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スーパー美少女爆誕!

 地下闘技場? どこ? ていうか何?

 

 もしこれが漫画だったら頭上に大きなクエスチョンマークが浮かんでいることだろう。一体兄さんは何言ってるんだ。

 

 だいたいわたし、この世界のこと何も知らないんだよ? そんなわたしが単語ひとつ言われたところでわかるワケないでしょ。


 わたしってばちょっとビビるほど無知だからね。この世界がどういう文化レベルにあるのかも、政治制度も、ここが何ていう国なのかも知らない。


 うわ、そう考えると結構わたしまずいな。早いところ情報収集しないと。

 

 まあ今はそれはともかくとしてだ。

  

 兄さんや、わたしはまだ赤ん坊なのだよ。単独で外うろちょろしたら警察に預けられちゃう感じなのだ。ここの世界にまともな警察組織があるのかは知らないけど。


 まあ何が言いたいかっていうと、わたしそんな今から仕事できるほど成長してないんだよ。

 

 脳内でそう訴えかけると、思い出した、とでも言うようにポンと手を打つ兄さん。

 

 ……この人頭いいけど、頭悪いぞ。なんか一個のことに集中しちゃうと周り見えなくなるタイプだ。

 

「ヘイゼルは考えてること全部こっちに伝わってるの覚えてないの?人のこと言うのもおこがましいほどのバカだね」

 

 やめて兄さん!そんな生ゴミを見るような目で見ないで!ついでに手をナイフみたいに変形させるのもやめて! 何その魔術! 

 

 涙目で首を横に振りまくると、兄さんの目線が若干和らいだ気がした。つまり、殺気が乗った目から呆れたような目に変わった。


 まあそれがいいかどうかは別問題だ。けど命は大切だよ、何よりも。うんうん。

 

 そんなことを考えていると、少しだけ考え込んだ兄さんが、手のひらに魔力を込める。


 ゆるゆる流れるエメラルドグリーン。操作魔術、うん、そうだよね、え?

 

 ん?んん?待って、ちょっと待って?

 

 それ操作魔術だよね。さっき思考誘導はしないとか言ったよね。その舌の根も乾かないうちにまたその魔力をこっちに向けるってどういうことかな。

 

「精神操作魔術は使わないって約束しただけ。それにこの魔術は、別にヘイゼルを害するためのものじゃない。むしろこれ、喉から手が出るぐらいほしいものだと思うよ。今のヘイゼルにとっては」

 

 へ?何それ。


 害するものじゃないってことは、人間の精神を操作する用系のやつじゃないってことか。

 

 まあそんなのはどうでもいい。それよりもだ。

 

 わたしが喉から手が出るぐらい渇望してるもの。それはどういうことか。


 情報? 力? いや、ほしいものはいっぱいありますけど。むしろこの際なんだってほしいですけど。くれるなら。

 

「じゃあいいよね。動かないでよ」

 

 はあ?

 ちょ、待てや兄さん。やっぱりあなたアホでしょ。

 

 確かにくれるならほしいとは言った。でもそれ、安全の保証は? 


 そんなあやふやな状態でおとなしく魔術に掛けられるような従順な性格してないんですけど。まずどういうものなのか説明しろや。

 

 手を翳して近寄ってくる兄さんを避ける。何このデンジャラス鬼ごっこは。リアル鬼ごっこよりもリアルだよ、命の危機的な意味で。

 

とはいえ赤ん坊の足では限界があるわけで。数回かわすと、勢いよく間合いを詰められて腕をつかまれる。

 

「終わってから説明する。その方が早いし、わかりやすいでしょ」

 

 いや、だから終わってからじゃ遅いんだって。


 首を横に振って全力で嫌がるも、兄さんはそんなことを歯牙にもかけず、兄さんの手のひらがわたしの首根っこを掴んで、魔力が浸透し始める。

 

 いた!いった!何これすごい痛い!

 

 触れられたところから兄さんの魔力が浸透していく感覚がする。


 そしてさらに兄さんの魔力がわたしの体を変えてくるような感覚。それはもう、死ぬほど気持ち悪い感覚だった。いや、死ぬよりはマシだけど。


 骨が、筋肉が、血管が、引き延ばされるような、そんなイメージ。それが脳に意図せずとも浮かぶ。


 その痛みでわかった。兄さんが今わたしに施しているのは、肉体操作だ。

 

 痛みで思わず涙目になる。そのぐらい痛い。


 人為的な成長痛とでも言おうか。それも数年分を濃縮したような。

 

「うん、これなら問題ない」

 

 兄さんが満足げにそう呟くと同時に、身体中の痛みが引く。まだじんわりと痛みはあるけど、それでもだいぶマシだ。


 なんだよこれ。すごい害あるじゃん。何が喉から手が出るぐらいほしいだ。


 わたし痛いのが好きなドMじゃないんですけど。もしそう思われているならば誠に遺憾である。

 

 恨みがましい目で兄さんを見やりつつ、まだじくじく痛むうなじを触ろうと右手を伸ばす。


 ………およ?

 …………………およよよ?

