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人身売買は犯罪です

 わたしと女の間、きっかり5メートル。女は楽しそうにこちらを窺っているだけ。わたしの出方を見ている。どうする、どうしたらいい。


 今まで散々、父さんたちによって戦闘の仕方は叩き込まれてきた。人の殺し方はよく分かってる。


 でも、だとしても今のわたしは実践経験がゼロだ。そんな状態で、こんな格上の人と戦うとか本当に無理。


「……最悪」

「そう? アタシと出会っちゃったのがそんなに嫌? 大丈夫だって、そんなに怖がらないでよ。アタシは商品の扱いは丁寧にするタイプなんだ。殺すどころか、傷一つつけるつもりもない」

「商品?」


 今、この女、商品って言った?


 ああ、理解。その瞬間に全部が繋がる。この人、人売りだ。


 このアイゼンバーグでは結構ポピュラーな産業、人身売買。見た目重視の取引も、中身重視の……奴隷用の取引もどっちも盛ん。


 わたしはどっち目的で売られる予定なのかなー。見栄えもまあまあ良いと思うけど、魔術もそれなりに使えるし。


 だから言い値がつきそうなんてこの人は言ってるんだろうけど。


 まあ細かいことはいい。とりあえずは、このお姉さんは人身売買組織の人。で、わたしは今この人に捕まったら商品としてパッキングされちゃう。


 ちなみにこのお姉さんは圧倒的にわたしより格上の魔術師。


 詰みでは?


 詰みです。理性はすぐそう教えてくれる。あー、終わった。まさかのお出かけして一時間以内で人生終了とは。やっぱわたし運ないな。


 とはいえ、ここでみすみす諦めて命を捨てるわけにはいかない。とりあえず足掻けるだけは足掻く。それがわたしの美学よ。


 軽く息を吸って、魔力を循環させる。目の前のお姉さんの目が品定めするみたいに細まったのは気にしない。


 身体強化魔術、行使。成功。お姉さんをそのまま睨みつけてみる。


「ねえお姉さん、見逃してくれない?」

「そんな敵愾心バリバリの顔で言われてもなぁ。ってかさ、アタシこのクソ暑い中もう三時間はここで張ってターゲット探してたのよ。……それであんたみたいな美味しい獲物、手放せるわけなくない?」

「でもさ、わたしはめちゃくちゃ抵抗するよ。そしたら目立って、ほら、警察沙汰とかになっちゃうかもだし……」

「闘技場前で起きた騒ぎに警察が介入するわけないでしょ。ここ、ほぼ無法地帯なんだから」


 はい、説得失敗。分かってたけどさー。ってことは、あとはもう殴り合いで解決するしかないわけだ。


 とりあえず右脚に魔力を集中させる。戦闘態勢。


 わたしのその変化を見て、お姉さんは青色の髪を優美にはためかせた。


 一歩、二歩、お姉さんがこちらへ歩み寄る。

 

 お姉さんの目つきが変わる。

 

 この変化知ってる。いつも見てる。

 兄さんが間合いに入った時にする動作と全く同じだ。

 

 そう思った次の瞬間、一気にお姉さんとの距離が詰まった。


 近距離のファイタータイプか!? くっそ、最悪! わたしとこの人、すっごい相性が悪い!

 

 仕方ない。今やるしかない。

 

 さっきからスタンバイして足に溜めてた魔力を一気に放出して、思いっきり飛び上がる。アスファルトに少しだけヒビが入った。


 目の前のお姉さんを飛び越えるように宙を舞って、そのまま背後で体を回転させる。


 そしてお姉さんの無防備な首筋へと魔力を込めた蹴りを………って!

 

 掴まれた。

 足を、掴まれた。

 

 折れるんじゃないかってぐらい、強い力で足を捕らえられる。

 うそ、でしょ。

 

 わたしの姿を振り返って確認することなく、完璧なタイミングで手を出して、そして重力加速度を利用してるから相当な速さで落下してきているわたしを片手で押さえた。

 

 普通の人間なら、接触だけで軽く手首が折れててもおかしくないのに。


 そのままお姉さんは、わたしの身体をアスファルトへと叩きつけると、仰向けに転がったわたしにマウントを取るように跨った。

 

 ジタバタともがいても動けない。そのまま手首も押さえつけられる。

 

 マズイ、完全に身動きが取れない。青色の長髪がカーテンみたいにわたしの周りを覆っている。

 

「ねえあんた、名前は?」

 

 この生殺与奪権を完全に握られた状態で、余裕そうにそう問われる。

 

 はあ? なんなのこの青髪女! 殺すなら殺すでさっさと殺れよ! こんな時に何呑気に自己紹介始めようとしてんの!

