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目の前に立ちはだかる教室の扉が、こんなに大きいと思ったことはあっただろうか。
本当は今すぐにでも逃げ出したい。
後ろに橘さんが居なかったら、きっと逃げ出していた。
お化粧は流石に出来なかった。
練習はしようとしたけど、ろくに道具も持ってなかったから。
でも、いつもはボサボサのまま行っていた髪を、今日は綺麗に整えた。
いつもとは違う。
きっとまた、何か言われる。
教室の中から聞こえる、ざわざわとした声。
その声も、私が扉を開けた途端にピタリと止まった。
視線が集まる。
きっとまたヒソヒソと陰口が始まるんだ。
「……えっ?や、山口さん?」
真っ先に声をかけてきたのは北条さんだ。
スクールカーストの頂点。
震えそうになる足を必死に堪える。
「ど、どうしたのその髪。え、イメチェン?自分で切ったの?」
かけられる声に、身体が固まる。
思考が斜め向こうの方向へとんでいく。
やってやるって決めたのに。
自分のことは自分で護るって決めたのに。
声が出て来てくれない。
「アタシが切った」
「橘さんが?」
「昨日は化粧もしたんだよ。今日はアタシが寝坊してできなかったけど」
「なにそれ、駄目じゃん」
後ろから橘さんが話してくれる。
北条さんの視線が橘さんに向いたから、ほんの少しだけ楽になった。
他のみんなも同じだ。
クラス中から注目を集めても、橘さんは一切物怖じしない。
"堂々としていれば、その内からかわれなくなりますよ"。
キティの言葉が頭の隅に蘇る。
そうだ、堂々としなきゃ。
私は一切悪い事をしてない。
むしろ、今日はいつもよりも早く起きて髪を綺麗に整えた。
悪く言われる事なんて無いんだ。
「ぃ、いつもは――」
声が裏返る。
その声を聞いて、北条さんがまた私に視線を向ける。
ええい、格好悪いな。
決める時はしっかり決めろ。
「いつもは適当だったけど、橘さんが昨日教えてくれたの。わ、私も、北条さん達みたいに綺麗になりたくて、今朝は頑張ったんだ」
背も胸も小さいんだから、人よりもたくさん胸を張れ。
前みたいに前髪が長くないんだから、まっすぐ目を見ろ。
泣き出しそうな顔は……今日は許してやろう。
必死。
すっごく必死。
そのかいあってかは知らないけれど、北条さんの顔はいつもの様に怖くは見えなかった。
むしろ、優しくすら見える。
今まで、北条さんの顔をまっすぐ見たことがあっただろうか。
いつも長い前髪で顔を隠して、俯いて。
ここまでハッキリと喋ったのも初めてだ。
徐々にみんなもざわざわと話し出す。
耳を傾けると、なんてことはない世間話だった。
昨日やってたテレビのこと。
面白い動画配信者のこと。
部活や、今日の授業のこと。
中には私の名前を上げる人も居たけど、それは悪口でも陰口でもなかった。
「山口って、あんな顔してたんだ」
「前髪長くて見えないもんな。初めて見たわ」
私はクラスのみんなが変わったのだと思ってた。
悪目立ちしたスクールカースト最下位の私を、みんなで叩いてるんだと思ってた。
けど、違った。
みんなは私にそこまで興味が無い。
あったとしても、テレビや部活や授業と同じ程度。
私が勝手に思い込んでいただけ。
ボフッと頭の上に手を置かれる。
な、なな、なんだよ橘さん、やめろよ。
そう言おうとして上を見上げると、その手は橘さんの物では無かった。
北条さんだ。
「めっちゃ良いじゃん。今日は私が化粧してあげるよ。こっちおいで」
「こ、校則違反……!!」
「バレない様にやるから、大丈夫」
「た、体育もあるよ!?」
「あぁ、そうか。じゃ、その後ね。お昼、どうせ今日も一人でしょ?」
どうせってなんだよ。
いつもボッチみたいに言いやがって。
その通りだけど。
「いや、地味子は今日アタシと食堂行く」
おい橘さんなに言ってんだ。
初耳だぞ。
友達だと思っちゃうから迂闊な発言はするな。
「じゃ、私も今日は食堂にしよっと。良いでしょ?」
な、なんでだよ。
シンデレラ・ストーリーは物語の中だけで良いんだよ
嬉しいけども。
……嬉しいけども!
世界を変えるのに、大きな行動は必要ない。
ただ、自分の前髪を切って貰っただけ。
ただ、クラスメイトの目を見て話しただけ。
――ただ、意識を少し変えただけ。
たったそれだけのことで、世界は大きく変わる。
もしかしたら、もう少し頑張れば友達だってすぐにできるのかもしれない。
今の私には、少しハードルが高いけれど。
「てか、地味子ってなんなの?いじめじゃない?」
「だって見た目地味だったろ」
「今は十分可愛いじゃん。悪口いけないんだー、先生に言ってやろー」
「地味子も了承してるから良いんだよ」
いや、してませんが。
現実の問題をどう解決するのか、凄く悩みました。
ご都合主義なシンデレラストーリーでも良いじゃない。
お話の世界だし。
そう自分に言い聞かせてはいますが、タイトル詐欺になりそうでビクビクしてます:;(∩´﹏`∩);:←
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