その少女、権力者につき。
クエストを達成してネザーに戻ると、様々な事が私を待って居た。
一度は見た覚えのある人たちが私に群がり、胴上げをしてくれたこと。
センセーが流暢な言葉で喋り出したこと。
いつの間にかアリスさんがパーティを抜けていたこと。
そして、お詫びという名の報酬として、ネザーの街の人々から一冊の本を貰ったこと。
その本は、シャルトスの手記だった。
女神になる前、まだシャルトスが魔女だった頃に書き記していた手記。
ネザーの人々は、それを大事に神殿で保管してくれていたらしい。
まだ中は見ていないけれど。
なんにせよ、
誤解が解けて良かった。
あのままネザーに入る度、石を投げられていたんじゃたまったものではない。
確かに拠点はオスレフトに移した。
けど、私のふるさとはネザーなのだから。
オスレフトへと戻る前に、いつもの廃墟に立ち寄った。
何も変わらない、実家のような安心感。
私のアルカナオンラインは、ここから始まったといっても過言ではない。
一人でポーションを作って、ディナダンさんにそれを譲って、センセーを召喚したのもここだった。
センセーは猫の姿で匂いを嗅ぎながら廃墟の中をぐるりと回ると、満足そうに鼻を鳴らした。
「センセー、どうしたの?」
答えはない。
喋れるようになったというのに、センセーは何も話してくれない。
いつも通り、めんどくさそうに尻尾で返事をするだけだ。
「……分かった、縄張りの確認をしてたんでしょ。心配しなくても、ネザーに猫はセンセーしか居ないよ」
睨まれた。
そんなに怒らなくたっていいじゃないか。
意地悪。
センセーはフイッとそっぽを向くように前を見て、廃墟から出て行ってしまう。
けれど、私を待ってくれているのだろうか、出てすぐの所から尻尾だけを出して振っている。
よくわからない。
けど、きっとついていけばいいんだと思う。
コーチを首に巻いたまま、私はセンセーの後を追いかけた。
まるで先導する様に逃げるセンセーを追いかけて、たどり着いたのはシャルトスの神殿だった。
以前来た時はモンスターが出てきたそこも、洞窟に居た男を倒した影響だろうか、一匹もモンスターと遭遇しない。
以前に引っ掛かった転移の陣は発動しなかったため、時間はかかってしまったけれど。
そうして神殿の最奥、礼拝堂までたどり着くことが出来た。
相変わらず綺麗な場所だ。
割れてしまっているステンドグラスが勿体ない。
あれも、生産のスキルを使えば直せるのだろうか。
『――神の子よ』
懐かしい声が頭に響く。
そうして、女神が私たちの前に姿を現した。
今なら分かる。
この人がシャルトスなんだ。
「お、お久しぶりです」
頭を下げながら口にする私に、シャルトスは優しく微笑みながら頷いてくれた。
何となく、お母さんと似た雰囲気を感じる。
顔は全く似てないけれど、雰囲気が。
ふと気が付くと、いつの間にかセンセーは人の姿を取っていた。
まるで双子の妹の様な姿をしているセンセーは、不遜な表情でシャルトスを見上げている。
シャルトスはその事に気が付くと目を見開き、そして困ったように笑った。
それでもセンセーはその態度を崩さない。
何かを訴える様に、そして求めるように、ジッとシャルトスを見つめて動かない。
「せ、センセー、あんまりシャルトスを困らせたら――」
言葉の途中で、シャルトスが掌を私に向けて制し、首を左右に振る。
構わない。
そう言いたいのだろうか。
そしてシャルトスはそのままその手をセンセーの頭へと優しくのせる。
優しい手つき。
ほんの少しだけ羨ましい。
その時だった。
頭の中にシステムメッセージさんの声が響く。
『使い魔 マロウは進化が可能です。承認しますか?』
驚いた。
センセーが望むのであれば、ずっと水猫で居てもらうつもりだった。
けれど、今は違うのだろう。
シャルトスの手を頭に載せたまま、センセーは私を見ている。
さっさとしろ。
まるでそう言っているように聞こえた。
ならば、拒否するなんて無粋だ。
承認するに決まっている。
Yesのボタンに触れると、センセーは光に包まれた。
そして、もう一度システムメッセージさんの声が聞こえてきた。
『マロウは"シャルトスの神子"へ進化を果たしました』
……お、おおう。
まさか、そう来るとは思わなかった。
あんぐりと口を開けてセンセーを見つめる私を、シャルトスはクスクスと笑いながら消えていく。
シャルトスを見送ったセンセーは私に目を向けて、小さく鼻で笑って見せた。
どうだ、凄いだろ。
まるでそう言っているように見えた。
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