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魔人バラクロア  作者: ASD(芦田直人)
第6章 決戦のとき
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第6章(その7)

 戦いの火蓋は切って落とされました。無数の投擲を受けて、魔物どもはあっという間にばたばたと倒れていきましたが、全体から言えばごくわずかな被害でしかありませんでした。まだまだ健在な魔物の群れが、仲間が倒れてもまったく怯むことなく、不気味な雄叫びを上げて橋を渡り、あるいは渡河を続け、前進をやめようとしません。人間の側も、勇気を奮い立たせ、勝ちどきの声をあげて魔物どもを迎え討つのでした。対岸に群がる軍勢に対しての投擲は止むことはなく、橋を渡ってやってくる一群に対しては待ち伏せた弓兵による一斉射を浴びせかけ、その上で騎兵による突撃で蹴散らしてみせるのでした。魔物は一体一体は身体も大きく屈強でしたが、数で取り囲めば必ずしも絶対的な脅威ではありませんでした。

 ですが敵は人外の化物です。矢が脳天を貫いていたとしてもまるで気付いてもいないかのように平然としているような輩どもでした。まともに相手をしていてはきりがありませんから、騎兵達も数合打ち合ったところで、敵わないと思えばすぐさま馬首を翻すしかありませんでした。やがて連中がこちらの岸に辿り着いてしまえば、逆に投擲機も近過ぎて使えません。じりじりと引き下がっていかざるをえないのが歯がゆいところでした。

 そんな折でした。つい今しがた上空であのバラクロアと激しくぶつかり合っていたはずの魔人が、攻撃をひらりとかわしたついでに、その高度をぐっと下げて、魔物の軍勢の方へと降りていったのです。

 魔人は彼らの頭上すれすれの低い高度を保ったまま、両手を左右に広げました。すると、まるで鳥が羽根を大きく広げるかのように炎の幕がぱっと広がったのでした。

 まるで、身体に合わない長いマントをずるずると引きずるかのごとく、魔人は炎の幕をひきずったまま魔物どもの頭上をゆっくりと通過していったのでした。

 それはまさに地獄の劫火と言えたかも知れません。炎に巻き込まれた魔物どもはあっという間にその身を炎に包まれ、熱さにのたうち回る事となるのでした。大勢がひとところにひしめき合っているものですから、一匹が火に巻かれればあとは次々と燃え移っていきます。互いに助け合って火を消す、という知恵もろくに回らないのか、闇雲にのたうち回るばかりで隣で誰かが燃えていたとしても魔物どもは気にも留めないものですから、やがてはそんな炎が群れを伝っておのれの身を焼くまで、ただ漠然と行進を続けるのみでした。

 むろん、多少の火などものともせず……身体が炎に巻かれるに任せて黙々と進軍を続ける者も多くいました。そうやって燃えさかったままの軍勢が、川辺や橋にたむろっているさまは、一種異様なものがありました。

 バラクロアもそれを黙って見ているだけのはずもなく、魔人を阻止すべく低い高度まで降りて来ますが、魔人はといえばまるでそれをあざ笑うかのように、逆にひらりと上空へ逃れて行きます。

 誰の目にも、バラクロアが次第に苛立ちを募らせていくのが分かりました。上空に浮かぶ炎の魔像が、怒りに全身をわなわなと震わせ……いきり立って突然火柱を噴き上げたかと思うと、魔人に向かってそのまま力任せに二本の腕を振り下ろしたのです。その腕が自軍の魔物どもをなぎ倒すのもお構いなしでした。魔人はと言えば、そんなバラクロアの炎の腕を、きわどいところでひらり、ひらりとすり抜けては、折を見て魔物の軍勢の頭上に、大きな炎のかたまりをぼとり、ぼとりと落としていくのでした。

 魔人が散々に火をつけて回ったのと、バラクロア自身が怒りに任せて薙ぎ倒したのも合わせて、今や魔物どもの軍勢は総崩れに近いありさまでした。整然と行進していた軍隊は、いまや炎に巻かれ滑稽な素振りでのたうち回るあわれな亡者どもの群れとなって、ただ右往左往するだけに成り下がっていたのです。


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