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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ボクが好きなヒーロー

『やめてよ!』

またこの夢だ。

小学3年生のとき、ボクは男子からトイレで水をかけられたり、廊下でわざとボールを当てられたりしていた。ボクは何もしてないのに、なんでこんなことをされるのかわからない。学校の先生に相談しても、お互いがふざけあっているだけ、と取り合ってくれない。学校に行くのが怖い。居場所もない。それがまだ夢の中でフラッシュバックされる。ただただ悔しい。その他の言葉は出てこない。


しかし、この悪い夢にはまだ続きがある。

『やめろよ!』


こんなボクを助けてくれる男子がいた。彼だけは体を張って男子たちからいつも守ってくれた。それが(あらた)だった。こんな格好いい男子を好きにならないわけない。


でも、その気持ちを声に出していうことはいまだにできていない。


新とは小学3年生で同じクラスになったときに、ボクの隣の席だったのでちょっと仲がよくて、話をよくしていた。その次の年になってから始まった理不尽な仕打ちは、新が止めてくれた。その4年生からは偶然か、先生たちの意図かわからないが、卒業するまでずっと同じクラスだった。だから、不安や怖いと思うこともだんだん少なくなってクラスの教室の中で過ごせるようになった。


そんな彼との出会いから、ボクたちは早くも高校3年生になっていた。

ボクは周りの人間関係をリセットするために中学から私学の学校へ。新も進学校といわれている私学の学校に通っている。ボクも新も通学で同じ駅を利用するので、家から駅まで、毎朝一緒に登校していた。



