのする肥料などが所狭しと詰め込まれていた。

前見た時よりも増えているそれらを踏まないように気をつけながら僅かな隙間を縫うように歩く。

歩く風で舞い上がる雪のように積もった埃を吸い込んでしまい、むせながら出口の扉へと辿り着く。

今までの物と違って隙間の無い綺麗な木の扉をゆっくり開き、そっと中を覗き込む。


協会だった。


まず目に飛び込んできたのは、詳しくは知らないが、世界に存在する神様が何かと対峙していたり、その素肌を強調した輝かしい姿を模した様々な色のガラスで作られた1枚のガラスだ。

大小様々なガラスから差し込む太陽の光がキラキラと輝き、室内を虹のように彩る。

こんなにも綺麗なら、私が抱えている悩みや考えも小さな物だと思えてしまう。

そんな光に照らされている室内で、講壇と幾つもある長椅子には誰も居らず、外からはキャイキャイと小さな子供の声が聞こえていた。

どうやら今はここには誰も居ないらしい。

良かった。もし礼拝中であれば、私の醜い身体を晒してまた怒られてしまう所だった。

私は、ふぅ…と息を吐くと、近くにある部屋にでも入って服を拝借しようとしたその時、

「フィオネ、また戻ってきたのですか?」

私が出てきた扉の右手側、講壇を挟んだ向こうの扉から、出来れば会いたくなかった人物である修道服を来た妙齢の女性がいつの間にかに立っていた。

「はい、先生…戻ってきました」

「今月に入ったばかりなのに既に10回を越えていますよ?本当にやる気があるのか疑問に思いますね」

そんな事はない。そう言う前に先生は、ゆっくりと歩いて近寄って来るなり、そんな事よりと話を続ける。

「ところで、貴女は何故裸なのですか?ここは神々が我々に神託を下さるとても神聖な場所です。そんな場所に、貧相で醜い身体を晒すとはどういう意味を持つのか、分からない訳じゃありませんよね?」

目の前に立った先生の発言が徐々に怒気を含ませてくる。

「その、森で襲われた際に恐らくですが奪われてしまったのかと…」

何とか、記憶を辿りながら説明しようとするが、先生は私を見下ろしながら興味無さげにそうですかと一言言うと、

「着いてきなさい、ここに居られても他の方の目に毒です」

と私の手を引き、先生が出てきた扉の中へと引き込まれた。


先生は私の手を引きながら大広間を通り抜け、とある場所で止まる。

私が1番嫌いで出来れば二度と入りたくない場所である協会の1番奥の部屋。

先生は、私の手を引きながら真ん中に信徒の証である十字架と、左右に高そうな赤い布が飾られている扉に手をかけると、ゆっくり開く。

一言で言うなら、書斎だ。

中身の詰まった本棚が奥に並んでおり、その前にはこの場所以外は見た事がないくらいに綺麗な椅子と柔らかそうなクッション。

その椅子に負けないくらい存在感のある光沢が光る机があり、積み重なった本や広げられた羊皮紙に羽根ペン等が置いてある。

左右には、王様から貰ったであろう世界地図や子供が書いたような手書きの絵が飾られていた。

「あの、先生。私はここまでで…」

「入りなさい。服が欲しいのでしょう?ついでに大事なお話があります」

有無を言わさずに部屋に入らされる。

中には先生が気に入っていると言っていたランタンの火が揺らめいており、あまり太陽の光が入らない部屋を暖炉とランタンの火が私達を照らす。

「子供用しか無いのだけど、見た所何も成長して無いみたいなので大丈夫そうですね」

先生は引き出しから子供用の修道服を取り出し、着なさいと言いながら手渡して来る。

「どうしました?まさか、着方の記憶すら無くしてしまったの?」

先生の怪訝な声を聞いた瞬間、反射的に急いで服を着る。

先生は、それを見届けると隅に置いてあった椅子を持ってきて私を座らせ静かに問いかける。

「さて、単刀直入に問いましょうか。首都には着きましたか?」

私が答えられずにいると、先生は地図を手に取り、私に見えるように広げて目的地を指を指す。そこには、この国の中心部であるエルクリアと今いるコールの村が1本の線で結ばれていた。

「貴女が勇者候補となり2ヶ月が経ちました、予定通りなら既に首都に着いていてもおかしくないですよね?」

先生は首都から村迄の線を指で辿る。道中には、印が付けられた幾つもの町などがあり、○○日で通過すると書かれていた。

「ですが、私はまだ貴女の口から首都に着いたと聞いたことはありませんし、別の地域の方の話によると他の勇者候補は到達しているそうですよ?」

先生は私に近寄りながら、指を1箇所で止める。そして、

「もう一度聞きます。首都には着きましたか?まさか、未だに森を通っているなんて言いませんよね?」

村から1番近い場所。無名の森を指先ながら、先生は静かに怒りを含ませた声を出した。


無名の森


文字通り名前の付いていないその森は、村から徒歩数時間の場所にある。

鬱蒼と生える木や獣、魔獣の声が絶え間なく響く場所ではあるが、村から首都へ行く為には必ず通らなくてはならず、先生によると広いだけの森だから2~3日で抜けられるらしい。

