第6章(その3)
「正直、おぬしに何かうまい手だてはあるのか」
「王都を灰燼に帰す事だけはせめて避けねば。それにホーヴェン王子殿下の身柄も」
「あれのことは、もうこの際よいのではなかろうかの?」
王太子までもが困惑顔で、ぞんざいにそのように言い放つ始末ですから、ホーヴェン王子の人望の無さが窺い知れるというものでした。
そこまでの話の流れには一切参加せずに、その場に黙って佇んでいただけのリテルでしたが、ルッソが意図的に魔人に関する話を避けているのは分かりました。封印云々もあくまでもホーヴェン王子が火の山にちょっかいをかけたのが原因で、その彼が討伐に熱を上げていた「魔物」が何者であったかなど、たくみに話題にならぬようにうまく話を誘導してさえいるかのようでした。リテルの知らない間に、道中どこかでこちらと連絡を取り合っていたのか、火の山での経緯はすでに王太子も把握しているようでしたが……。
ともあれ、結局ルッソと王太子の面談の中で、今後の具体的な方策について満足に話がまとまるでもなく、二人はその天幕を後にして引き下がるのでした。
「賢者さま、王太子さまに魔人さまの事を言わなかったのはどうしてですか?」
「結局魔人めに協力は拒まれてしまったわけであるしな。あの場で話題に挙げたところで、詮無きことだ」
それに、魔人について詳しい事が話題に上ったとして、そこでリテルが魔人と共謀して何事か企んでいたのだ、というような話が明るみに出てはリテルの立場が悪くなるので、ルッソがその辺りに配慮した、ということなのかも知れません。
「でも、誰かがあの魔王バラクロアとたたかうのだとして、やはり魔人さまの力は必要なんじゃないの?」
「私とて、無論それは考えたとも。個人的には非常に気に食わぬやつだが、力ある魔人であるのは確かだからな。だが今はともかく、先々に至ってもずっと人間の味方をしてくれるとは限らぬ。そのような者を迂闊に王都に近づけるわけにもいかぬしな。……それに、そなたが頼んで駄目だったというに、だれがどのようにあの魔人を説得するというのかね」
「それは……まぁ確かに、そうだけど。でもそうなると結局、ルッソさまがあのバラクロアと対決して、勝つしかないって事なのよね……?」
「うむ……そうなるな」
「もし負けちゃったら、どうなるの……?」
リテルがおそるおそる質問しました。それはひとたびあの魔王に敗北しているルッソにしてみれば屈辱的な問いかけでしょうが、彼女は何もそんな賢者の顔色を窺って遠慮がちに問いかけたのではないのです。その勝敗の行方に王国の未来がかかっているからこそ、むしろそれは問わなければいけない質問だったのかも知れません。仮に、苛立たしげに怒鳴り返してくるような者には任せられぬ大事な局面であるとさえ言えるでしょう。
「……たしかに、そなたがそのように不安に思うのも無理は無かろう。本当に賢い者はこのような無謀な勝負は挑まぬし、挑んだとして負けたときの事もしかと計算にいれておくものだ。……だが相手は魔王だ。誰にでも簡単に倒せるものではないし、過去の偉大な先人の力をもってしても封じ込めるのが精一杯だった、そんな相手だ。もし私以外に、そのようなものを相手にするにふさわしいものがいるというのなら、そのものに任せるべきであろう。だがこの私以外に他に適当な者がいないというのであれば、やむを得ぬ話だ」
勝つより他にないのだ、と悲痛な決意を、彼はリテルに示すばかりでした。
今のところ、バラクロアはすぐに王都を灰にしてしまおうというのではなく、あくまでも魔物の軍勢どもに攻め滅ぼさせようという腹づもりのようでした。となれば、ここでルッソがバラクロア自身に勝負を挑んで、これを打ち破る事が出来れば、たしかに人間達の側にも一縷の望みはあるという事なのかも知れませんでした。
けどそれは、決して簡単な事ではないのでした。




