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魔人バラクロア  作者: ASD(芦田直人)
第2章 王国軍登場
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第2章(その2)

 ところで、そんなさなかに当のリテルと魔人の最大の関心事といえば、全然別のところにありました。

「お腹すいた……」

 洞穴の広間の片隅にちょこんと座り込んだまま、リテルは思わずそんな風に呟いてしまいました。口に出してしまってから、しまった、と風に顔を赤らめるのでした。

 ここのところ、彼女の食べるものと言えば、魔人がどこからか拾ってきた、見慣れない木の実ぐらいしかありませんでした。山のふもとのどこかに果樹なり何なりが豊かに実っていたりするようであれば、そもそもリテルの村だってそこまでひもじい思いをすることもありません。そんなわずかばかりの不味そうな木の実も、魔人がわざわざリテルのために遠くまで出向いて探してくれているに違いありませんでしたが、人間のようにものを食べるという習慣や必要がそもそも存在しない魔人に、彼女の口に合うものをもっとよく探せと迫るのも、図々しい話だと言えたでしょう。

 魔人にしても、いつまでもリテルをここに置いてはおけないので、いい加減どこか人の多い遠くの街にでも彼女を連れて行った方がいいのでは、と思いもするのですが、そうやって一人見知らぬ地に放り出すのも無責任な話ですし、リテルも村であんな騒ぎになってしまったとは言え、遠くこの地を離れゆく気も更々無いようで、当面彼女がここに身を寄せているのを、魔人としてはやむを得ず容認するより他にないのでありました。

 とは言え……それならそれで、やはり彼女の分の糧食は、どうにかして確保する必要がありました。

 それこそ、遠くの街で買い求める、というのもひとつの手でしたが、リテルもそんなお金を持っているわけでもありませんでしたし、魔人は魔人でお金を渡して商品を受け取る、というような人間の世界の細かい作法にはまるで疎く、何にせよ二人とも話になりません。

 いっそリテルを村に送り返すのが一番なのでは……とも思うのですが、話を円満に解決するとなると、魔人の存在をどうにかして人々に納得してもらわないといけません。ところが事態は逆に、今のところ軍隊が出てくるなど、魔人がいればこその騒動になっているわけで……それはそれで、色々厄介な成り行きになりそうな気配がするのでした。

 そうこうしているうちに、ホーヴェン王子の命を受けた王国軍の一個中隊が、第一陣としてついに村にたどり着いたのでした。

 あとから一足遅れて合流するホーヴェン王子に代わってここまで部隊を率いてきたフォンテ大尉は、貧しい村の様子を一瞥し、さらには火の山と呼ばれながらもただの丸坊主の岩山に過ぎない、問題の山を遠目に見やって、やはり来るべきではなかったとひそかにため息をついたのでした。

 到着したころにはすでに日も暮れかかっていたので、大尉は部隊の兵士達に野営の準備を急がせ、村の者達には明日の夜明けを待って山へと探索へ向かう旨を告げ、ひとまずは一息入れることにしました。

 村人達はバラクロアの出現にすっかり怯えきっておりましたし、元より貧しい村の事ですから、兵士達を歓待することさえありませんでした。兵士達の方にもそれを期待するような空気もなく、ただ淡々と天幕を設営し、炊き出しをして腹ごしらえをして明日に備えて英気を養うのでした。

 そんな光景を……リテルははるか彼方の魔人の洞穴から、例の水鏡の術を通じてじっと観察していたのでした。兵士達が煮炊きするさまを思いがけず食い入るように見入ってしまって、慌てて首を振りました。それを物欲しげに見やるためにわざわざ水鏡を覗き込んだわけではなく、たまたま村の様子を窺おうとしただけだったのですが、そういうリテルの素振りを見ていた魔人が、横でぽつりと洩らしたのでした。

「そうか。人間の食い物なら、あいつらが沢山持ってきているんじゃないか」

 なるほど、と感心する魔人でしたが、リテルにはそれが何を意味するのか、瞬時には察知することが出来ませんでした。それは一体どういう意味なのかと問いただすいとまもなく、気がつくとリテルは魔人に連れられ、またしても村に舞い戻ってきていたのでした。

「えっ……ちょ、ちょっと……!」

「シッ、静かにした方がいい」

 今回は、自宅の戸口に置き去りにされたときとは違って、少年の姿をした魔人がすぐ傍らにいました。その魔人に制止され、リテルは思わず声を上げそうになった口を塞ぎました。

 みれば、彼女たちは兵士らが野営している天幕のすぐ間近にいました。部隊が物資を積んできた荷車の巨大な車輪の陰に、丁度隠れ潜むような位置に立っていたのです。

「よし、おれが見張っていてやるからな」

「ちょ、ちょっと待ってよ」

 唐突にそんなことを言われても、リテルは戸惑うばかりでした。


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