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その後、アリスさんが頻繁に顔を出すことは無かった。
けれど、明らかに私の周りでは変化が起きていた。
街を歩いていると向けられる嫌な視線。
お店の方に来る冷やかしの数。
陰口や中傷が無いだけマシだと思うけれど、それでも気分は滅入ってくる。
それでも、キティは大したものだ。
冷やかしだと思われるお客さんにも丁寧に接し、「ちびちゃんを出せ」と言われればはぐらかす。
街中を歩いてる時は誰よりも周りに気を配ってくれていて、怪しそうな人には近づかない。
そんな生活が2~3日続いているのが現状だ。
前程ではないけれど、多少はやっぱり気が滅入る。
そんなある日だった。
オスレフトをキティと二人で歩いていた時、嫌な声が耳に入る。
目立つ人だかりと、その先に見える一人のプレイヤー。
顔に見覚えはあった。
ネザーの廃墟にいた時、ぐいぐいと迫って来た斧を持ったプレイヤー。
その後、ポーションの販売をしていた時に誰よりも協力的な姿勢を見せてくれていたいかつい顔のお兄さんだ。
「もう一回聞くけど、どういうことだ?」
「し、知らねーって言ってんだろ! 俺がやったって証拠はあるのかよ!」
他のプレイヤー達も心配そうに眺めている。
友達同士のいざこざかもしれないが、どう考えてもやり過ぎだ。
「――なるほど、あの人が」
キティは何かを察したかのように私の手を握り、その場から離れようと引っ張ってくる。
それでも、私の足は動かなかった。
確かに、あの人には怖い思いをさせられた。
けど、ポーションの販売をしたときは誰よりも力になってくれた。
確かに、あの人だかりの中へ飛び込むのは怖い。
考えただけでも泣きそうになる。
「このスクショ、どう見たってお前でしょ? ギルマスを裏切ってちびちゃんに付くっての?」
その言葉を聞いた瞬間、私の足は勝手に動いていた。
手を握ってくれているキティをそっと離した私は、気付けばお兄さんの前に立っていた。
驚いているのか、お兄さんが息を呑む声が聞こえる。
視線が私に集まる。
怖い。
けど、びびってたまるか。
この人はきっと、私を助けてくれようとしているんだから。
「なんだよ、邪魔するなよ。お前には――」
喋っていた男の口がピタリと止まった。
私に気付いたんだろう。
なめまわすように向けられる視線は、気持ちが悪い。
橘さんだったら、こんな時はどうするだろう。
間違いなく言えるのは、どんなに怖くても目はそらさない。
しっかりと目を見て、毅然とふるまうにきまってる。
「や、やめてください」
「――関係なくないとは思ったけど、やっぱりそうじゃん。自分のファンを相手のギルドに潜り込ませるとか、なかなか卑怯な真似をするね」
この人が何を言ってるか、さっぱりわからない。
けど、間違いなく敵意は向けられている。
「何のことだかさっぱりわかりません。けど、やめてください。嫌がってます」
「しらばっくれないでよ。お前の指示で動いてたんでしょ?」
ダメだ、この人は何を話しても伝わらない。
自分の言いたいことを押し付けてばかりで、まるで話にならない。
「行こう、お兄さん。こんな人たちの言うこと、聞く必要ないよ」
いまだ呆然としているお兄さんの手を引っ張って、人だかりの垣根を越える。
簡単に通れたのは驚きだった。
けど、背中越しにひしひしと嫌な視線を感じる。
「卑怯者!」
誰かがそう口にしたのが聞こえた。
本当に、なんでそんな風に言われるのか全く理解できない。
けど、不思議と頭には来なかった。
それよりも怖くて仕方がなかったから。
逃げるようにその場から離れる私とお兄さんを、後ろからキティが追いかけてくれる。
いつも通りキティが怒っているのも聞こえるけれど、右から左に流れてしまう。
それよりも、早くここから逃げなくちゃ。
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