15
深い藍色をした魔術の矢が私の額に飛んできた。
しかし、それを防いだのは私の身体の周りを飛ぶ天球儀だった。
未実装のため、耐久力が設定されていない天球儀は、防具としても非常に優秀だ。
近接攻撃は防げないけれど、魔術などの遠隔攻撃は止めてくれる。
「こっち、向けえええ!!」
アリスさんが盾を構えながら大きな声で叫ぶ。
タウントスキルが発動されて、私とアリスさんのヘイトが瞬時に入れ替わる。
危なかった。
ヒーラーである私が、真っ先に落ちる所だった。
それだけは避けなきゃいけないのに。
「ユンちゃん、説教は後だ! DPS上げて、一気に削るぞ!」
槍を振るいながら、ディナダンさんが声をかけてくる。
お、怒られるようなことをした覚えはないのに。
先のことを考えると、再び身体が震えた。
目にも涙が浮かんでくる。
さっきとは違う、正真正銘の恐怖から来る震え。
良かれと思ってやったのに、なんてことだ。
でも、よく考えれば回避型のタンクはパーティ戦には向かないのかもしれない。
タンクである私が動けば、当然ボスエネミーも動いてしまう。
そうなれば、アタッカーは狙った所に攻撃を当てられなくなる。
今回はディナダンさんやカリーさんが上手く立ち回ってくれたけど、そうならないパーティの方が多いだろう。
自分の顔が暗く落ち込んでいくのが分かる。
人に迷惑をかけるのは嫌いだ。
ましてや、それが友達であればなおさら。
けど、くよくよしているわけにもいかない。
あくまでこのクエストは私の物で、みんなはそれを手伝ってくれてるのだから。
ペチペチと頬を叩いて気持ちを取り戻し、まっすぐバフォメットの影を見つめる。
バフォメットの影からは攻撃が届かない、安全な位置。
自分へのヘイトが薄れていくことを感じながら、コーチをそばへ呼びつけた。
コーチと使い魔契約を結んだ時から、ずっと試してみたいスキルがあった。
一日に一度しか使うことのできない、龍種が持つ潜在能力を一時的に開放するスキル。
奥の手とも言っても過言ではない、とっておきだ。
「コーチ、行くよ!」
グルグルと体の周りを泳ぎ出すコーチ。
辺りがやけに涼しく感じる。
静かで、それでいて激しい魔力の奔流。
それを巻き起こしているのがコーチだ。
「――"始祖覚醒"!!」
渦巻く魔力がコーチへと流れ込む。
バフォメットの影のヘイトが再び私に向くのを感じる。
大技だからだろう。
一瞬にしてアリスさんのヘイトを上回った。
しかし、すぐには襲ってこられない。
萎縮のバッドステータスが入っているからだ。
そして、それを与えたのは他でもない、コーチだ。
首に巻き付ける程度しかなかったコーチの身体は、私が二人重なっても届かないほど大きくなっていた。
額から生える二本の角。
口から伸びる長いひげ。
真っ白な体と青い瞳、そして体に纏うキラキラとした水の魔力。
水龍程の大きさは無いけれど、それでもコーチは十分大きい。
「―――!!!!」
コーチの咆哮が辺りに響く。
その声で我に返ったのか、バフォメットの影は負けじと声を上げていた。
「ブモオオオオオォォォォッ!!!!」
怪獣大戦争みたいな様子になっている。
けれど、その間もディナダンさん達の攻撃は止まない。
槍を突き刺し、斧を叩きつけ、盾で殴り。
どんどんと立ち上る、赤いダメージエフェクト。
私はゆっくりと細剣を引き抜き、バフォメットの影を指し示す。
「コーチ、アクアブレス!!」
コーチは身体に纏っていた水の魔力を口へと集約する。
頭の上に感じる膨大な魔力は、収束されていく。
まだだ、まだいける。
アリスさんが、ディナダンさんが、カリーさんがバフォメットの影を足止めしてくれている。
もっとだ、もっと。
もっともっと大きく育てろ。
「――ファイア!!」
合図とともに一気に吐き出された水の魔力。
初めて目の当たりにした龍のブレスは、まるで光線の様にも見えた。
的確にバフォメットの影の頭部を穿ち、そしてHPゲージを全損させる。
バフォメットの影はまるで煙の様に消えていく。
それとほぼ同時に、コーチの身体も光に包まれた。
晴れる頃には、いつものコーチが顔を出す。
すっかり疲れて息も荒くなっていたけれど、その顔は何処か誇らしげに見えた。
コーチ、ありがとう。
よく頑張ったね。
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