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「あ、あのー」
せっせとポーションを作っていると、知らない男の人が目の前に立っていた。
見たところアンデッド族には見えないし、むしろヒト族だ。
装備も格好良い。
背の高いこの人は、きっとヒューマンなんだと思う。
耳も尖ってないし、いかにも人って感じだし。
アンデッドしか居ない街で初めて会ったヒト族のプレイヤー。
誰にも声を掛けられないと思っていたせいで、思わず声が裏返る。
「は、はひ……!?」
「それ、ポーションだよね。俺に売ってくれない?」
なるほど、この人も私と同じ理由で打ちひしがれて居るのかもしれない。
ネザーはポーションが売られてないから、回復魔法が使えない人たちはきっと困っているんだろう。
けど、これでお金を取るのは少し違う気がする。
粗悪品を掴ませる事になるのに、お金を取ってはいけない。
胸を張って生きられるように生活しろって、おじいちゃんも言ってたし。
「お、お金、要らないです。このポーションは練習で作ってる物なので。クオリティも、低いから」
「いや、そういう訳にもいかないよ。少なくとも、それを作るためにお金は掛かってるんだろ?」
「それでも要らないです。ぜひ、持って行ってください」
強情な相手に、思わずふいっと顔を背けてしまう。
イケメンってどうしてこんなに押しが強いんだろう。
自信が有るからかな。
イケメン怖い。
コミュ力高い人、怖い。
再び回復ポーションの製作に取り掛かっていると、目の前のイケメンは私の事をジッと見つめていた。
そして、ケープの下の装備に気付いたのだろう、首を傾げながら私に聞いてきた。
「もしかして、初心者さん?」
「あ、はい。さっき始めたばかりで、だからこれも初めて作ったヤツなんです。鑑定で見たらお金を取れるクオリティじゃ無くて」
「あぁ、やっぱりそうなんだ!でも、見た感じアンデッドの街って感じするし、売るのも大変じゃない?ヒト族のプレイヤーも少ないみたいだし、需要が無いかも」
「そうなんです。素材の薬草とかも、良いやつが無くて」
思わず憤りをぶつける様に話してしまった。
ハッと我に返った時、イケメンは楽しそうにクスクスと笑っている。
くそう、馬鹿にしやがって。
「だ、だから、お金は要らないんです。好きなだけ持って行ってください」
「そういう事なら、遠慮なく頂くね」
やはり、初心者の作るものにお金を払うなんて事はしたくないのだろう。
分かっては居たけれど、世知辛い世の中だ。
……いや、私が断り続けたんだけども。
「お礼と言っちゃなんだけど、俺と一緒に薬草を取りに行ってみない?」
「えっ」
「初心者だと街の外のモンスターに苦戦するだろうしね。俺としても質の良いポーションが手に入るかもしれないなら、悪い話じゃないんだよ。きっとこの街でポーションを作ってるのなんて君くらいだろうからね」
確かに、採集のレベルが上げられて、その上で質の良い薬草が手に入るのであればのは嬉しい。
イケメンはこう言ってるけど、きっとメリットなんてほぼ皆無に違いない。
きっと初心者だから優しくしてくれてるんだ。
捻くれた事考えてごめなさい。
あったかい世界。
そんな事を考えてると、目の前にパネルが現れる。
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『ディナダンよりパーティ申請が届いています。承認しますか?』
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目の前のイケメンが、きっとディナダンって名前なのだろう。
正直に言えば、少し怖い。
上手く話せる自信も、ディナダンさんを楽しませる自信も無いから。
でも、この機会を逃せばきっと街の外へ出るのが遅くなるだけだ。
パネルとディナダンさんの顔を交互に見つめ、私は目を泳がせながらYesのボタンに触れた。
視界の端に写るパーティ一覧のパネル。
ディナダンさんは満足そうに頷いて、私の渡した回復ポーションを袋の中にしまった。
「俺はディナダン、槍使いだよ。普段はソロプレイばっかりしてるんだけど、本当はパーティ戦の方が好きなんだ。まぁ、忙しくてギルドにも入れないんだけどね」
「ゆ、ユンです。薬師、目指してます」
「初プレイで薬師とはなー……!知り合いにも居ないし、色々分かったら話を聞かせてね!」
爽やかで嫌味の無いイケメン、ディナダンさん。
くそう、非の打ち所がない。
せいぜい足を引っ張ってやろう。
……いや、わざとじゃないけど。
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