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「よっしゃーーーー!! 敵将討ち取ったーーーー!!」
コーチのアクアブレスがバフォメットの影を倒したのに少し遅れて、離れた所でリッチーさんが声を上げる。
辺りに散らばるバラバラな骸骨。珍しく満身創痍と言った風体のリッチーさんとギガたんは、男が持っていた本を掲げながら踊っている。
召喚したモンスターは、召喚した人に似るんだろうか。
以前見た時はもっと無表情だった気がするのに。
そして、それは突然起きた。
リッチーさんの掲げる本が光を放ち、リッチーさんはその光に包まれた。
進化の光だ。
『プレイヤー リッチーにより、"武器 グリモワール"が解放されました。』
突然頭の中に流れるアナウンスは、きっとプレイヤー全員に聞こえているのだろう。
パーティのみんながポカンとしている。
グリモワールが何なのか、外の状況がどうなっているのか。
色々と気になることはたくさんある。
けど今は、目の前のことに集中したい。
進化は好きだ。
アニメやゲームである進化シーンを、食い入るように見ていた覚えがある。
それどころか、今でもそうしてしまう。
キラキラと目を光らせながら光に包まれるリッチーさんを見つめる。
そして光が晴れたその先に居たのは、誇らしげに胸を張る女性の姿だった。
真っ黒の長い髪は腰まで伸びていて、胸と腰は自己主張が激しすぎる。
けれど、ウエストは引き締まっていて、目鼻立ちも整っている。
いわゆる美女だ。
「だ、誰……?」
ポツリとつぶやいた私を、その美女はきょとんとした顔で見つめてくる。
ほんの少し傾げた首が可愛らしい。
「はぁー? ボクだよボク。リッチーだよ。なになに、この数秒の間で忘れちゃったの? ちびちゃんて想像以上におバカさーん?」
この声、この煽り、この賑やかな表情。
間違いなくリッチーさんだ。
ポカンと口を開けたまま塞げないでいるカリーさんとアリスさん。
そして、指をさして笑い続けるディナダンさん。
リッチーさんは状況を理解したのか、様々なポーズを取って私に見せてくれた。
強調される胸の谷間が腹立たしい。
「見て見てちびちゃん、バインバイーン!」
「ば、バカタレこの!! なんで女の人だって教えてくれてなかったんですか!!」
「えぇー? 言わなくても分かってよー。骨盤とか完全に女の子の骨格じゃん?」
「それで分かるのはお医者さんくらいです!!」
あぁ、頭が痛い。
どうしてこの人はこんなにも自由なんだろう。
話を聞くと、リッチーさんは念願のリッチへと進化を遂げられたらしい。
その際見た目が変わるということだったけれど、特に何もいじらずにリアルのままの姿を反映させて戻ってきたという。
時間をかけてもよかったのにと話す私に、「それだと皆を待たせて悪いじゃん。ボクは別に見た目とか気にしないしねー」と話していた。
外で邪教徒たちと戦っていた人や、センセーを護ってくれていた人たちからも連絡がきた。
邪教徒はどこかへと逃げ去ってしまって、街の人達もようやく図書館のお姉さんの言葉に耳を傾けるようになったらしい。
話を聞いた街の人達は、一人、また一人と武器を捨ててセンセーや他のみんなに謝ってくれていたようだ。
頭を下げてくる街人たちに、鼻を鳴らしながら偉そうに尻尾でビタンビタンと地面を叩くセンセーの顔が目に浮かぶ。
早くセンセーに会いに行かなきゃ。
ありがとうって伝えなきゃ。
街へ戻る道中は、ディナダンさんからのお説教祭りだった。
一撃でも食らったら戦線が崩れたかもしれないという危険性があったこと。
打ち合わせにない行動でパーティの皆を動揺させるかもしれなかったこと。
私が倒れてしまったら、クエスト自体が失敗してしまったかもしれないということ。
挙げだしたらきりがない程の反省点。
ディナダンさんが分かってくれたというのは、どうやら私の勘違いだったらしい。
私は回復に専念して、アリスさんとカリーさんに加えてディナダンさんもタンクを引き受ける様にすれば、ずっと安定した戦いが出来ただろうということだ。
パーティ戦はとても奥が深い。
「全く、ユンちゃんはソロだとそれなりに動けるのに、パーティになると突拍子もないことをいきなりしだすんだから……」
「ご、ごめなさい。でも、バフォメットの攻撃避けるの、楽しかったです」
「……反省してないだろ」
「……し、してるやい」
目をそらしながら答える私の頭を、ディナダンさんは困った表情で撫でてくれる。
こ、子ども扱いするな。
リッチーさんみたいな立派な物はないけど、私だってちゃんとあるんだぞ。
「まぁ、俺もソロで遊ぶ方が長いから気持ちは分かる。でも、迷惑を掛けたいわけじゃないだろ?」
「うぐっ……」
「次からは気を付けなさい」
「……はい」
やっぱりディナダンさんは大人の人だった。
こういう時の大人は、凄く怖い。
ディナダンさんしかり、お母さんしかり、シヴァさんしかり。
こうしてネザーの騒動が幕を下ろす。
蓋を開けてみれば何のこともないただのクエストだったのに、なぜだか一日が長く感じられた。
私にはやっぱりソロが合ってるのかもしれない。
ことがゲームとなると、思いついたことをすぐに行動してしまう悪い癖を直してからじゃなきゃ、みんなに迷惑をかけてしまう。
けど、またみんなと一緒にパーティを組みたい。
ソロで遊ぶよりも、すごく楽しかったから。
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