 

 

 後ろに回そうと伸ばした手。それはつい数分前までは赤ん坊らしいぷにぷにの腕だった。


 でも、今は。

 

 細くてすらっとした長い、小学生ぐらいの子にありがちな腕。


 思わず全身を見る。


 さっきとは比べ物にならないぐらいしっかりして長い足。二足歩行とか余裕な感じの足。

 

 もしかしてこれって。

 

 声を出そうと肺に空気を貯めて、喉を震わせるイメージをする。

 

「あー、あ、え?」

 

 なんの問題もなく声が出る。さっきとは違う、自分の意思で制御できる声。


 ならば、それならば試してみなければ。

 

「イーゼル兄さん」

 

 一音一音ずつゆっくりと声を出す。

 すごい。話せる。

 

 話せる。そんなに確かに当たり前のことなのかもしれないけど、ここ数ヶ月ぐらい赤ん坊の思い通り声が出ない喉を味わってきた身からすると、それはとてもありがたいことだった。


 歩けるとか、手が自由に動くとか、もちろんそれも嬉しいんだけど、やっぱり喋れるというのはそれとは比較にならないほどの嬉しさがある。

 

「兄さん、喋れた」

 

 そう言いながら、兄さんに抱きつく。


 喋れた。自由に歩けるようになった。手先が器用に動かせるようになった。

 

 ごめん兄さん。本当にありがとう。

 

 普通に意識がある状態で、自分の思い通りに体が動かないのは思いの外辛かった。


 特に歩けないのは、声が出ないのは、自分の想像していたよりも堪えた。

 

 早く成長できないかなって思って、そのために毎日泣きながら魔術の練習をしていたって部分もある。


 そのぐらいわたしにとって体が幼児のままというのは辛いことだった。


 まあわたしじゃなくても同じ状況に陥ったらみんな困るだろうけど。

 

 やっと、思い通りに動く体を手に入れられた。


 あ、だから兄さんは喉から手が出るくらいほしいものって言ったのか。本当にその通りだ。

 

 多分兄さんはわたしが早く仕事できるようにっていう意味でわたしの身体を操作したんだろうけど、それでもその行動にわたしは救われた。


 これからあと数年は悩まされなければならなかったはずの問題が、こんな少しの間の我慢で解決するなんて。

 


「兄さん、ありがとう。本当に本当にありがとう。ずっと恩に着る」

 

 そう言いながらぺこりと頭を下げると、兄さんに不思議そうな目で見られる。


 むう、せっかく人が真面目に感謝してるのに。まったく。

 

「俺はヘイゼルがそのままの容姿じゃ仕事できないから、俺のために操作したんだよ?」

「うん、わかってる。でも感謝してる」

「ふーん、まあいいや」

 

 ちょ、兄さん。何がまあいいやだよ。もうちょっとちゃんと受け止めようよ。可愛い妹だろうが。


 しっかしまあ、我ながらかわいい見た目だ。


 壁に掛けられていた鏡に映る自分の姿をうっとり見つめる。まあ兄さんの爆裂美形からしてわたしも同じ血を引いている以上、お人形のような整った容姿をしていることは確定していたけど。それにしても。


 透き通った白い肌。肩口につくくらいの滑らかな黒髪に、紫色の瞳。日本人形みたいな見た目。


 かろうじてさっきまで着てた赤ちゃん用おくるみが身体に引っかかって全裸は避けられている。そんな扇情的な姿にも関わらず、全く見苦しくない。


 何故ならば超美少女だから。


 にしてもさすがにこの風呂上がりタオル一枚みたいな格好は良くないか、と考えていれば、兄さんから何かが投げつけられる。布だ。


 彼シャツならぬ兄シャツ。


「いいから早く着ろよ」

「はぁい」


 まあね、わたしもこの歳で露出に目覚める気はないからね。大人しく圧倒的オーバーサイズの黒のシャツを頭からかぶる。


 うん、とりあえずこれで公然猥褻で逮捕される見た目は回避した。


 ちょっと不格好だけど、まあひとまずはこれでいいよね。後でおばあちゃんあたりに新しい服を貰いに行こう。


 とりあえずこれで、わたしも晴れて一人で外に出掛けられる身体を手に入れられたわけだ。ふふ、と唇を緩めつつ、ふと考える。


 そういえばこの世界って、人攫いたちがそれなりにデカい徒党を組んで組織立って行動してるくらい治安悪いんだよね。


 そんな世界でこんな美少女がその辺を彷徨いてたら、大変なことになりそう。

 

 ほら、一般的に人身売買業界において、今のわたしって価値高いと思うんだよね。主に見た目的な意味で。

 

「人攫いねえ、誘拐だったらウチもやってるけど」

 

 兄さんが何気なくボソリと呟いたその言葉で、まさか誘拐もヘレンザックの守備範囲だったことが判明。

 

 まさかウチがやってるとは。恐ろしい。


 誘拐して依頼主に受け渡すってことかなあ。自分でゆっくり嬲り殺したいとか。うーわ、想像するとなかなかえげつない話だ。


 でもまあそういう場合もあるだろうけど、普通に奴隷として取引される場合もあるのかなあ。そう考えるとある程度強くなってからじゃないと単独で外歩くの怖いかも。

 

 うーん、やっぱりスラム街みたいな治安悪い場所あるのかな。どうなんだろ。


 うわ、何度も思ったけどやっぱりわたし何も常識を知らないなあ。

 

 むう、さすがにいつまでもこの状態だったら仕事云々以前に、死ぬ未来しか見えないよ。変な場所に迷い込むとか、うっかりマフィアに喧嘩売っちゃったとか、何気なくやったことが犯罪行為だったとか。

 

 いや、暗殺って犯罪行為だけどね!?

 

 まあそんなことはどうでもいい。とりあえず今は、この身体を手に入れられたことを喜ぼう。

 


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