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2020.05.31 3話目


湖の中でも呼吸が出来るように、走りながらセンセーと一緒にアクアブリーズをみんなにかけて、格好良くみんなで湖に飛び込んだ。

しかし、そこから先は地獄だった。

水をかいてもかいても前に進まない私と、浮かんだまま沈まないリッチーさん。

唯一まともに行動できているのはデミグラスさんだけだ。

頑張ってるのに水面で指をさして笑ってくるリッチーさんには、ほんの少しだけ殺意が湧いた。


結局、私もリッチーさんもデミグラスさんに掴まって連れて行ってもらう事になった。

デミグラスさんは本当にいい人だ。

ぶっきらぼうで口は悪いけど、とっても優しい。

顔は怖いし威圧的だしすぐににらんでくるけど。



「やーい、金づちちびちゃーん!」


「う、うるさいやいっ。浮かんだまま沈めないリッチーさんに言われたくないし」


「ドアホ、どっちもどっちだ」



そうして湖の中を進んでいき、リッチーさんの案内で横穴へとたどり着く。

みんなで最初は警戒していたけれど、その横穴から水龍が飛び出してくることは無かった。

私もデミグラスさんもリッチーさんを疑ったけれど、どうやらそうではないらしい。

横穴に入った私達を待って居たのは3匹の小さな悪鬼だった。

神殿で戦ったやつよりも小さいけれど、多分そこらへんのモブ敵よりも十分強い。



「ひゃっはー! 戦闘だー!」


「ちびちゃん、奥のを止めろ!!」



まるで蛮族。

デミグラスさんは私に言いながら突っ込んでいく。

背中の大剣を振り回し、大きな声で2体の悪鬼を威圧する。

2体の悪鬼はヘイトをデミグラスさんに向けた。


もう1体の小悪鬼は、既に呪文の詠唱をしているリッチーさんへと向かって走り出す。

リッチーさんはそんな事気にも留めずに詠唱を続けている。



「早くしろ!! バインドくらい、どの魔術にもあんだろ!!」



小悪鬼2体を相手取りながら、デミグラスさんは私に言った。

無駄に色々と考えていたせいで反応が遅れた。

慌てて背中の天球儀を取り出したけれど、それよりも早くセンセーが魔術を行使する。


"フリーズバインド"。


小悪鬼の足元から、まるで茨のような氷が小悪鬼の身体に巻き付いていく。

身体に突き刺さる氷の棘が、徐々にその身体を氷で包んでいく。

さすがセンセー。



「ちびちゃんサイコー! 信じてたよ! そーら、出て来いギガたん!」



リッチーさんの足元が紫色に光出す。

そうして現れたのが、デミグラスさんよりも一回り大きな鎧を纏った骸骨だった。

大盾と片手剣を持ったその骸骨は、まっすぐデミグラスさんの所へと突っ込んでいく。



「よし、来たなメイン盾! タゲ変われ! アタッカーにまわ――」



ギガたんはその大きな盾を構えて、デミグラスさんもろとも小悪鬼を跳ね飛ばした。

まるで戦車かブルドーザーみたいだ。



「あぁー! ギガたんダメー!」


「お前のギガたん、山に捨てて来い!!」



ケラケラと笑いながら悪びれも無く言うリッチーさんに、割と本気のトーンで怒り散らかすデミグラスさん。

山に捨てられても迷惑なので、やめてください。


とは言え、態勢を整え直す時間が必要だ。

センセーはその意図を汲んでか、デミグラスさんの近くで倒れている小悪鬼の身体をフリーズバインドで縛る。

それに一瞬遅れて、私のフリーズバインドがもう一体の小悪鬼を縛り付けた。



「お、奥の、貰いますっ」



天球儀を身体の周りでフワフワと浮かせたまま、細剣を一気に引き抜いた。

だてに色々見ていたせいで出遅れたわけじゃない。

小悪鬼の攻撃パターンはしっかりと見ていた。

殆ど悪鬼と変わらないし、シャルトスの瞳が攻撃予測線を示してくれる。

私一人じゃ倒せはしないけれど、時間は稼げる。

なにより、私だってあの時のままじゃない。



「センセー! "形態変化"!」



私の横を走りながら合図を聞いたセンセーは、光に包まれる。

そうして現れたのが、鏡写しの私。

