人権意識が終わってる件について
あたらしいぴかぴかの素敵な身体にニヤつく。最高。
ここ数ヶ月の訓練という名のスーパー拷問タイムのせいで転生って最悪って思ってたけど、こんな美少女になれるなら多少の痛みは耐えるわ。
……うん、まあ別にあの拷問を許してやってるわけじゃないんだけど。
数ヶ月、わたしはずっと魔術の訓練と並行して身体改造&戦闘演習をパピーとマミーに課せられていた。
ほら、この家ってば子供を優秀な魔術師&殺人者に仕立て上げるためなら洗脳も厭わないイカれ家族じゃん?
だから訓練も常軌を逸してる。
わたしが基礎魔術をある程度覚えて、ちょっとナイフで斬られても死ななくなったぐらいのタイミング。
そのころからヘレンザック家謹製暗殺者養成プログラムは始動した。
ではここいらで一回わたしの日々のメニューを思い返してみよう。
まず起床。執事ロボたちに問答無用で叩き起こされたのちに、家のお庭をひたすらランニング。魔力で身体強化できるから、赤子の筋肉をヒイヒイ言わせて爆走するわけだ。
毎日10km。
いや今ハァ?って思ったでしょ。わたしも毎朝思ってる。赤ちゃんが毎日10km走ってるってどんなホラーよって感じなんだけど、魔力ってのは便利ですごいのだ。
立つことも覚束ない身体を無理やり動かして、筋繊維を引きちぎりながらわたしは毎朝トレーニングしている。
そうしてボロボロになった身体で朝食のテーブルにゴー。もちろん毒入り。
死なないギリギリを攻めるように、すこしず〜つ量が増えていってる。わたしの肝臓は毎日急ピッチ大忙しだ。
激マズご飯の次は父さんとの戦闘訓練。と言っても今は一方的にボコられてるだけ。蹴りかかればわたしの脚が折れ、殴れは壁に吹っ飛ばされる。
そうして全身文字通りべきょべきょになってもう動けない、となったところで、母さんのターンだ。
毒入りランチを挟んで、母さんの訓練兼趣味のSMプレイがはじまる。曰く、どれほどの痛覚を感じていようと平然と動けるための訓練なんだってさ。
そんなこんなでわたしは壁に手錠で縛り付けられて動けないまま、指の端からちょっとずつ銃で撃たれる。
また今意味わからんってなったよね。
でもね、魔力をちゃんと正しく体内に維持できてれば、一応銃弾が掠ったぐらいで死にはしない。めちゃくちゃ痛いけど。
ってかわたしの魔力操作がまだ未熟すぎるせいで、全然大出血大サービス状態だけど。
まあそんなこんなで文字通りの半殺しにされたわたしは夕食の毒をお腹に詰め込んで、ベッドに倒れるわけだ。
もちろん寝ている間の魔力は身体の奥に圧縮した状態にしておいて、回復力を上げておく。
そこに赤ちゃんの成長速度なんなり色々が加わって、翌朝のわたしはまた10kmマラソンに耐えられる身体になってるってわけ。
本当にイカれてるし、狂ってる。
ヘレンザック家に生まれた以上、わたしたちはこの毎日を強制的に課されるのだ。正直気が狂いそうだった。
まあそれも目的の一つなんだろうけど。
拷問じみた訓練で子供の脳をぶっ壊し、従順な奴隷に育てる。全くもって最悪家族。
はぁ、とそこまで考えて溜息を吐いた。もう〜早く家出したいよ〜でも兄さんとの約束があるので叶いませんが。
とりあえずジゼルがきちんと大きくなるまでは、この家で大人しく暗殺者養成プログラムを受け続けるしかない。
最悪だけど、でもまあ兄さんに精神操作されてぶっ壊されるよりかはなんぼかマシ。
なのでまあ、兄さんの言うことは従順に聞こうではないか。あ、靴とか舐めます?
「……ふざけたこと言うなよ。殺されたいの? それより俺の命令を真面目に遵守する気があるなら話戻していい?」
「え、あ、うん」
美形のジト目にそう反射的に頷けば、兄さんは何やら懐からスマホを取り出して地図を見せた。
いやあるのかスマホ、この世界。
「さっき言ったけど、ヘイゼルには地下闘技場に行ってもらう。ここ、この国の首都ね」
スマホの画面にはどうやらマップアプリが起動してた。覗き込んで、うーんと首を捻る。
なんか大陸の形とか配置とか、全然知らん世界だ。やっぱりここ異世界なんだな〜。
世界地図の中で、現在位置を示す青い丸が大陸の真ん中でぴかぴか浮いてる。
「俺たちが今いるこの国はアイゼンバーグ。五大国の一つ。その辺境にこの家はあるわけ」
「ほうほう」
「で、アイゼンバーグの最大の有名観光地がここ、首都にある地下闘技場」
「……ほうほう」
「武器は自由、殺しもなんでもありの闘技場で、ファイターは命のリスクと引き換えに多額のファイトマネーをもらえる。で、観客は試合に賭けたりしつつ楽しむわけ。公営ギャンブルの一つだね」
「え、今兄さん公営って言った!?」
イカれてやがる、どこまでも。カジノ導入で揉めてた現代日本とは大違い。
なんで平然と人が死ぬ闘技場が国に公的に認められてんのよ。
やっぱこの世界、倫理がおかしーい。
お国の合法暗殺部隊、特殊清掃員なんてもんがあるあたりからイカれてるのはわかってたけど、にしてもおかしい。
「……この世界、当たり前みたいに人死にすぎじゃない?」
「そりゃ人はすぐ死ぬよね。脆くて弱いんだから」
「や、そういう話じゃないんだけどさあ」
まあいいや。一旦飲み込もう。
とりあえずこの国の人たちは人間が殺し合うとこを見て楽しむタイプの、古代ローマ人みたいな性格らしい。
で、今兄さんはわたしにそこに行けって言った?
