第3章(その4)
ホーヴェン王子は兵士達に向き直ると、口を開きました。
「お前達のことを悪く言ったことは、申し訳なく思うぞ。考えてみればこの俺も、貴様らをただあごで使うばかりで、ここで座して色好い報告を待つばかりというのも、何ともふがいない話ではないか。……どれ、決めたぞ。次はこの俺自身が、先陣を切ってあの火の山へと攻め上ろうではないか。お前達、無論この俺に付いてきてくれるよな?」
この言葉に、兵士達は正直、またあの山へ行って同じことを繰り返さねばならないのか、と内心うんざりしたのですが、それを顔色や声色に出してしまうわけにもいきません。誰が先頭に立ったところで結果は同じではないか、と誰しもが思いましたが、もはややけくそとばかりに兵士の一人がときの声を上げると、他の者も同様に声を張り上げるのでした。そんな彼らの内なる思いなど知りもしないままに、ホーヴェン王子は一見実に勇ましいこの光景をみやって、実に満足げに頷いたのでした。ただ王子の傍らに立つフォンテ大尉だけが、諦めたようにそっと首を横に振るばかりでした。
折しもその翌日には、糧食などの補給物資ともに、増援の兵士達が村にたどり着きました。彼らを部隊に加え、いよいよホーヴェン王子自身が陣頭に立って、火の山に攻め上る時がやってきたのでした。
「皆の者! 俺に続け!」
一人威勢のよい王子と、もはややけくそになった兵士達とが、火の山の斜面をがむしゃらに駆け上っていきます。そこに戦術などという高尚なものは何もなく、ただひたすらに無為無策な猛進でしかありませんでした。さすがの魔人もこれにはうんざりといった態度を隠そうともしません。
「な、この先頭の暑苦しいやつを燃やしてしまえば、それで終わりなんじゃないのか?」
「ええと……気持ちは分からなくもないけど、それは絶対にだめ。この人はこうみえて、とても偉い人なんだから……」
リテルも困惑気味に、そう返すしかありませんでした。
ともあれ、増援を得て頭数が増えたこともあって、火の山へ攻めてきた王国軍の勢いは過去にない、最大の勢いでした。魔人にしてみればこれをいっぺんに焼き払って無に返す事は簡単だったかも知れません。しかし適当に追い払うには兵士の数も多く、リテルが水鏡を覗き込んであれこれと指示を出そうにも、どうにも追いつきませんでした。もちろん魔人とて全部が全部リテルの言いなりというわけでもなかったのですが……焼き殺さないように加減するのが、これが存外に魔人には難しかったのです。炎をかいくぐって、徐々にではありますが兵士達は洞穴へと肉薄してくるのでした。
とりわけ、目覚ましい働きを見せていたのがホーヴェン王子その人でした。彼自身は部隊を率いてはいるものの軍人ではなく、厳しい日々の訓練をおのれに課しているというわけでもなかったのですが、その身体能力には決して不足はなく、何より熱意だけは暑苦しいまでにみなぎっておりましたから、言葉のあやではなくそれこそ実際に、突撃の一番先頭にいたのでした。本来ならば、いくら兵士達を鼓舞するためとはいえ、途中の適当なところで後ろに引き下がってもらって一向に構わない、いやむしろ個人の資質はともかくとして王室の一員であることは間違いなく、その身に何かあれば周囲の者達にしてみれば責任問題にもなりかねませんから、そのような迂闊な行動は慎んでもらいたかったのですが……そのような事をきちんと顧みてくれるような御仁ではありませんでした。
「大尉! 王子が危険です。お引き留め申し上げねば!」