水猫の特殊スキルである形態変化は、飼い主と同じ姿を取ることが出来る。

見た目だけではなく装備やスキル、ステータスまで真似る事が出来るのだ。


私一人じゃ時間を稼ぐことしかできない。

でも、私が二人居れば十分倒せる。


最初にバインドを掛けた小悪鬼は、既にその拘束から逃れていた。

ヘイトが向いているのはセンセーだろう。

視線がそっちへ行っているから間違いない。

させるもんか。


天球儀を前へと持ってきて、呪文を描く。


"ダストニードル"。


氷の塵が針の形を取り、私が細剣で示した方向へと発射される。

確かに一つひとつのダメージは小さい。

けれど、センセーのヘイトはそこまで高くないのだ。

小さなダメージと、凍結のバッドステータスだけで充分奪える。


針の刺さった部分が徐々に凍りつつある小悪鬼は、センセーから私へと視線を向けた。

大きな雄叫びと共に身体をゆすると、折角凍らせた部分の氷がパキパキと音を立てて剥がれていく。

ほんの少しもったいないけれど、目的は十分達した。

ダメージを与える事よりも、まずはターゲットを私に向けさせた方が良い。

私はマジックユーザーだから盾受けタンクみたいな戦い方は出来ないけれど、シャルトスの瞳のお陰で回避盾には十分なりえる。


私に向かって縦に伸ばされる赤い線。

地面を揺らす縦振りの攻撃だ。

タイミングを見計らって、横へ飛ぶ。

その間も、ダストニードルは打ち続ける。

小さなダメージとバッドステータスが延々と与え続けられる。


どんどんと動きが鈍る小悪鬼の様子を、センセーは見逃さない。

左手に持った細剣を構えて、一気に懐へもぐりこみ、悪鬼の弱点である左の膝を鋭く突き抜く。

上がる小悪鬼の悲鳴。

ヘイトがセンセーへと向かうそのタイミングで、フリーズバインドを仕掛けた。


センセーを殴ろうと横振りに構えた金棒が封じられた小悪鬼は、再び身体をゆすって氷の棘を振り払う。

けれどセンセーはそれくらいの時間があれば十分距離を離せる。

そして今度はセンセーがダストニードルを使って動きを鈍らせる。

イベントが終わってから練習した、センセーとの連携だ。


時折動きを間違えたり、攻撃をかすめたりしてHPが削られた。

それでも、私達は気にしない。

そもそも私達の本職はヒーラーだ。

泥仕合になろうと、HPが全て無くならなければ問題無いのだ。


小悪鬼のHPもほとんど無くなってきている。

そして、その時が来た。

金棒横振りからの尻もちパターン。

小悪鬼が最も無防備になる瞬間。



「せ、センセー!!」



声をかけると、すぐに近くへ来てくれた。

私達が今覚えている呪文の中で、一番火力の高い氷呪文。



「い、行くよ、せーのっ……わぁぁぁー!!!」


「―――!!!」



"ハウルフリーズ"。


この呪文の行使条件は特殊で、呪文を詠唱するか魔術文字を書いた後に大きな声を上げなければいけない。

私の声に重ねて、センセーも猫のが威嚇する時の声を出してくれている。

特殊な行使条件のある魔術は、その分高い効果を発揮してくれる。

ハウルフリーズもその例に漏れない高火力だ。

一つ欠点があるとすれば、心底恥ずかしいということだけ。


私とセンセー、それぞれの前から小悪鬼へ向かって発生する強力なブリザード。

瞬く間に包み込まれた小悪鬼は、その吹雪が晴れると氷づけになってその姿を現した。

そしてHPを全損させ、虹色のポリゴンとなって消えていく。


ほぼ同時に、リッチーさん達のバトルも終わった……と、思ったのだけれど、何故かギガたんとデミグラスさんが戦っている。



「おひょーっ! ギガたん裏切った! やばい、やばい!」


「おま、マジふざけんな!! なんで裏切るようなヤツ呼んだんだよ!!」


「ちびちゃんの前だから、格好付けたいじゃない?」


「後で絶対ぶっ飛ばす!!」


「うひょひょひょっ! PvPか? かかってこい受けて立つぞ!」



……な、何をやってるんだこの人たちは。


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