ある朝、新は「ふー・・・」ため息をひとつついて、

「あー、恋愛してー」とつぶやいた。

ボクは水分を口に含んでいたら、ブフォっと噴き出すところだった。

「な、なんでいま?」


「男子校に出会いなんてないからな」

新もセンシティブな年頃の悩みをぶつけてきた。

だが、これで何度目かわからないセリフだ。

「それは入学する前から言ってるじゃん。」

ボクも何度言ったかわからない、いつも通りの返しをする。

「そーなんだけどさ・・・」

新はなにかブツブツ言っている。


「中学のときの友だちは?」とボクは続けた。

「・・・いまいち。」何か言いにくそうな新の口調。

「何人も告られたって言ってたのに?」

新が中学の時もやはりモテたことは知っている。本人が全部話してくれたから。

「だから、いまいちなんだよな」

ボクは中学校から私学だから、新はボクの知らない人とも接しているはずなのに。

それでも新はずっとこれまで、“いまいち”以上の人をいうことはなかった。


「じゃあ、どんな人がいいの?」

ボクは新の心の少し奥を覗いてみたかった。ちょっとした怖いもの見たさに。

「そうだなー。美人っていうよりかはかわいい感じで、守ってあげたいタイプ?」

という新の言葉に「ふーん」とだけ答えたが、ボクの心は騒いでいた。


「そういう(いつき)はどうなの。好きな人とか」

「ふぇ?!」

まだ胸がドキドキしているのに、新がボクの恋愛のことを聞いてきて驚いた。

「好きな人、いるの?」と新はもう一度やさしく尋ねてきた。

「・・・い、いないわけじゃないけど」というのが精一杯で。

「ふーん」と新もボクと同じ返事をして、それ以上は聞かなかった。

それからボクは、新はどんなことを考えているのかわからないまま、顔が真っ赤にほてっていて、駅へ着くまで、まともに新の顔を見られなかった。



それから2週間がほどたって、横を歩く新は朝から気だるそうな顔をしている。

「どうしたの?」とボクが心配にもなるくらいに。

「いや、樹にいうほどでもない話」という新の目は笑っていなかった。

「そっか。でも何かあったら話してくれたらいいからね。

 それぐらいしかできないけど。」

本当に新にできることってそれくらいしかなかった。小さい頃から新には感謝している。だからこそ何かお返しができないかと考えてみるも、何もできない自分を憎んだ。


しかし次の日の朝、早速ボクは新からの相談を受けることになった。

「最近、同じクラスのヤツが手を触ってきたり、後ろから抱きついてくるんよ」

これを耳にしたボクの体に電流が走った。

「あと、『ダメとわかっているけど好きだ』って言われた」

さらなる追撃があった。

「って、樹に言っても仕方ないよな。ごめんごめん」と新はそういうが、

ボクは本当に何を言えばいいのか、言葉が見つからないまま駅についた。



それから学校では、午前中は授業にまったく集中できなくて、上の空だった。

―新は中学だけじゃなくて高校でも人気なんだな。顔も性格もいいし。

 けど、あの反応を見ると、ボクの気持ちは伝えない方がいいな。

ボクが好きな新のタイプの人ってこの世の中にいるのかな。


お昼休みの食堂で、「はぁ」と考えれば考えるほど(かな)しい感じになってくる。

「どしたー、いつきー? 見えてるー?」

ボクの目の前で、悠里(ゆうり)が手を振っている。

「見えてる。」

ぶすっとした顔で返事をした。


「また、彼氏の話?」悠里はボクの相談に乗ってくれるありがたい女子の友人。

よく新の話をしているせいか、いつの間にか彼氏と言われるようになった。

新は彼氏ではないとツッコミを入れるのも、もう諦めている。

「まーね」と抑揚のない言い方をするボクの気持ちも、悠里は当然知っている。


朝の話を、そのまま悠里に説明した。

「でもさー、告った人も相当勇気出したよね。ふつうダメってわかってんのにさ。

 その後も、クラス一緒なんだから絶対気まずい関係になるわけじゃん」

「まあそうだね」

悠里の話していることは十分理解できた。


「で、樹はいつ勇気出すの?」と悠里は意地悪そうな笑みを浮かべてボクにいう。

「まだ言わないでおくよ」とボクがいうと、

「じゃあ、いつやるの? いますぐでしょ!?」

とテレビのCMでみたようなフレーズとポーズをとってそそのかせてくる。


「正直、彼氏は樹のこと好きなんじゃないかなって思うなー。」

急に悠里が真面目に語りだした。

「なんで?」

「樹がきいた彼氏の好みのタイプにあってるもん」

「どこが?」悠里の言葉を全く理解できなかった。


―美人っていうよりかはかわいい感じで、守ってあげたいタイプかな

新は確かにこう言った記憶が鮮明に残っている。


「樹、まず当たり前だけど美人じゃない」と悠里にバッサリと斬られる。

「ひどっ、それはそうだけどさ」

「ま、かわいらしさはあるんじゃない」と、お情け程度のフォローをしてくれた。

「そうですか。全然うれしくない」

「でも守ってくれてるんでしょ。いまも家から駅まで」

「うん・・・」

「じゃあもう決まりじゃん」

「そうかなあ。小4から一緒にいるってだけじゃん」

「幼なじみは立派な出会いなのよ!? 私にはそんな人いないから!

 あんたの相談に乗るのも大変なんだから! 早く告ってしまえ!」

悠里はボクの優柔不断なところに火がついたのか、

完全に我を忘れて取り乱している。


―ありがとう悠里・・・

と心の中でお礼をいい、荒れている彼女をおいて、そっと食堂を後にした。


ただ、『いますぐでしょ』といわれても、そのきっかけがなければ素直に言えない。でも、ボクの中に気持ちをとどめておくよりは、いっそのこと思いを明かしてしまいたいと思う気もする。



一方の新は新で、例の告白のことを樹に話してから悩んでいた。

例のクラスメイトは、私的なことでは一切関わってくることはなかった。それはそれで潔くていいと新は思った。だがしかし、彼は嫌な予感がしているのであった。


彼が自分の悩みを打ち明けたとき、明らかに樹は動揺していた。

それもそうだろう。新自身にとっても、まさか自分の学校内で告白されるなんて、微塵も考えたことがなかったのだから。

樹は小学3年生からの付き合いである。彼が樹と仲良くなってから、

「オレはこいつを守るんだ」という固い意志で過ごしてきたのに、

樹を不安にさせたことに後悔した。


―樹の好きな人ってどんな人だろう。あいつの学校にいるのかな。

そんな考えが一日中、彼の頭の中で堂々めぐりをしていた。



翌朝、ボクは新といつもと同じように駅まで一緒に登校をした。新はの学校は期末考査の1週間前に入った。駅に着くまで、ボクがいろんな問題を出して新がそれに答える。この勉強法が意外と新の頭に入っていくらしい。もちろんボクにも勉強になる。ちょっと難しい内容だけど。


