全ての暴露
少しうざったらしくなってしまいました。
イライラするかもしれませんが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
周りが一気に騒然とする中、私は未だ呆然と立ち尽くしていた。
おかしいだろう。
婚約者がいるのにも関わらず、ただのクラスメイトの少女の肩を抱くか?普通。
しかも私は、アースロット嬢がずっと影で努力してきたのを知っている。学園に最後まで残って、王子の伴侶としてふさわしくある為に勉強をし、模試で必ず上位三位を取り、作法もずっとずっと練習し続けたからこそ今の彼女があるのに…
その努力をお前無視するばかりか、他の女に触れるのか?
本来、婚約者がいる人間は婚約者以外の異性には抱きしめるなどの接触行為は禁止されている。兄弟などではない限り、それは絶対だというのに…
きちんとした教育もなっていないのか?
これは…ヘンリーよりも王子が悪い気がしてきた。
そもそも本当にヘンリーはアースロット嬢にそのようなことをされたのだろうか?
アースロット嬢は先程手違いだと否定していた。その様子はとても嘘をついているようには見えなかったのだけれど…そもそも彼女は嘘をつくような人間ではないし。
よし、介入してみるか。
「…発言の許可をいただきたいのですが…よろしいでしょうか。」
「嘘でしょう…?」「そんな事が」「いやしかし、王子は実際に」「けれど相手はあの…」などと言葉が飛び交う中、私は一歩前へ進み膝をつく。胸糞悪く抱き合う中悪いが、声は思ったよりも響いた。
「誰だお前は」
王子は胡散臭そうにこちらを見る。腕はヘンリーから解いたが、まだ半身がピタリとついたままだった。
「ラインフォード家の者でございます。」
にこりと微笑みながらいうと、何故かヘンリーが顔を赤らめた。
対して王子は顔をしかめたけれど。
「ラインフォード…聞いた事があるな。何だっけか。」
正直、おいおい嘘だろと思った。
私の実家は割と高位の社会で、それこそ家名を出せば誰でもわかっていたのに…
これから政治に関わるはずの王子が、何故知らないんだよ。
ここまで傍観してきていた王子のお気に入りの側近が慌てて近くに侍りこそこそと耳打ちする。
「ほお…?公爵家の…発言を許す。」
正直、こんな格好をしているから名を問われたら終わっていた。王子相手に嘘をつくことなどできないし。
この格好の方が、便利なんだよなと思いつつ腰を上げる。
「王子の寛大なお心に、感謝を。」
適当に褒めて微笑みながら口を開く。
「ハナ・ヘンリー様でしたよね?」
「はっはい、そうですっ!」
「アースロット様に、何か手酷いことをされたと。」
「そ、そんなこと…ないのですが、ぶたれたり悲しいことを言われまし、た…」
うるうると目を潤ませながら目を伏せるヘンリー。
口調はそれこそ控えめだけれど、男子がいる時は大抵こうなので判断材料には使わない。
「具体的に、どのようなことをされたか聞いても?」
「えっと、その…っ!学園で、一人の時を狙って嫌味を言われたり、口を開くとぶたれたりしました…!そして…お祖母様の形見である、テンピャオロンの香水を壊されて…。両方ともに、びっしょりと濡れてしまいました。この前なんて…」
そこまで言うと、ヘンリーは口を結び肩を抱く。
「階段から、落とされたんです…!」
それを聞いて、周りはさらに騒然となった。
打つくらいならばいいが、命に関わるようなことなので重要なのだろう。
まあ、皆半信半疑だけれど。
身分的には同じである公爵家のアースロット嬢の方がヘンリーよりも上だけれど、王子の目にかなっているのはヘンリーだからと媚びへつらうものも出てくるだろう。
「ふむ…それは、いつでしたか?」
「…昨日、です…!従者にドレスを受け取りに行かせているときを狙って裏門に続く階段から背中を押されました…!」
「背中を?」
「はい…っ、え?と思い後ろを振り返ったら、アースロット様がいらっしゃって…笑って、いたのです!私を落としたたいせいのまま!」
ふーん。昨日、ねえ…。
「お待ちください!私はそのようなことは…!」
「嘘を、つかないでくださいっ!ずっと陰でいじめてきたくせに…!」
アースロット嬢が弁明しようとするも、ヘンリーによって遮られる。涙目で訴えてくるヘンリーの方が、一見有利である。
ただまあ、今述べたことは残念ながら嘘なのだけれど。
うん。良かった、嘘で。これで心置きなくアースロット嬢をかばう事ができる。
