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魔人バラクロア  作者: ASD(芦田直人)
第3章 魔人討伐
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第3章(その3)

 そんな中、今日も兵士達はまるでそれが日課であると言わんばかりに、火の山へと送り出されていくのでした。

 彼らの中でも、こんな事を繰り返すだけ無駄ではないのかと思い始める者は当然ありまして、そういった思いが日増しに他の兵士達にも広まっていくのは避けられない事だったのかも知れません。魔人の住処と思しき洞穴の存在は早くから明らかになっているというのに、そこをいざ目指すとなると丸坊主の山をただひたすら登っていくしかないわけで、魔人ならずともいくばくか見張りの目を置くだけで、接近は容易に知れてしまうのでした。

 そうやって気付かれてしまえば、あの火柱がいつどこから襲ってくるのか分かりません。今のところ幸か不幸か兵士の中には死者や重傷人は出ていませんでしたが、すでに村の少女が犠牲になっていることもあり――これはもちろんリテルの事で、言うまでもなく彼女は本当は無事でしたが――魔人が兵士達のことを煩わしく思うのであれば、あっという間に灰に変えてしまうことも恐らくは全く難しいことでは無かったのでしょう。いつそんな風になるのか分かったものではない、というような事を考えると、兵士達も心穏やかではいられないのでした。

「バラクロア様、兵隊さんたち今日も来てるわよ」

 水鏡を覗き込んでいたリテルがそう言いました。近頃は村の様子を観察するのはすっかり彼女の役割で、今や大事な日課となっていました。もちろん水鏡の術自体は魔人でないと使えないのですが、ここ数日はいちいち見張っているのも面倒になってきたので、村やふもとの様子が大体分かる位置を大雑把に映し出しっぱなしにしておいて、それをじっと見張るのはリテルに任せきりになっていたのです。

 リテルはリテルで、与えられた仕事に対しやけにはりきった様子でした。無理もありません、王国軍の兵隊達が村に長く留まれば留まるほど、彼女にとっては――村人達にとっては都合が良いわけですから。

 火の山に向かってくる兵士達は何度でも撃退しなければなりませんし、さりとてもう二度とかかってくる気になれないほど、完膚無きまでに叩き潰すわけにもいきません。兵士達に戦死者が出たりということはリテルのもっとも望まないところだったので、魔人にしてみれば加減の難しいところでした。そんな魔人に対して、手加減の具合をあれこれと細かく注文をつけていたのがリテルだったのです。

「……いっそ一人残らず焼き払う方が、おれとしては楽なんだけどなあ」

「駄目。そんなのは駄目」

 リテルに言わせれば、相手がこの洞穴にたどり着く、丁度ぎりぎりの惜しいところで追い返すのが一番なのでした。魔人にしてみればそのように細々と気を配るのも実に面倒くさいものでしたが……次第に、どのくらいの勢いの炎をどの位置に出せばよいかなど、その都度事細かにリテルが横から指図するようになっていったので、魔人は言われるがままに従うばかりでした。

 そういった諸々に付き合わされる兵士達も気の毒と言えば気の毒ですが、リテルだって悪意があって執拗に兵士達を痛めつけているつもりでは全然なくて、ただ村への兵士達の滞在が一日でも長引けば……その間村人達が食べる物に困りさえしなければ、とただそれだけを考えて、彼女なりに精一杯に頑張っているつもりでした。

 その一方で、リテルがそのように頑張れば頑張るほどに、苛立ちを日増しに募らせていくのがホーヴェン王子その人でした。

「所詮、地方の駐留部隊の実力なんぞこんなものということか……ううむ」

 そのように諦め顔で吐き捨てた言葉に、あきらかに色めき立ったのが、下々の兵士達でした。

「何を申されるか!」

「殿下のような高貴なお方のご発言であっても、そればかりは聞き捨てなりませぬ!」

 彼らにしてみれば、徒労に等しい「火の山詣で」を命じられるがままに仕方なく反復しているというのに、命令を下している当の本人からそのように言われてしまっては、立つ瀬がないとはまさにこの事で、腹を立てるのも無理はありませんでした。彼らの紛糾の声の中から明らかに不敬なものが飛び出してくるよりも前に、フォンテ大尉は部下達を制止し、王子に向かって言いました。

「確かに結果が伴わぬことは認めましょう。しかし兵士達の意気は依然として揚々たるものですぞ」

 それだけ、相手の方が手強いのですよ――とここぞとばかりに話を部隊撤収の方へと持っていこうとしたフォンテ大尉でしたが、そう都合よくはいきませんでした。


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