染み
後悔しても過去は変わらない。だから、私は後悔しないことにしている。
私の寝室の壁には染みがある。
初めは煙草を押し付けたような小さな点だった。しかし、それが日を追うことに少しずつ大きくなり、半年ほどで人の顔のような形になった。染みは血が染み込んだような色をしている。
染みは私にしか見えないらしい。前に家にやってきた友達には見えていなかった。霊感があると常日頃から言っていた元カノにも見えていなかった。
元カノと別れたことと壁の染みは関係ない。考え方が合わなかった、ただそれだけだ。
染みを隠すためにポスターを貼り、その下に荷物を置いた。私はポスターのおかげでしばらく染みのことを忘れることができた。気休めとわかっていても、何故か救われた気がした。
「おい、顔色が悪いぞ。首に変な痣もできてるし、何かあったのか?」
連休明けに出社した時、同僚に驚きながら言われた。鏡を見ると、薄く首回りに痣ができていた。痣は人の手のような形だった。
帰宅後、壁に貼ったポスターを剥がすと、思っていた通り染みがかなり大きくなっていた。染みは人の顔どころか見覚えのあるシルエットになっていた。表情は読み取れないが、かなり恨めしそうな顔をしていることは間違いない。
首の痣が痛んだ。
私は過去を後悔しないようにしている。あの時のあの決断は間違っていないと思っている。でも、もっと上手くやればよかったとは思う。返り血なんて浴びなければよかった。慣れないことはするもんじゃない。
染みから逃れたいとは思う。だが、自分が犯したことへの罪悪感か行動に移ることができないでいる。
私の寝室には染みがある。
染みは恨めしそうに私を見ている。
どうすることもできないので、私はとりあえず染みに微笑みかけてみた。
首の痣が一層痛くなった。





