資格職が結局最強
「とりあえずは基礎魔術の最初の取っ掛かりは掴めたようだな。まあいい。二ヶ月はその体内の魔力操作の練習をしろ。それが使えない限りは何も始まらない」
「りゃい」
了解ですよ父さん。言われなくてもやったりますよ。
うっひょい、これで魔術師デビュー! 誰しも一度は夢想する思春期女子の夢が叶うぜ!
今はまだ魔力をふよふよ身体に纏わせるのが限界なんだけど、このまま頑張れば「ふっ有象無象が」とか言いながら指一本で敵を消し飛ばす、とかできるようになるかもじゃん? サイコー!
………でもこういうのってさ、大体転生チートで努力なしで身につくもんじゃないのかね。
なんでわたしだけ修行パートがあるタイプの異世界転生なんだよ。文句を言っても仕方ないけどさー。
生後数ヶ月で命懸けの修行パートに突入した件。
でもまあ、この家じゃこれがデフォなのかな。イカれてるから。
さっきまでは魔力炉がまだ点火されてなかったからわからなかったけど、イーゼル兄さんやジゼルも父さんみたいにこの白いオーラを纏ってたのかもしれない。
だよね?
「そうだな。イーゼルは基礎魔術どころか、既に魔術のほぼ全てを完璧に修めている」
はーさっすが兄さん。じゃあジゼルも?
「いいや、彼女はまだだ。ちなみにまだジゼルの魔力炉は点いてすらない。魔術についてもあまり詳しい話はしていない。……一応言っておくが、ジゼルにお前が余計な魔術の知識を吹き込むのは禁止だ」
「あぇ?」
「ジゼルに魔術を教えるのはまだ早すぎるからな」
おい父さん、矛盾してるって。ジゼルってもう8歳ぐらいじゃないの? なんでジゼルには早いとか言っておきながら、一歳未満の赤ん坊には教えてんの。
不満げに頬を膨らませると、父さんに苦笑される。
「お前は特殊だ。生まれた時点である程度の知識と思考能力がある。魔術は、それがどのようなものか正しく理解できていないと取得は不可能。故に、ある程度の年齢にならなければ教えることはできない」
つまりジゼルはまだその年齢に達していないと。なるほど。まあそりゃそうだわな。
ていうか、わたしが生まれながらに思考演算能力持ってる件については、父さんたちはどう考えてるの?
「この世界ならばありえない話ではないと思っている。魔術に、進化過程が全く不明の生物たち。今更、多少前世の記憶があるくらいで驚きはしない」
うーん、それはラッキーなのかなんなのか。あんまり嬉しくはない。
まあ、今の父さんの言動からして、結構この世界ではこういう不思議事態は起きるみたいだね。ていうか、わたしの不思議って感じるポイントがこの世界の普通とずれてるっていうことだろう。
まあそのへんはすり合わせていくように努力しよう。じゃないと将来的にお外に出た時に大ピンチに陥る気がする。
まあこの赤ちゃんボディじゃ、お外に出れるのはだいぶ先の話になりそうだけど。
はーほんっとに子供ってめんどくさい。だってこの身体のままじゃ自由に外出だってできないよ。
いやだってそうでしょう。明らかに未就学児と思わしき子供が街中とかウロウロしてたら、わたし絶対警察とかに連れてくもん。事件性がありすぎる。
いい加減こんなだだっ広い屋敷に篭りきりというのも気が滅入る。どうにか街へお散歩ぐらいはできないかなー、と思考に乗せれば、父さんのジト目が落ちてきた。
「無理だ。お前の見た目の赤ん坊が街を歩いてたらちょっとしたホラーだろ」
そりゃそう。正論。なので流石に今の四つん這いスタイルの間は外出は諦めよう。
でもさ、たとえばあと5年くらい我慢したとこでわたしの身体は5歳のガキの姿までしか成長しないわけよ。
わたしが大手を振って一人で街へお菓子でも買いに行けるまでには、軽く見積もって10年はかかりそうなわけで。まあ発狂しそう。
うー早く人権を得たい。
溜息。イーゼル兄さんの容姿が死ぬほど羨ましい。だってあの人、16なんだよ。一人歩きしても警察は多分補導されないで済む。ずーるーいー。
まあそんな兄さんはどうせワーカホリックだから仕事以外では外出なんてしないだろうけど。
あ、っていうかさ。そもそも父さんたちの暗殺の仕事って、どこから依頼が来てるの?
