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2020.06.19 2話目
バフォメットの影は、見た目通りのマジックユーザーだ。
あの禍々しい杖から発せられる魔術は厄介で、威力も高ければ状態異常も与えてくる。
一方私たちのメインタンクはカリーさん。
盾を持たず、全身鎧も着ていないカリーさんは、魔法攻撃にも状態異常にもすこぶる弱い。
そのため、回復の頻度がここまでの戦闘よりもうんと増えた。
回復の頻度が増えれば、私が攻撃に参加できる時間が少なくなる。
「――ッ、アリスさんっ!!」
カリーさんが声を上げる。
その合図でカリーさんとアリスさんのヘイトが入れ替わった。
下がってくるカリーさんに、ポーションを掛けると、カリーさんは悔しそうにバフォメットの影を見ながら言う。
「ちびちゃん、すまん。もっと早く判断すればよかった。あの敵と俺じゃ相性が悪すぎる」
「だ、大丈夫です、そんな日もありますっ」
しかし、困ったのは事実。
通常のエネミーであればタンクは一人で構わない。
けれど、ボスエネミーともなれば話は別だ。
一人で支えるタンクも居るけれど、アリスさんのビルドはサブタンクの色が強い。
カリーさんよりも適性があるとはいえ、いずれはガタが来てしまう。
かと言って、装備を変えてしまったディナダンさんにタンクを引き受けてもらう訳にはいかない。
とれる作戦は決して多くない。
私が思いつくのはたった二つだけだ。
一つは、このままアリスさんとカリーさんにギリギリまで粘ってもらって押し切る。
これまで以上に火力を出さなければいけないため、きっとどちらかが犠牲になってしまうだろう。
そして、もう一つは――
「ぐ、ぬぬぬっ……!!」
考えている隙に、アリスさんが苦悶の声を上げる。
押され始めた。
もう悩んでいる時間は取れない。
アリスさんのすぐ近くへ行ってポーションを投げ、アリスさんのHPを回復させた私は、センセーの真似をして指の間に小瓶をいくつか挟む。
イベントで猛威を振るった爆破薬だ。
あの時は加減も分からず作ったけれど、今回は近接戦闘をしていても使えるほどの爆発しか生まれない物。
何より、センセーとタゲを入れ替える時のために作った特別製のものだから、ダメージ以上にヘイトが上がる。
キトゥンのお陰で改良と量産が出来た。
ダメージとしても申し分ないその爆破薬を、合計で四つ投げつけた。
バフォメットの影を包み込む爆炎。
そして消えた炎の先から伸びてくる赤い線。
ひしひしと伝わってくる敵愾心に、ブルリと身体が震えた。
「ち、ちびちゃん!?」
「タゲ、貰います!! コーチ、ポーションはもってるね!!」
驚くアリスさんと、必死の表情で頷くコーチ。
攻撃予測線は直線だ。
これなら避けるのはたやすい。
回り込むようにして回避しながら、アリスさんからバフォメットの影を引き離す。
「ちょ、マジックユーザーがタンクなんてっ――」
「良いから引け!! 態勢を立て直して、とっととタゲ貰ってやれ!!」
ディナダンさんの厳しい声が響く。
このままだと崩壊する事を、ディナダンさんも分かっていたのだ。
そして、私がタンクを引き受けるのがベストだということも。
扇状に見える赤い線は、杖での横振り。
直線で伸びてくるものは魔術の矢。
バフォメットの影を中心にして円状に広がるのは、範囲魔術。
詳細なんて見ている余裕は無かった。
けど、予備動作が分かればなんてことはない。
マジックユーザーだろうが、私にはシャルトスの瞳があるんだから。
久しく感じてなかった高揚感。
最後に感じたのは、シャルトスの神殿で悪鬼と戦った時だったか。
さっき身体が震えたのは恐怖なんかじゃない事に気が付く。
あれは間違いなく、武者震い。
もともとずっと一人で遊んでいたのだ。
これくらいなんてことはない。
いくらでも避けられる。
いくらでもタンクを引き受けられる。
回避の合間に爆破薬を投げつけているから、十分ヘイトは維持できている。
コーチは頑張ってアリスさんを回復してくれているし、カリーさんやディナダンさんも徐々にダメージ量を上げてきている。
もう少しすればアリスさんがタゲを――
「ブモオオオオオォォォォッ!!!」
バフォメットの影が雄叫びを上げる。
集中力が途切れていた。
額に伸びている攻撃予測線に気付かなかった。
「ちびちゃん!!!!」
アリスさんの泣きそうな声が聞こえた。
何とか、しなきゃ――ッ。
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