師匠のともだちのともだち
そうしてサクッとE級に昇格して、更に適当な雑魚相手に二勝を重ねたあたりで今日の試合は終了となった。
なんかなあ。正直あんまり骨なくてつまんなかった。
序盤の方のエリアは、本当にその辺のチンピラと変わらないようなのが多い。
とりあえず殴っときゃなんとかなるって本気で思ってそう。
まさにあれこそが脳筋。ていうかその殴るって行為もロクにできてないしねえ。
しかも全員、謎に自信満々でかかってくるんだもん。逆に怖いわ。
うーん、やっぱり地下闘技場ってそれなりに腕に自信がある人が来るわけでしょ?
て事は、この世界における平均レベルは、今日当たった人たちぐらいだって考えて問題ないはず。
まあこの世界、上と下の差がアホみたいにデカイから、平均なんて全く役に立たない数値だろうけどねえ。
平均より強い、ってことが、それなりに戦えるってこととイコールで繋がらないのがこの世界の仕組み。
あー、ヤダヤダ。なんにしても、兄さんとか師匠とかが規格外だってことがよくわかった1日でした。
「……はー、疲れた」
「疲れる要素なんてどこにもなかったでしょ」
「そんなことないって〜。だって私、今日が初めての対人戦だよ?」
肉体疲労も精神疲労も積み重なってるに決まってるだろうが、という私の言は興味なさげに師匠にスルーされた。むう、解せぬ。
で、試合も終わってとりあえず明日を待つだけの私たちは、闘技場を出て今日の宿を探してるんだけど。
さすがの大都会って感じよねえ。ぐるんと辺りを見渡して思う。星空も見えないビル群。現代っ子には馴染みがあって過ごしやすい。
あー、疲れた。疲れたしねむい。ふあふあと眠そうな子供の足取りで師匠の隣を歩く。
「ね、師匠。いま私どこ向かってんの?」
「宿」
「だからそれがどこって聞いてんの」
「わからない」
「はぁ?」
なーにーそーれー。ぶう、と頬を膨らませる。私、師匠があったかふわふわのベッドを用意してくれるって聞いたから大人しく着いてきてやったのにさ、話が違うわ。
「しーしょーうーってば! 私もう疲れたから寝たいのに」
「うるさいうるさい。いいから黙ってな。すぐ見つかるから」
師匠はそう、意味ありげに指を一本立てた。
魔力の込められた指先。それがゆるゆる空中に文字を書き出す。
オフィス街のど真ん中でそんな不審な行動してたらヤバくない? とは思うけど、まあ、とりあえず静観。師匠の魔力の軌跡をじっと見つめる。
文字。呪文ってより、暗号みたい。数字と文字がランダムに並んだパスワードみたいな。うーん、じゃあ一体何のパスワードなんだろ。
私がそこまで考えると、ふと後ろに新しい魔力の気配を感じた。
「――ああ、ブルーか。珍しいな。今日の商品はそのガキ?」
後ろから、そう声がかかった。
ぎぎぎ、と音でもしそうなくらいぎこちなく振り向く。冷や汗ダラダラ。頭は大パニック。
すいません、さっき意外と人間ってみんな雑魚じゃんって思って。意外と私って強いじゃんとか思って。反省してます。してるのでもう許してください、神様。
私の真後ろに音もなく現れた人間は、またもやとんでもない格上の魔術師だった。
黒いパーカーに黒のジーンズ。頭からフードを被っているせいで顔も見えない。誰だろな、この人マジで。
そんなスーパー不審者に、師匠は親しげに手を振った。
「やあクロ。どう、最近は?」
「それなり。で、今日は何の依頼? そのガキの最終加工?」
「いや、それを頼むのは2年後の話かなぁ。今日は単にあんたの工房に入れて欲しかっただけ。しばらくこの街にいる予定だからさ、寝泊まりできる場所が欲しいんよね」
「……は、何で?」
フードの向こうでお兄さんの顔がぎゅうと顰められる。お兄さん、クロさんって言うのかな。多分師匠の同僚ってか、ビジネスパートナーっぽい人だけど、詳細はわからん。
わからんが、なんかこの人もめちゃくちゃヤバい裏業界の人なのはわかる。最近こんなんばっかだわ。
はあ、と溜息ひとつ。なんかこういうのにも慣れつつある。
師匠の後ろに隠れるみたいに、クロさんの視線からとりあえず逃げる。
勝てそうな相手とは戦う。強そうな人相手は三十六計逃げるに如かず。これがやっぱ正義なわけよ。
クロさんは師匠の影に隠れた私をつまらなそうに見ると、改めて師匠の方へジト目を向けた。
「僕の工房は定員一名なんだけど」
「ワンフロア最上階抑えておいて、ケチなこと言うなよ」
「そもそも僕は生きてる人間と同居する趣味なんてないの。死体に変えていいなら……」
「家賃なら払うよ」
「乗った」
クロさん、守銭奴パート2だったことが判明。さっきまでうだうだ言ってたのは嘘みたいに、俯いていた顔が前を向く。
その拍子に、はらりとフードが取れた。
短く切り揃えられた銀髪に、整った鼻筋。まあそこまではいい。問題はその次。
左目は黒、右目はルビーみたいな赤色のオッドアイ。
なるほどね、だからフードを被って顔を隠してたんだ。めちゃめちゃ目立つもんね、その容姿じゃ。
「一月幾ら?」
「好きなだけ持ってきなよ。金なら腐るほどあんだから」
「ブルーってさ、金稼ぐのが趣味のくせに金自体には無頓着だよね。異常人間」
「うるさいな。アタシはいつだってただ高く売りたいだけなの。売った後の金はどうでもいい」
「……意味不明。まあいいや、じゃあもらえるだけもらうから。前言撤回しないでよね」
「はいはい」
「あ、あとさ」
と、やっとクロさんの指先が私を指す。
「それも連れ込むつもり?」
「もちろん」
「何故?」
「弟子だから」
「……はあ、なるほどね」
理解不能。思考放棄。クロさんはわかりやすくそう顔に乗せると、くるりと踵を返した。
「まあいいや、着いてきな」