「新は進学でしょ、第一志望どこなの?」

この期末考査が終わったら、あとは入学選抜が待っている。


「うーん、旧帝大のどこか受けろって言われてるけど、あんまり興味ない。」

そんなレベルの高い話だとはボクは思っていなかった。


「理学部か農学部のあるところかな。樹はどうすんの?」

「ボクはエスカレーターかな。」いわゆる内部進学である。


「ちょっとチャレンジで一次共通試験受けたら?」と新が言った。

「うちの学校で受けるのって本当にトップ層だけだよ。」

謙遜でも何でもない。ボクの学力は学校全体のど真ん中。凡人の中の凡人である。


「そうかぁ。まあ、エスカレーターでもそれなりに名前ついてるし。

 中学受験で頑張ったもんな。」

「それほどでもないよ」

「じゃあオレ、志望校いま決めた!」と新はいきなり大きな声で宣言した。

「はい?」

「いま決めたんだよ。」

「そんな簡単に決まるの?」ボクは少し不安になったが、

「考えてた進学先の1つだからね」と新はうれしそうにしている。

―新って、本当にずっと志望校決めてなかったのかな。


「樹、オレちょっと2月まで頑張るわ」と新は真剣な表情になった。

おおよそボクの手には届かないレベルなんだなと察した。

でも、どこが決め手だったのかははっきりとわからなかった。


それから、お互いが期末考査期間となり、一緒に登校しない日が続いた。

ボクも考査のための勉強をしないといけないし、それは新も同じだろうし。

ボクは進学についてはあまり深く考えなくてもいいけど、新はどうなのかな。

メールとかもしたいけど邪魔になると嫌だなと思って、

朝の「おはよう」のメールぐらいで控えている。

悠里にそう話すと、「単身赴任している仲良し夫婦か!」とまた荒れていた。


『新の邪魔にはなりたくない。』

それはそうだけど、いつも一緒にいる人が横にいないと淋しく思う。あと、一人だけでいるのがちょっと怖い。


―ボクは精神面でも新に守ってもらってたんだ。

 やっぱりボクは新とはずっと、ずっと、一緒にいたい。

 それだけは言いたい。ダメでもいい、嫌われてもいい・・・


気付いたらボクの目には涙があふれてきていた。

こんなにも熱い気持ちがあるのに、なんで言えないんだろう。

日が沈むのが早くなった薄暗い帰り道を歩きながら、ボクはぽろぽろと流れ落ちる涙をぬぐっても、ぬぐっても、しばらくは止めることはできなかった。



クリスマスも家族と一緒に過ごすという、欧米本来の正しい過ごし方しかしなかった。それはそれで充分幸せな日を迎えたわけだし。ボクの家にはずいぶん前からサンタクロースがやってこなくなった。きっと、サンタクロースはボクなんかより、もっと行くべき場所の方が多いんだろう。



