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3


次に目を開いた時に私が目にしたものは、鏡にうつる私自身だった。

無駄に長かった前髪は綺麗に整えられて、ボサボサだった頭もドライヤーとブラシでセットされている。

顔にはナチュラルメイクが施されていて地味な印象は一切受けないけれど、かと言って派手な印象も無い、

確かに鏡にうつっているのは私自身なはずなのに、まるで私じゃないみたいだった。


いつか自分も化粧をするようになるのは分かってた。

けど、高校生の間はする事が無いと思ってた。

校則では禁止されているし、自分にはまだ早いと勝手に思い込んでいたからだ。



「どやさ。言った通り、地味子は可愛いだろ?」


「そ、それは橘さんの腕が良いからで……」


「まだ言うか。だからアンタはいつまで経っても地味子なんだよ」



な、なんだとこのヤロウ。

大体、地味子地味子って、失礼なんだよ。

確かに地味だけど、本人に直接言うヤツがどこに居る。


口をとがらせて見つめる私の視線なんて、橘さんは物ともしない。

それどころか、満足げに何度も頷いている。



「肌も綺麗だし、目も大きいし、顔も小さいし。これでもうちょっと身長があったらモデルにもなれるんだろうけどねー。地味子、ちっこいし」


「ち、ちっこい言うな」


「でも、こりゃCMに出るのも頷けるわ」



その言葉が、私の心臓を鷲掴む。

顔から血の気が引いていく。

背中に嫌な汗が流れて、目の前がクラクラしてくる。


その様子を見た橘さんは、何かを察したのだろうか、私の隣に腰を下ろす。

すぐ隣に居るのは分かる。

けど、目を合わせられない。



「まぁ、その事だとは思ったよ。地味子、教室で居づらそうだったもんなー」



嫌な気持ちが心の中でグルグルと渦を巻く。

それを落ち着かせてくれたのも、橘さんだった。

背中に添えられる手で、そのまま上下にさすってくれる。

ふと顔を見たら、優しく笑っていた。



「アタシ、こんなんだからさ。クラスの事とかよくわかんないんだよね。でも、地味子がきつそうなのは、何となく分かった。あんだけヒソヒソ話されたら、気分悪いっつーのな」



ケラケラと笑う橘さん。

でもその言葉は、表面から見えるような軽いものじゃない。

優しくて、温かい。


誰にも分かって貰えないと思ってた。

自分の被害妄想だって、馬鹿にされると思ってた。

ボロボロとこぼれる涙。

それを見ても、橘さんは優しく笑ったまま私の背中をさすってくれている。



「化粧した地味子を見たら、きっとみんな驚くぞー?明日なんだけど、迎えに来てやるから化粧して学校行ってみない?」


「そ、それはやだ……」


「残念。でも、迎えに来るからね。地味子の家、通り道だし」


「じ、地味子って言うな」


「地味子が自分で化粧する様になったらやめてやるよ」



お化粧を覚えるきっかけが出来てしまった。

橘さんに、地味子って言わせない様にしなければ。

お母さんなら優しく教えてくれるかもしれない。

きっと、橘さんに聞いても喜んで教えてくれるだろうけれど。

それはなんだか悔しいし。


頬を膨らませて睨む私と、笑いながら背中をさすってくれる橘さん。

気付いたら、いつの間にか涙が止まってた。


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