「ハナ…!そんな事があったのかい?!すぐに言ってくれればよかったのに…!」
「だって、王子様はお忙しいかと思って…迷惑だって、思って…」
「傷は?どうしたんだい?」
「大丈夫です!幸いなことに、痣だけで済みました…!」
かたをがしりと掴み、詰める王子。それに対し、微笑みながら答えるヘンリー。
正門から豪勢な出迎いで登下校する王子は知らないと思うが、裏門の階段は一つしかなく、そして段差は高く数は多い。落ちたら確実に痣だけでは済まない。
証拠を作りやすい痣程度にしておいたのだろうけど、逆にそれが仇となっている。
「おかしいのですが。」
そう切り出すと、あたりが静まり返った。王子とヘンリーは、固まった。
特にヘンリーは、目を見開いてこちらを見ていた。
「アースロット様がヘンリー様を落とした、と言うことですが、その日、アースロット様は別の方と学園の外へいたはずです。」
そうなのである。
そして別の方というのは私である。
「う、嘘です!アースロット様はいらっしゃいました!だって、あの顔で笑ってらっしゃったのを、見たんですもの…!」
さめざめと、さらに泣きだすヘンリー。
それを聞きながらも、私はどこか冷めて見ていた。
「お前!黙っていろ!ハナが可哀想ではないか!」
「可哀想?何処が?むしろ僕は、アースロット嬢の方が可哀想だと思うけれど。ずっと努力してきたのに、こんな形で全て無に帰るだなんて。」
口調を崩して王子に刃向かうと、王子は真っ赤になって俯いた。
その隙にと言葉を続ける。
「ていうか僕は、アースロット嬢がヘンリー様を虐めているところを一度も見たことがないな。ずっと一緒にいたけれど、むしろヘンリー様がアースロット嬢を虐めていたよ。低俗だ、能面だ、可愛げのない顔だと散々バカにしていたね?」
全て暴露すると、周りはまた騒然となった。
因みに、いままで述べたことは事実である。爵位はヘンリー家の方が低いのにこのようなことを言えるのも、知能の低さが伺える。
今日初めてアースロット嬢の方を真っ正面から見ると、彼女は今にも泣き出しそうに震えていた。
大衆の面前で泣くまいと我慢しているのも、ヘンリーと違ってきちんと令嬢だった。
王子は…真っ青な顔をしていた。
赤くなったり青くなったりと忙しいねと思いながら言葉を続ける。
「あと、王子は知らないと思うけど、ヘンリー様の評判、女子の間では最悪だよ。婚約者がいる家族ばかり狙って散々男を取り替えてきたからね。しかも…」
「やめろやめろやめろ!そんな出鱈目を言うな!ヘンリーがそのようなことをするはずもない!ましては嘘をつくことも…!」
「でも現にヘンリー様は嘘をついているだろう。なんなら確かめてもらってもいい。僕達は昨日まで、共にヘルスの国まで旅行に行っていたのだから。今朝ここへ着いたんだよ。」
ヘルスの国ならば権力に従って嘘の証言をすることもないだろう。そこはあの国を信用している。
というか、ヘルスはこの国よりもはるかに発展しているので王子に従うメリットはない。
ほんとうに私達はヘルスへ旅行に行っていたので、ヘンリーは嘘をついている。
それか、アースロット嬢によく似た人物の仕業である。学園のある程度練習を積んだ者ならば、魔法で姿を変えることができるので、変身魔法かどうかまだ見分けられないヘンリーは見事に勘違いをしたこととなる。
「共に出かけたというのなら、それこそ不貞ではないか!ハナよりも、アースロットの方が下劣で、生意気だ!」
「…まだ気づかないの?」
「なっなにを…!」
「王子もアースロット嬢は学校では見たことがあるだろう。その時側にいつもいたのは男だったか?この顔だったか?先程僕はずっと一緒にいると言った。いくら仲が良いとはいえ、婚約者のいるアースロット嬢のそのような行為を、両家が許すと思うか?」
そんな事もわからないのか…?
「お久しぶりですわ、私の名は シャロン・ラインフォード。女ですの。」
言い始めと同時に髪につけていたウィッグと簡単な補正魔法を解きカーテシーをして微笑む。
今まで男の格好だったのである。
女2人の旅行は危険だと聞いたので、私が男の格好をして行った。急な招待だったものだから急いで帰ってきたというのに、このありさまか。
「な…お、おんなっ…!しかも、シャロン様…?!」
おや、私を認識していたんだ?
どうでしたでしょうか。自分ではあんまりです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。