「言ったよ。まあそんなすぐの話じゃないけど。大体三ヶ月後くらいかな。ジゼルが訓練のためにそこに向かうことになってるんだよね。だからヘイゼルにはその護衛に回ってもらう」
「は?」
「……我が家の伝統なんだよね。ある程度訓練を積んだら、一回一文無しの状態で闘技場に突っ込まれる。そこでSクラスファイターになるまでは家には帰れない。まあ実戦経験を積むための最終訓練ってとこ」
「あーえっとさ、やっぱりこの家頭おかしくない?」
どこの世界にかわいいかわいい娘をそんな血みどろ乱闘場に送り込む親がいるのか。
可愛い子には旅をさせよってこと? 旅ってか、死への旅だわボケ。
あーうん、もういいや。一回ツッコミ放棄。異世界転生ってほら、やっぱりその世界の常識に自分を適合させる過程が一番大変なわけじゃん? まあ努力努力よね。
この世界では8歳ロリを殺し合いにぶっ込むのも親の愛にカウントされる。オッケー、常識書き換え完了。
「うん、まあいいや。ジゼルが地下闘技場に向かう経緯は分かった。けどさ、なんでわたしが護衛なんてやらなきゃいけないの?」
「ジゼルはまだ魔術が使えないから」
というよりも、と兄さんの大きな目が瞬いた。
「ヘイゼルの仕事は、ジゼルが下手に魔術師に接触しないように裏からこっそり監視すること。父さんの教育方針では、今はまだジゼルには魔術は教えられない。けど、闘技場にはまあ、クソ雑魚とはいえちょっとは魔術が使える奴らも紛れてるわけ」
「あー、なるほどね。父さんはそんな奴らにジゼルがうっかり魔術を喰らって、魔力炉が点いちゃうのを懸念してると」
「そういうこと」
理解理解。つまりは過保護パパってことだ。
わたしたちに備わってる魔力炉は、普通の状態では勝手に点火されない。点火されるのは、他者から魔力による干渉があった時。
わたしが父さんに強引に点けられた時と同じ。
だからもし、ジゼルがうっかり闘技場で魔術師と戦うことになって一発でも攻撃を受けてしまえば、父さんの完璧教育プランが崩れる。それを防ぐためのわたし。
ジゼルが見えないところでこっそり魔術師とジゼルの接触を阻んであげる妹のやさしさってことだ。
うーん、やっぱり気づいたけど、この家でのわたしの扱いって本当にジゼルのための便利道具なんだな。
まあ別にそれはいいんだけどさー。ほら、やっぱり引きこもり生活もそろそろ脱してお外で遊びたい気分だし。
仕事とはいえ外出イベントに変わりはないもんね。
「うん、まあいいよ。大人しく命令を聞く。ジゼルにバレないようにこっそり付いていって、護衛するよ」
「聞くも何も最初からお前に拒否権はないけどね。……あ、それからジゼルが闘技場に向かうのは三ヶ月後だけど、ヘイゼルには明日にでも向かってもらうから」
「へ? なんで?」
わたしのその至極真っ当な問いは、兄さんに鼻で笑われた。クソ、美形でもムカつくもんはムカつく。
「ジゼルが到着するまでの三ヶ月で、Sクラスファイターになってきて。一旦Sクラスの立ち位置を獲得さえすれば、闘技場内では完全な特別扱いを受ける。つまり仕事がしやすくなるってこと。……ジゼルの護衛とヘイゼルの訓練が両立できる最高のプランだと思わない?」
「意義あり! こんなか弱い美少女がたった三ヶ月で血みどろ闘技場で上り詰めるなんてできるわけなくない!?」
「俺は出来るかどうかなんて問うてない。やれって言ってるの。意味わかる?」
きゅう、と兄さんの目が猫みたいに尖る。うわあん、怖い。
とりあえず命は惜しいのでガクガク首を振っといた。やだーまだ死にたくないー。
「了解です。兄さんの命は死にたくなくば絶対」
「わかればよろしい」
「うっす」
緊張のあまり、こんな激かわ少女から野球部の後輩みたいな返答がまろびでちゃったのは許してくれ。基本的に全部兄さんが悪い。
はー、まあいいや。難しいこと考えるのはやめよ。
とりあえずわたしはその地下闘技場とかに行って、ボコボコに敵を殴り飛ばして、Sクラスファイターとかいうのになればいいんだよね。
楽勝楽勝。ぶっちゃけこのまま家で毎日父さんにズタボロのボロ雑巾にされるより楽かもしれん。
お、そう考えるとやる気出てきた。よーし、第二の人生の修行パート、本気出していくかー。