「森は…まだ抜けられていません…」

「フィオネ。何度も言っていますが、あの森は広いだけで危険はありません。獣はいますが火を使えば襲われませんし、貴女も通った事がある筈ですよ」

先生が言いたい事は分かる。そんな簡単な場所であるのに何故止まっているのか?

何故止まっているかと言うなら、答えは簡単だ。

「先生、それは分かっています。道や2箇所ある休息地も。ですが、あの森に足を踏み入れた時からそこに存在する獣や魔獣が何故か急に鳴くのをやめて私に意識を向けている、そんな気がするんです…その証拠に何度も…」

先生は聞き飽きたかのようにため息を吐き言葉を遮る。

「またその話ですか。ただの気のせいだと何度言ったら分かるのですか?1人で行くのが怖いと言うから村人を1人付けたのに貴女は自分だけ逃げ帰って来た事もありますよね?しかも毎回地下からです。勇者の魔法か何かで帰って来ているのかは知りませんが、それではやる気が無いと言われても仕方ありませんよ」

先生は机に置いてあったコップを手に取りひと口含むと言葉を続ける。

「フィオネ、この村にはお金が無いというのは知ってますよね。魔族との戦いは勿論の事、隣国との戦争による影響でマナが安定せず作物も育ちにくい為自給自足もままならない。ここは孤児院でもあるから子供は増える一方、出費は増えるだけ。貴女もこの孤児院出身だから分かりますね?」

「はい…」

戦争は魔法を沢山使うため、離れた場所にも僅かに影響が出るらしく、様々な作物を試してみたが辺境の村であった為、元々育ちにくかった野菜が僅かしか育たない事が頻発していた。

そうなると、近くの町で食料を買い込むしかなく、その繰り返しであった。私も森を抜けて買い物をしに行った記憶がある。

「そんな中、この村に勇者候補が出たと知らせが来たのは奇跡でした。貴女も知っていますね、その日から補助金として国からお金が届いている事に…」

先生は少し間を置くと、ですが!と勢いよく立ち上がり、

「明らかに現在の補助金では足りていないのです!」

と声を荒げた。

私は自然と震える手を止めるように強く握り締める。

「フィオネ、補助金は何故貰えるのか、そしてどうしたら増えるのか教えましたよね?言ってみてください」

「ゆっ、勇者候補が旅を安定させる為と、残してきた家族や村を心配する必要が無くなる為です!補助金を増やす方法は、わっ私達、勇者候補が魔王が住まう土地に近づけは近づく程に手当が増えていきます!」

「正確には、世界を管理している神々が貴女達を監視し、進行具合によって決めている。が正しいですが、まぁ良いでしょう。問題は、それを理解していながら何故役目を果たさないのか」

先生は再度コップに口を付け、液体を飲み干すとこちらを向き、

「私達を取り巻く危険な状況を理解し」

私に1歩、また1歩と近づく。

「この村に恩意を感じている。助けになりたい。そう言って旅に出てこの始末…やる気が無いから逃げている。そう思われるのも無理はないですよね?フィオネ?」

先生はしゃがんで震える私の肩を掴むと耳元でそう囁いた。

「ですので、これは神様が与える罰であり、信徒である私にはどうしようも無い事なのです。聞き分けのない悪い子にはお仕置きを、役目を忘れてしまった子にはその身と魂をもって思い出させてあげなくてはなりません」

先生は私の手足を縛り上げると立ち上がり、声の出ない私の左側…暖炉の方へと向かう。

「大丈夫です。せっかく与えた服を傷つけはしませんよ」

暖炉の傍に置いてあった先の尖った鉄の棒、なるべく見ないようにしていたそれを先生は手に取り、暖炉の中に入れ、先端を熱し始め焼け焦げた肉のような匂いが部屋中を漂い始める。

「そういえば、勇者候補は深傷になっても死なない程度なら時間が経てば治るそうですね…私は知らなかったせいか今までは少し焼く程度で済ませていましたが、今回からは貴女の覚悟と頑張りを信じてみる事にしましょうか」

先生は鼻歌まじりに赤熱した棒を眺めながら私の方を向く、その表情は子供がぐちゃぐちゃに書きなぐったように真っ黒い線が全体を覆っていた。

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