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魔人バラクロア  作者: ASD(芦田直人)
第5章 若き賢人
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第5章(その2)

 代わって映し出された夜空には、禍々しい炎の帯が、暗闇にまざまざと浮かび上がっておりました。かすかに光跡を描いて飛び回っていたうちの一方が、今や巨大な火の玉になって夜空に我が物顔で悠然と浮かび上がっていたのです。

 ……それは丁度、先だってリテルを連れ戻すために敢えて村人達に姿を晒してみせた時の魔人の姿にそっくりでした。恐らくふもとの村人や兵士達がそれを見れば、ついに魔人が火の山を下りて、下界の民どもに今まさに襲いかかろうとしているのだ、という風に思ったことでしょう。

 それに対して、激しいぶつかり合いを繰り広げていたはずのもう一方は、変わらぬ小さな光跡のまま勢いを増すそぶりも見せず、それが互いに激突したところで、とても勝負になるとは思えませんでした。

 案の定、二度三度と衝突を繰り返すうちに、小さい方はついにはじき飛ばされ、山の斜面にかなりの勢いで突き刺さるようにして墜落してしまったのでした。

 空に残った巨大な炎の塊は、もやもやと人の顔のような形をかたどったかと思うと、まるで勝ち誇ったような笑い声を、下界に向かって遠慮なしにとどろかせたのでした。

 そんな炎の明かりに照らされた地上を見やると……一体いつの間に、どこから現れたというのか、異形の者達の大軍勢が、山裾の平地をわさわさと埋め尽くしていたのです。牛頭の屈強な巨人ばかりではありません。雄鳥のような立派なとさかを誇らしげに揺らすものや、巨大で鋭い牙や角を禍々しく輝かせるものなど、実に様々でした。首から下が人間と同じとは限らないものもいて、腰から下が馬や獅子の首から下の部分と似た形をしていたり、中には腕とも足ともつかない高々とのびた六本の節くれを地面に突き立てて、軽やかに地面をかけていく巨大な蜘蛛のような生きものもいれば、逆に蛇や長虫のように太く長いにゅるりとした身体をうねうねとくねらせて地を這うもの、背中にコウモリのような黒い翼をもってばさばさと忙しなく夜闇を飛来してくるものまで、その姿は実にさまざまで、それが次から次と現れてくるのでした。

「魔人さま、どうしよう……」

 リテルは水鏡の像を見つめながら、震える声でそのように呟いたのでした。隣にいる魔人も、困惑したような表情で成り行きを見守るしかありませんでした。魔人が王子を引き渡したおかげでこういう事態になってしまったことを思えば、リテルがうろたえている理由も分かりますし、何となく責任めいたものを感じないわけにもいかなかったのですが、さりとてあの場で老人の申し出を断っていたら、その時はあの軍勢がこの洞穴に押し寄せて無理矢理にでもホーヴェン王子を奪っていくような成り行きになっていたかも知れません。そうなれば魔人はともかくリテルなどひとたまりもなかったでしょうから、必ずしも王子を引き渡したという魔人の判断が間違っていたわけでもないとは思いたかったのですが……。

 そもそもがリテルの身を案じての事だったのであれば、魔人をむげに責めたてるわけにもいきませんが、それでも異形の怪物の軍勢が向かう先には、リテル達開拓民のあの村があるのです。それが今まさに軍勢に踏みにじられようという、とても見ていられない光景でしたが……いざとなれば魔人もそこに赴いて、軍勢を食い止めなくてはならないことになるやも知れませんでした。なので、リテルが心配のあまり目を背けた後も、魔人は水鏡の前に張り付いて、事の成り行きを見守っていたのでした。

 これら一連の出来事に対して、フォンテ大尉の判断はある意味非常に素早く、かつ的確であったと言えるかも知れません。不可思議な雷撃に行く手を阻まれた奪還部隊が這々の体で村へと逃げ戻ったかと思うと、夜空にあの炎が浮かび上がったのちに異形の怪物どもの軍勢が村へと下ってくるのを見て、村を死守するでも山に残された友軍を救援するでもなく、早々に村からの退却を決め込んだのでした。

「し、しかし大尉! あれを見て下さい。やつらはおそれおおくも王子殿下の身柄を拘束し、これ見よがしに高々と磔にしているではありませんか。我らは敢えて斬り込んでいって、何とあっても王子を奪回し申し上げるべきではないのですか?」

「お前の言い分は分かるが、我らでそれを成功させることが出来ると思うか……?」

「は……いや、それは……」


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