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逃げても逃げても街のNPCたちは居なくならない。
行く先々で私たちを出迎えて、思い思いの行動をとってくる。
ある人はさっきの様に石を投げ、ある人は武器を手に取って襲ってくる。
その度に、カリーさんは傷ついた。
すべての攻撃から私を護ってくれている。
「か、カリーさん、もう――」
「タンクなめんなっ……! まだまだいける!」
止める私の言葉を聞かず、カリーさんは私を庇い続けた。
走りながらポーションを使って回復はするからHPは問題ない。
けど、心はどうだろう。
私は一方的に殴られたことが無い。
だからこそ、カリーさんの気持ちが分からない。
そんな私たちを助けてくれたのは、意外な人だった。
ネザーにある図書館の前に差し掛かった時、窓からある人物と目が合う。
図書館の受付に居る、NPCのお姉さん。
彼女は私と目が合うなり、そっと手招きをしてくれた。
「か、カリーさん、こっち!」
気付けば私はカリーさんの手を取って、図書館へと走っていた。
罠かもしれないとも考えた。
けど、街のどこへ行っても襲われる以上、罠だろうが何だろうが関係ない。
扉の前に有る階段を駆け上がり、図書館の中へと飛び込む。
それとほぼ同時に、お姉さんが扉に鍵をかけてくれた。
「大丈夫ですか?」
ネザーに来てから、ようやく普通に話せた気がする。
お姉さんの目からは他の住人とは違い、敵意が全く感じられない。
「街のみんなが色めき立ってます。大人数で押し寄せられれば、ここも長くはもたないでしょう」
「な、何があったんですか?」
「ネザーの周りに、魔女の狂信者を名乗る者が現れました。彼らは魔女の指示だと言いながら、道行く人々を襲っています」
思い出される本の内容。
シャルトスを良く思わない男が、シャルトスを貶めるために動いていた。
街の人達は騙されたのだろう。
そして、そこに私が来てしまった。
シャルトスの生まれ変わりともいえる、知恵の魔女が。
「で、でも、あなたは……」
お姉さんだって、その話を聞いているはず。
襲われたっておかしくはない。
身構えながらそう口にする私を、お姉さんはいつもの淡々とした雰囲気で答えてくれる。
「あなたとは何度もここでお会いしています。あなたがそんな事をするとは思えませんから」
「そうか、好感度……!」
NPCにはプレイヤーに対する好感度が、目に見えないパラメーターとして用意されてる事をカリーさんが教えてくれる。
確かに、私がネザーに居る間はここか廃墟にしか居なかった。
顔を合わせるたびに挨拶をしてくれるお姉さんには、いつも挨拶を返していた。
それが結果的に、好感度を上げることに繋がっていたようだ。
助かった。
ようやく肩の力が抜ける。
けれど、お姉さんは首を振る。
「この通路の先に裏口があります。そこから、どうか街の外へ」
「お、お姉さんは?」
「私は大丈夫です。いくら何でも、同じ住人を襲ったりはしないでしょう」
「でも――」
「では、一つだけ約束を」
私の頭を優しく撫でるお姉さん。
覗き込むように腰を曲げて、お姉さんは続く言葉を口にした。
「この騒動が治まったら、また遊びに来てください。あなたと会えるのを、また楽しみにしています」
お姉さんはいつもと何も変わらない。
いつも通り淡々と仕事をする、仕事の出来る女の人の様に見える。
けど、その顔が少し優しく見えたのは何故だろう。
どうしてこんなに泣きそうなのだろう。
カリーさんに手を引かれながら、私は裏口へと急ぐ。
耳元でコーチが優しく鳴いている。
励ましてくれているのだろう。
そして、センセーは――
「……せ、センセー?」
私たちの後ろを追いかけてきてはいなかった。
センセーが居るのは走る通路のずっと後ろ。
お姉さんのすぐ隣で、面倒くさそうにパタパタと尻尾を振っている。
小さくアゴが持ち上がるのが見える。
そして――
『――あたしが、なんとかしたげるから、いって』
私によく似た声が、頭の中でそう聞こえる。
舌足らずで、不愛想で、それでも自信に満ち溢れた強い声。
涙が頬を伝い、古ぼけた絨毯へと落ちた。
「――センセー!! お姉さんを護って!!」
私は大きな声でセンセーに叫ぶけれど、さっきの声は聞こえない。
代わりにセンセーの口元が持ち上がるのがハッキリ見えた。
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