 

 そう睨めば、押さえつけられてる手首からミシリと音が鳴った。

 

「早く答えないと、手首折れるかもね」


 うー、この人ほんと最悪。性格悪すぎ。

 

「っヘイゼル!」

「へえ、可愛い名前じゃん」

「うるっさい! いいから離せ!」

 

 そう言ってバタバタと暴れると、ニンマリとした表情を浮かべられる。


 何この人。怖い。強い云々以前に、怖い。

 

 じっとりと背中に冷や汗が流れる。


 なんだろ、この感覚。絶対に何があってもこの人だけには出会ってはならなかったと本能が言ってる。

 

「……わたしをどこの誰に売るつもり? 一応言っとくけど、わたし自分の思い通りにならない展開は大っ嫌いだから、そういう時は舌噛んで死ぬことに決めてるの」

 

 そう言いながら身を捩ると、明らかに状況に似合っていないような笑みを返される。


 ニッコリ、晴れた空のような笑顔だ。


「いいねえ、活きの良い子は好きだよ」


 なんか、背中がゾワゾワする声。

 

 そんなことを考えていると、お姉さんの手が頭の上に伸びる。魔力で強化された手のひらだ。


 そんな手で頭でも握られたら、スイカみたいにぐっちゃぐちゃに割れちゃう。


 そんな死に方は嫌だー。と足をばたつかせれば、お姉さんはアヒルみたいに唇を尖らせた。

 

「……どうしよっかな。売り飛ばしてもいいんだけど、ちょっと勿体無い気もしてきたなぁ」


 うーん、とお姉さんはわたしの頭に手を翳したまま首を捻る。


「どうしよう、どうしたらいいと思う?」

「知らないし離して!」

「あんたの見た目ならそれなりの好事家が結構な値段つけてくれると思うのよ。でもさ、あんたまあまあちゃんとした魔術師じゃん? まだまだ未発展とはいえね」


 お姉さんは頭の中で計算を開始したらしい。ぶつぶつと今売ったら1000で、一回待ったら……とか一人で呻き出す。


 なんなんこの人。


 人のことアスファルトに叩きつけといて、こっちのことガン無視でなんか悩み出すし。


「……そうなんだよ、魔術師でこの見た目なら10000は堅いしな〜。あともうちょっと育ってくれるといい値段になると思うんだよね。具体的にはあと3年ぐらい」

「は?」

「いやー、惜しい。青田買いは趣味じゃないしなぁ。でもここでリリースしたら同僚(ハイエナ)たちに取られるかもだし」


 またぶつぶつと自分の世界へゴー。マジでこのお姉さん何考えてんだかわからん。


 でもまあ、お姉さんの言葉から断片的に読み取れたこととしては。


「……あのさ、お姉さんはわたしが最高値で売れるのは3年後ぐらいだろうから、今売るか待つか悩んでるってこと?」

「そう! 由々しき問題だよね。今のあんたの魔術のレベルじゃちょっとランクが落ちるからさー。ね、あんたもう少し修行積んで、強くなってからもう一回アタシのとこ来てくんない? そしたら今度こそ売り飛ばすからさー」

「……それ、はいわかりましたって言うわけないじゃん」


 そうジト目でお姉さんに答える。

 

 んー、とはいえいきなり商品としてオークション会場に連れられるようなルートはなんか回避できたっぽいな。


 ラッキー。前言撤回。今日のわたしはちょっとだけツイてる。


 お姉さんはわたしの頬をべたべたと触りながら、物憂げにわたしの顔を覗き込んだ。商品鑑定。わたしの紫の瞳をじいっと見つめる、と。


 お姉さんの首がこてりと傾げられる。何かに気づいたように。


前の方の話、めちゃめちゃ書き直した。スマソ

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