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2020.06.01 2話目
転移された先はとても広い空間だった。
綺麗な石柱や女神様の像が飾られていて、辺りにはさっき見た水晶がそこかしこから生えている。
シャルトスの神殿が温かい雰囲気の場所だとしたら、此処はすごく厳かな感じがする。
思わず背筋が伸びてしまう。
そして中央に置かれている祭殿と、そこで丸くなる一体の龍が私を待って居たと言わんばかりにかま首をもたげる。
RPGのソフトで後半に出てくるような、水色の綺麗な龍だ。
喧嘩を売ったら間違いなく勝て無さそう。
目の前まで歩いてきた私を、龍は嬉しそうに微笑みながらじっと見つめてくる。
まるでお祖母ちゃんにでも会ってる気分だ。
私の心も、何故だか落ち着いてしまう。
『あぁ、神の子よ。シャルトスの愛する子よ。よくぞここまで来てくれた』
「は、初めまして、ユンです。あなたが水龍様ですか?」
『いかにも。と言っても、私を崇める者はもはやこの国には存在しない』
そこから水龍は様々なことを話してくれた。
シャルトスの件で懲りた人々は、シャルトスから水龍へと信仰の対象を移した。
鞍替えと言ったら聞こえは悪いけれど、きっとシャルトスが望んでいたことでもあるのだろう。
女神となったシャルトスは水龍を通して人々を導いていたようだ。
そこで事件が起きた。
何者かが悪鬼を率いて攻めてきたのだ。
シャルトスと水龍は悪鬼たちに応戦しようとしたが、人々がそれを許さなかった。
敵は余りにも強大過ぎる。
国はもう一度建て直せばいいけれど、二人の命は失ったら戻らない。
そう決断した国王は国を捨て、国民をできる限り外へと逃がした。
シャルトスと水龍も神殿の奥深くで息を潜めていたという。
国民の大半を逃がした国王は、慕う兵士のみを引き連れて応戦した。
しかし、その大半は年老いた老兵しか居ない。
結果なんて、目に見えていた。
大敗した。
負け戦でしかなかった。
国は悪魔たちに乗っ取られ、滅びた。
いつしか国にはアンデッドが住み着くようになり、無法地帯と化した。
そうして生まれたのが、アンデッドの巣食う国、ネザーらしい。
水龍の話を聞いても分からない事があった。
それが、"幽世の少女"という存在。
生きている者が誰一人居ない国にたった一人で降り立つ少女。
生き残りという事も考えたけれど、その線は薄いだろう。
ネザーの国が生まれたのは、水龍の話を聞く限りもう随分と昔の話だ。
プレイヤーがアンデッドのキャラクターを作ったころには、もう既に存在していたはずだから。
「い、いろいろと教えてくれて、ありがとう。でも、もう行かなくちゃ」
本当は聞きたい。
シャルトスのこととか、幽世の少女のこととか、もっと色々なことを水龍に教えて欲しい。
それでも、私にそれをする時間は無かった。
こうしている間にも、リッチーさんやデミグラスさんは戦ってる。
悪鬼はディナダンさんなら倒せるくらいの敵だけど、デミグラスさんは消耗している。
何より、奥から来る悪鬼が一体とは限らない。
「急いで戻らなきゃいけないの。と、友達が……、此処まで連れて来てくれた友達が、悪鬼と戦ってるから」
他のプレイヤーが見たら、きっとバカだと笑うかもしれない。
HPを失っても別に死ぬわけじゃない。
ネザーの街に戻るだけ。
せっかく情報を手に入れるチャンスがあるのに、それをしないのはバカのする事だ。
でも、私は思う。
結局はたかがゲームなんだ。
情報なんて、いくらでも補填が出来る。
想像で広げることだってできる。
それなら私は、友達と一緒に遊ぶことを選びたい。
せっかく一緒に遊んでくれる友達ができつつあるのだから。
水龍は必死の私を見て、声を上げて笑った。
それでも、嫌な雰囲気は全くない。
むしろ嬉しそうに笑っている。
『あぁ、神の子よ。シャルトスの愛する子よ。お前と会えて本当に良かった。だから少しばかり、私の我儘を聞いてくれ』
水龍は淡く光り出す。
その光はとても儚くて、見ていると涙が出てしまいそうになった。
まるで水龍が今にも消えてしまいそうで。
『このままでは、私は長くはもたない。お前の中で、しばし眠りにつかせてくれ』
水龍を包み込んでいた光が、私の身体へと入っていく。
その光が消えた時、目の前に大きな水龍はもう居なかった。
代わりに居たのは、小さな水龍。
蛇くらいのサイズしかない、とても小さな龍だ。
"水龍の稚児"。
シャルトスの瞳が教えてくれる。
この子はきっと、あの水龍の子供なんだ。
『心優しき神の子よ。シャルトスの愛する子、ユンよ。我が子をお前に託す』
その言葉を最後に、水龍の声は聞こえなくなった。
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