「多種多様だな。個人から請け負うこともあれば、国から請け負うこともある。基本オレたちは引き受けた依頼を断らないからな」
ふうん、まあ個人の暗殺依頼はともかくとしてさ、国からって何よ。おばあちゃんがちらっと国に認められた、とか言ってたけど、堂々利用してんの?
流石にこの世界治安悪すぎじゃない?
だって国家はさ、一応建前として殺人罪を定義してるワケでしょ。なんで父さんたちは国から殺しを請け負って、犯罪者として立件もされないわけ?
その問いに父さんは不思議そうに首を傾げると、ああ、と何か納得したように頷いた。
「そう言えばお前はまだ知らなかったか。オレたちは認定特殊清掃員だ。認定特殊清掃員は、公的組織からの干渉を受けない特権を与えられる」
はぁ? なんでそんな制度があるの。
「国が表立って出来ない裏側の仕事を代行する。それがオレたち特殊清掃員なんだよ」
あー、なるほどね。頷く。つまりは国のお汚いところってわけだ。
厄介な人物の暗殺か、面倒な事態の揉み消しか。まあ実態はよくわからんが、そういう裏の面倒なことをやってる人たちなんでしょう。特殊清掃員さんは。
そんな後ろ暗いお仕事をやる代わりに、特殊清掃員には公権力は介入せず、特権扱いをするとかいうリターンが与えられてる。そういうこと?
「そうだ。ちなみに特殊清掃員は裏業界じゃ大人気の国家資格だぞ。一度取得すれば殺人を犯そうが誘拐だろうが、街に火を放とうが一切罪に問われない。裏業界で生き残るためには必須の資格だ」
うらぎょうかいじゃだいにんきのこっかしかく。
何それ? いよいよイミフ。そんなディープな、世界の暗部が人気の国家資格て。危険物取扱免許みたいに言わないでよ。ノリが軽すぎる。
え、じゃあ何? この世界ではマフィアのボスみたいな人が国家資格取得を目指して日夜お勉強してたりするわけ?
前々からずっと思ってたんだけどさ。この世界やっぱ変じゃない? カジュアルに人殺すし、特権階級与えて犯罪者見逃すし、倫理バグってるし。
ううん、まあそれはいいや。今更だし。
ちなみにその資格ってどうやって取るの? 筆記? 実技?
「殺し合いだ」
ふぅん、なるほど殺し合い………って、殺し合い!?
「試験はシンプルだぞ。受験者が試験会場に集って、試験官から出される課題をクリアする。その全てをクリアして生き残ったやつが特殊清掃員として認められる」
父さんは平然とそう言ってのけるけど、わたしはまだ大混乱中だからね。
なにそれ、やっぱ資格とらせる気ないじゃん。試験で死ぬとか狂ってるよ、この世界。
あー、違うってば。だからわたしの価値観がずれてるんだって。
早いとこ適合しないと。努力努力。
でもさ、てことはわたしが暗殺者をやる以上、いつかはその試験を受けなきゃいけないってこと?
「当たり前だ。魔術をある程度習得し次第すぐに受験してもらうつもりだからな」
はー、まあやっぱそうよね。最悪。しばらくしたら裏業界の人たちの跋扈する殺し合い大会に参加させられることが確定しました。
てか、そんな激ヤバ資格、わたしが成長して強くなっても取れるか微妙じゃない?
「いや、それはない。特殊清掃員試験と言っても、受験者に魔術師はほとんどいないからな。ある程度魔術師として実力を積めば十分切り抜けられるレベルだぞ」
「ほぁ」
じゃあ父さんも持ってるの、その資格?
「当然。俺も婆さんもイーゼルも取得済みだ」
へえ、じゃあ魔術が使えるようになれば合格率は相当上がりそうだね。
よし、じゃあしばらくはその資格取得を目標にがんばるしかないか〜。
「そうだな、まあそれ以前に基礎魔術をどうにかしてくれないと話にもならないが。とりあえずは2ヶ月で身体強化魔術は習得しろ」
「らーい」
あ、だいぶ発音がましになってきた気がしなくもない。よし、ここは一発チャレンジ。
えー、テステス、本日は晴天なり。
「ああららえりゃああい」
あ、やっぱダメだわ。喉と舌がもう少し成長しないとダメみたい。
うーん、こればっかりは待つしかないか。きついけど、会話的なのはこっちの思考を読んで貰えばできなくはないし。
あー、はやく成長したい。
はあ、記憶持ち転生ってこういう問題点あるのね。思考に身体の成長が全く追いつかないっていう。ヘイゼルはまた一つ賢くなった!