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魔人バラクロア  作者: ASD(芦田直人)
第5章 若き賢人
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第5章(その1)

 果たして、そこに飛来した謎の光の正体は何なのか――魔人もリテルも、水鏡の向こうの景色をただじっと息を詰めたまま見守るより他にありませんでした。

 老人はというと、ふんと鼻で笑うと――笑った声が聞こえたわけではありませんが水鏡の像で見る限りはそうしたように見えました――ひとつ大きくかけ声を上げて、ひらりと跳躍したのでした。その場でぴょんと飛び上がったかと思うと、ふわりと空に舞い上がって……そのまま、風に吹かれる綿帽子のような淀みない軌道を描いて、ものすごい速度でもって、飛来してくる何かに向かってまっすぐに飛び上がっていったのでした。

 魔人は水鏡の像でその軌道を追いかけようとしますが、両者ともにかなりの速度で夜闇を切り裂くように飛来しているため、追尾するのに少々手こずっているようでした。やむを得ず遠景で像を捉え直してみると、夜闇に両者の光跡が、くっきりと浮かび上がっているのが分かりました。お互いそれぞれにものすごい速さで距離を縮めたかと思うと、次の瞬間、とうとう真正面からぶつかりあったのでした。

「……!」

 リテルははっと息を呑みました。火の玉同士が衝突したみたいに盛大な火花を散らしながら、両者は一瞬すれ違い、そのままものすごい速度で離れていき、そしてお互いゆっくりと弧を描いて……また再び、お互いまっすぐにぶつかり合う軌道に復帰していくのでした。

 そのまま二人の光は、幾度か同じ事を繰り返しました。そのたびに激しい火花が散って、それこそ花火のようなまばゆい火の粉が夜の空にぱっと咲き開くのでした。

 とは言え、それは決して楽しげなものではなく、お互い死力を尽くして激しくせめぎ合っているのに違いありませんでした。その力づくのぶつかり合いは、最初のうちは両者ともに互角のように見えましたが、徐々に片方がその勢いを失っていって、少しずつ速度を緩めていきます。逆にもう片方はその輝きをより増していって、そのうち互角のぶつかり合いから、一方的に攻め立てるように、やたらめったら激しく衝突を重ねていったのです。

 その光の攻防にしばし見とれていたリテルですが、ふと地上に残されたホーヴェン王子と王国軍の方をみやると、今しがた雷に打たれて薙ぎ倒されたはずの兵士達が、何とか立ち上がって体勢を立て直し、王子を奪回すべく例の牛頭の怪人に相対しているところでした。

「……増えてる」

 リテルは唖然として息を飲みました。震える声で思わずそう呟いてしまったように、いつの間にか牛頭怪人はあの二体ではなく、数が増えて全部で五体になっていたのです。仮に王国軍の兵士達の方が数で勝っていたとしても、彼らは稲妻の攻撃を受けてやっとのことで立っていたのに対し、牛頭怪人達はそもそもの体格が大きく兵士達を上回っており、ただ両者向かい合っているだけでも、見るからに王国軍の方が劣勢に見えたものでした。弱々しく剣を構えてどうにかこうにか、王子を連行する曲者どもを包囲してはみましたが、牛頭の怪人達はその場でいかにも恐ろしげな咆吼をあげたかと思うと、それこそ猛り狂った逞しい雄牛の群れのように、兵士達に突進していったのでした。

 優劣は見るからに明らかでした。ホーヴェン王子はいつの間にか手足を荒縄でぐるぐる巻きにされ、芋虫のように身をくねらせるくらいしか身動きのとりようが無くなっていましたが、そうやって往生際悪くもがく王子を、一頭の牛頭怪人が太い腕でがっちりと押さえこんだまま、まるで王国軍の兵士達に見せびらかすかのように高々と掲げるのでした。あきらかに、奪い返してみろ、と言わんばかりでしたが、王国軍の兵士達は果敢に立ち向かっていくどころか、猛牛の突進にただ蹴散らされるばかりでした。剣などあってもまるで刃が立たないとはこの事です。牛頭の巨人達は皆素手でしたが、その腕を少しばかり振り回しただけで、まるで巨大な丸太棒を軽々と振り回しているかのような具合でした。剣など簡単にはたき落とされてしまえば、兵士達は平手で払いのけられるか、つまみ上げられてそのままぽいとどこかへ放り投げられるか……巨人にしてみればちょっとした所作に過ぎないのでしょうが、人間達は散々振り回され叩きのめされて、這々の体で逃げまどうことしか出来なかったのです。

 そして、気がついてみれば人間達はもはや逃げることも適わなくなってしまったのでした。最初は多勢で無勢の巨人達を取り囲んでいるつもりだったのに、気がついてみると地面に這いつくばる彼ら兵士達のまわりを、一体どこから現れたのかそれまでに数倍する頭数の牛頭どもがすっかりと取り囲んでいたのです。

 その後兵士達がどうなったのかは、むしろあまり見たくなかったかも知れません。怪人達は一斉に兵士達に掴みかかり、軽々と持ち上げたかと思うと、手や足の先をそれぞれ別の怪人同士で掴んで、互い違いの方向に向かって力任せに引っ張るのでした。あわれな兵士が苦悶の叫びを上げたところで、リテルが水鏡の像から目を背けてしまったので、魔人もそれ以上その光景を映し出すのをやめてしまったのでした。

 代わって映し出された夜空には、禍々しい炎の帯が、暗闇にまざまざと浮かび上がっておりました。かすかに光跡を描いて飛び回っていたうちの一方が、今や巨大な火の玉になって夜空に我が物顔で悠然と浮かび上がっていたのです。


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