7
ネザーの街を抜け出した私たちは、森の入口で休んでいる。
身体は元気だ。
動こうと思えばすぐにでも走り出せる。
けれど、問題は心なんだと思う。
私の中でセンセーは、いつの間にかすごく大きな存在になっていた。
いつもそばにいて貰えるのが当たり前で、傍でめんどくさそうに尻尾を振ってくれて、誰よりも私を支えてくれていた。
その事が今になって理解できた。
離れてしまって、初めて分かる。
足取りが重い。
不安しかない。
「ち、ちびちゃん……」
不安な心は人へと伝播する。
眉尻を落したカリーさんの表情からこぼれ出る心配。
その優しい気持ちが、私の心に突き刺さる。
結局私は、一人では何もできない。
学校でも、ゲームでも、誰かが一緒にいてくれるから他の人と何とか話せる。
成長していたと思っていた。
少しずつ自分が変われているんだと思っていた。
けど、実際は――
ペチンッと乾いた音が辺りに響く。
ヒリヒリと両頬が痛む。
自分で両頬を叩いた私を、カリーさんはさらに心配そうに見つめていた。
アワアワと慌てているのが、少しだけ面白い。
ポジティブになれとは言わない。
けれど、ネガティブになっていい理由にはならない。
後ろ向きに考えるな。
それで失敗したばかりだろう。
「いたい……」
じんわりと涙が浮かぶ。
けどこれは、寂しいからとか不安だからではない。
自分にそう言い聞かす。
コーチも居る。
怖がることなんて何もない。
「ち、ちびちゃん……!」
「カリーさん、ごめんなさい。私、多分カリーさんのことを巻き込みました」
今回のPK騒動は根底から間違っていた。
多分これはPKではない。
犯人がいるとしたら、それは一人しか居ない。
私自身だ。
シャルトスが女神になる前に抱えていた問題の一つ、謎の男がシャルトスを陥れようとしている事。
いつイベントのスイッチを踏んだかは分からない。
けれど、推測はできる。
水龍が私の中で眠って、なおかつ私はネザーからずっと離れていた。
それはつまり、謎の男にとって魔女を陥れる最大の好機。
魔女の影響力が離れている今だからこそ、謎の男は行動に出たのだ。
魔女の信徒を騙って騒ぎを起こす。
その中で巻き込まれたプレイヤーが、変な邪推を起こしてしまった。
"アリスの国"が私を貶めるために行動を始めた、と。
「つまり、これっていうのは……」
「はい、その、は、犯人はユンです……!」
気まずそうに話す私を見て、カリーさんは小さな笑いを口からこぼした。
な、何がおかしい……!
こちとら決死の思いで告白してるんだぞ……!
ジトッと睨み上げる私を見て、カリーさんは両手を振る。
「ご、ごめんごめん! いやでも、良かったよ! イベントならクリアすれば元通りだもんな!」
「だと思います。そ、その……」
ここまで来て吹く臆病風。
断られたらどうしよう。
迷惑だったらどうしよう。
後ろ向きになりそうな気持ち。
ペチンッと頬に何かが当たる。
コーチの尻尾だ。
センセーの様な顔をして私を見ていた。
いつもは甘えん坊のコーチが必死に表情を繕っているのが面白くて、ついクスッと笑い声が漏れてしまう。
本当に、支えられてばかりだ。
「か、カリーさんっ」
「は、はいっ!!」
「て、手掛かりは何にもないんですけど、その、クエスト手伝ってくれませんか……!」
「勿論、喜んで!! チャンネルで声をかけて、情報を探ってみる!!」
「わ、私も!」
私の周りの世界は、思った以上にずっと温かい。
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