それから年が明けて、毎年のように朝早くから、新と一緒に初詣に近くの神社へ向かった。新は大晦日もずっと勉強していたみたいで、少しテンションが高くなっている。


本社に参ったあとは、やはり、「おみくじ引こうぜ!」と早速新が列に並ぶ。

「去年なんだったっけ?」と新に言われ、財布の中に入れていた去年のおみくじを取り出した。

「えっと、2人そろって大吉だったね」新は自分と同じだったから間違いない。

「そうだったっけ!?」とカラカラと笑う新。

「この古い大吉のおみくじは帰りに結んで帰るからね」


さて、列に並んで数分で自分の番になった。

「よし。」と気持ちを静めて、生年月日から名前までを心の中で念じながら引く。

それが正しいおみくじの引き方かどうかはわからないけど。


出た串の番号は、

『四』。

―これは、絶対に悪い気がする。

出た瞬間に確信した。


そして「『四』でした」と神社の巫女さん(アルバイト)に見せて告げる。

「よくお参りでした」と渡されたおみくじの結果は、

『凶』。

―ですよねー。


予想通りの『凶』とかかれているおみくじをよく読んでみる。

『対人運 ― 自分の方から声をかけよう』とあった。

なるほどな、と思いながら新のおみくじはどうだったかが気になる。


「新は何だった?」肩を並べている新のおみくじを上から眺めた。

「『吉』だった!」と新はボクにおみくじを見せて言う。

「この神社のおみくじは結構辛口だから悪くないじゃん。」

「そうだな。で、樹は?」と尋ねられたので、ボクのおみくじを新に見せる。

「『凶』だった。去年まで大吉だったし、いまが底で、

 これから上がっていくと思うことにするよ。」

「そうだな。じゃあ、『恋みくじ』もやっておくか!」


これは毎年恒例ではない。むしろ新はそれに興味があったのかと少し驚いた。

「え、やる必要なくない?」

「でもさ、今年の3月で卒業したら、男子校から解放されるんだぜ?」

そう言われると、やはりずっと男子校という閉鎖空間から解放されたら、彼なりの恋愛をしたいんだな、とボクはそう解釈した。


「じゃあ、新だけすれば?」と興味なさげに伝えた。

「樹はいいのか?」と新から誘われたが、首を横に振った。

―恋みくじなんて、ボクには最初から関係ないしね。


「もう『凶』引いてるしね。ダブルで出たらどうしよう」と言い訳をした。

「じゃあ、オレだけ引いてみるよ」と言って、恋みくじに新は参戦しにいった。


おみくじを引いたと見えて、すぐに走って戻ってきた。

「ふっふっふ。『大吉』だぜー!」

と恋みくじの結果をピラピラさせながら帰ってきた。どうやらご満悦の様子。


『・出会い ― 運命的な出会いの御縁あり。』

『・恋愛 ― 周りから祝福される実り多き御縁となり。』

『・幸運の鍵 ― このみくじをお守りとせよ。』


なるほど、確かに良さそうな文面が書いてあった。

―運命的な出会いって、これまでの“いまいち”を超える人と出会える感じかな?


「出会いってやっぱり縁だよな。どこに縁があるかなんてわからないけどさ」

「そうだね。いい人が見つかればいいね」

ボクはいま、笑っている表情になっているかが心配だった。

それでも、新と一緒にいて楽しい時間だった。



元日以降は、また毎朝のおはようメールぐらいのやりとりに戻った。

成人の日を過ぎると、いよいよ入学選抜も始まるし、新もラストスパートをかけているんだという感じだった。

寝ようかと布団を自分にかけて、新はいまどうしてるのかと考えていると、ふといいことを思いついた。布団から飛び出て、携帯電話を手に取って衝動的に新にメールを送った。


『試験会場まで一緒に行ってもいい?』


少し時間が経って冷静になって思い返すと、

―あああ、やっぱり、やめておけばよかった!

