正義の鉄槌
あそこには、ずっと昔にある王国があったんだ。今じゃあ、草も生えない荒れた土地だけどね。
その王国は千年以上の長い歴史があった。だが、崩れるときは一瞬だったよ。
国民たちが謀反を起こしたんだ。よくある話さ。
王家は、『ダイカ』という名を持つ一族だった。ダイカは白い髪に神秘的な金色の瞳を代々受け継いでいた。
彼ら一族は、とても誠実で才覚に恵まれていた。長い間、王国を護っていた。
じゃあ、何故謀反が起きたのかって?
キッカケは、女王の即位だったんだ。
とても綺麗で、優れた叡智を持つ女性だったらしい。幼い頃から、王になる為に厳しい教育に耐えて、父王が崩御した後、王国初の女王として即位した。
王家には彼女以外の直系の子孫がいなかったから、彼女が女王になるしかなかった。
もし、産まれる国が違ったなら、彼女は賢王として後世に語り継がれていただろうね…
謀反は起きた。
キッカケは、女王の即位。
革命軍を指揮した者は、こう言った。
「女の王に何ができる。」
女王は国を愛していた。
国民の一人一人を愛していた。
王国に更なる発展と繁栄をもたらそうと、幼少の頃から一心に勉学に励んでいた。
彼女は対話を望んだ。
話し合いで解決することを最後まで諦めなかった。
武力による対立が何を生み出すか知っていた。
「私は、あなた方を愛している。私は、決して暴力を振るわない。私は、信じている。私とともに、皆でこの国を護っていこう。」
女王は胸を貫かれた。
その剣を握っていたのは、自分の利益だけを求めるある貴族だった。
甘い言葉を囁き、民衆を自分のいいように扇動した。彼の力強い言葉に、勇敢な姿に多くの民が希望を見出した。
「人を惑わす卑しき魔女に、正義の鉄槌を‼︎」
「正義の鉄槌を‼︎」
国民は忘れていたんだ。
今まで、自分たちが受けていた恩恵を。
平和で安泰な世をつくっていたのが誰なのか。
豊かで自由な生活が送れるのは誰のおかげなのか。
そして、何より「正義」に酔っていた。
平和で退屈な日常を刺激する甘美な「正義」に。
その後、王国は新しい王が即位した。
まあ、十年も経たずに滅んだようだけど。
彼らは真実を知ることが出来たんだよ。彼らにはその権利があった。王家はその権利を与えていた。
だけど、その知る権利をドブに捨てたのは彼ら自身だった。
どちらが正義で、どちらが悪なのか。
考える権利も彼らには与えられていた。
それを、ドブに捨てたのは彼ら自身だった。
自分たちの言葉が、行動が、間違っているなんて微塵も思っていなかったんだろう。
気づいた時には、もう遅い。
王国を滅亡させた本当の原因は、「間違った正義」と「無知」だった。
…ああ、どうやら君たちも無関係ではないようだ。