ベッドの上で頭を抱え、左へ右へと体をゴロゴロさせながら嘆いた。

メールの返信はボクが寝るまでにはやってこなかった。


翌朝に起きてみると、深夜1時を過ぎたころに新からメールが届いていた。

「OK」だけのメールだった。

ボクはその2文字だけでも飛び跳ねるくらいうれしかった。



そして試験当日。電車に乗って試験会場へ向かう。これまでと同じように、『ボクが問題を出して新が答える』勉強法を最後までやることになった。

「試験前はこれだよなー。安定のルーティーンだわ」

新はそれが安心するらしかった。

「簡単すぎない?」

ボクのレベルではちょっと追いつかない内容だった。

「いいのいいの。基本でつまづいたら応用できないからね」


試験会場には時々刻々と近づいている。ボクが受験するんじゃないけど、何者かに心を握られているかのような緊張感が襲ってきた。新を見てみると表情は変わっていなかった。


試験会場の門が見え始めたところで、新から声をかけられた。

「樹」

「なに?」

何か忘れものでも思い出したんだろうか。

「手、出して」言われるまま僕は両手を出した。

「片手でいいんだけど」と優しく新が言うと、新も手を出してぎゅっと握手した。

「『樹パワー』もらった」

新は笑っている。でも何、そのパワーワード。

「そんなのないよ」

守ってもらってばかりのボクにそんな力があるとは思えない。

「オレには効くんだよ!もう8年の付き合いだからな。ちょっと安心した」

そう残して、新は1人、門の奥へと進んでいった。



帰りも同じように会場の門の前で待ち合わせて、一緒に帰途につく。

「テストどうだった?」

「普通。だけど『樹パワー』恐るべしだった」

「だからそんなのないって」

「でも、行きの電車の中でやった問題がいくつか出たわ。問題見る?」

「まあ見てもわからないと思うけど」と前置きをして、

理科の問題用紙を見せてもらった。


―見たところで化学とか生物とか覚えてないんだよね・・・


「あ、これはやったね」

確かに直接答える部分ではなかったけれど、関係性はあった。

「だろ?」新は胸を張っていう。


「あー! でも2か月長かった!」新は大きく伸びをして、

「でもとりあえずやることは終わったな。樹は2か月大丈夫だった?」

「うん、普通に定期考査を受けるだけでよかったからね」

「そっか」


「でもね・・・」

ボクはここで勇気を出すべき機会がきたと思った。

いまここで、あの泣いて家に帰った時のことを言いたかった。


「なに?」新はボクの方を見ている。

「ううん、やっぱりいいや」

なぜここまできて言えないのだろうと自分に腹が立った。


「なんだよ。気になるじゃん」

新は笑っているけど、ボクはまたも顔が真っ赤にほてっている。


しばらくお互いが黙ったまま一緒に歩いていく。周りは誰もいない。

ここはもうボクたちだけの空間。

でも、もう泣きそうなくらい、いっぱいいっぱいな気持ちにボクはなっている。



「ね、新?」声を震わせて呼んだ。そうだ、言ってしまえ、自分!

「なに?」

「いつも、一緒に、いてくれてありが、とう」 そうじゃなくて!

「おうよ。」

ボクが泣きそうになっているのはまだ新に悟られていないようだ。


「ずっと思ってたんだけど・・・」そう、その調子!

「なに?」

「これからも一緒にいてくれる?」やけに遠回しな言い方になってしまった。


すると新は、「そのために志望校決めたからな」と言った。

「えっ?」

受験した志望校とボクとどういう関係があるのか、よくわからない。

「樹を守らないといけないしな」

だからどうしてそういう考えなの?


「新・・・?」

ボクはどういったらいいのかわからなくなった。

だったらもう真正面から言いたいことを言ってしまえ!


「新、迷惑だったら言ってほしいんだけど」もう自棄だ。

「うん?」


「あ、新のこと、ずっと・・・好きだった」

・・・言えた。8年間の思いを言えた。

あとのボクはもう泣くしかなかった。


「知ってるよ。」

新は優しく声をかけてきた。

ボクは耳を疑った。知ってるって何・・・?


「ずっと一緒にいるんだからそういうことだろ?」

「そういうってこと?」

「オレも樹のこと好きだ」

「へっ?」

「オレも樹が、す・き・だ」

「それは友だちとしてでしょ?」もちろんそういうことだよね。

「ばーか。もう言わねえ」新は顔をそむけてしまった。


「だって、ボク男だけど・・・」恐る恐る新に問いかける。

「で?」

「『で?』っていわれても、新、学校で告られて断ったじゃん。」

あの時に、すごく動揺したことを鮮明に覚えている。

「断ったよ」

「男どうしだからでしょ?」 絶対そういうことじゃん。

「そうだな」 やっぱりそうじゃん。

「じゃあなんで?」ボクの頭の中は疑問符でいっぱいになっている。

「樹がかわいくて守ってあげたいタイプだからに決まってる。」

ボクに顔を見せないままで新はそう言った。

「ちょっと何言ってるかわかんない。」

もうどういうことなのか頭がこんがらがっている。


「好きになった樹が、男だったってだけだよ」

「・・・なにそれ」それ以上、ボクはもう新に聞かなかった。


「っていうか、オレの行動で気付かなかったのか?」

「わかんないよ」本当にどこにあったんだろう。

―新がもっと早く言ってくれればよかったのに。

とボクはちょっと思ったけど、新が悪いわけじゃない。


「鈍いなぁ。でもオレが告白されたときの樹の動揺ぶりは焦ったけどね。」

新もボクのことで不安だったんだ、と教えてくれた。

「あれのせいで新のこと諦めかけた」

思い出すだけでまた涙が止まらなくなった。


「でも、でも。気持ちは変わらなかったし。今日やっと新に言えた。」

「よく言えたね。えらいえらい」新はボクの頭をポンポンとしてくれた。

「あらたぁっ・・・」ボクは新の胸を借りて大泣きをしてしまった。


ひとしきり泣いたところで、新に抱きつこうとした。

新はボクのことを嫌がらず、そのまま抱きしめてくれた。

それが最高に幸せだった。



「じゃあ春休みに卒業旅行に行こう」新がそう提案した。

「2人だけで?」

みんなでワイワイ行くのもいいけど、今回は新とだけで行きたい。

「もちろん。」

「そっか」

ボクはうれしいような恥ずかしいような気持ちになっている。

「イヤ?」と新が聞いてきたので、

「ううん、うれしい。」と自分の気持ちを素直に答えることにした。



その2週間後、合格発表を新と一緒に見に行って、お互いにまた抱き合った。

ボクは絶対に楽しい旅行になると自信を持って、

着替えなどをカバンに詰めているところである。

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