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ポーション販売当日、大樹の都 オスレフトの中央広場は人で溢れかえった。
それなのに、雑多な印象は全く受けない。
確かに賑やかな話し声はたくさん聞こえる。
けれど騒がしい印象は受けない。
「最後尾、こっちだよー! 看板作ったから、次並ぶ人に渡してあげて!」
「はい、走るの禁止ー! どうせ今から慌てたって買える時は買えるし、買えない時は買えないんだから!」
そう声を掛け合ってるのは、本来お客さんとして並んでいるだけのプレイヤー達だった。
私がお願いした訳でもなんでもない。
みんなが進んでやってくれている。
「……お、思ったよりも、効果が大きかったみたいですね」
キティは露店の前に立つ私の隣で、大広場の様子を見ながら口にした。
驚いた様な、呆れた様な、言葉にするには複雑過ぎる表情だ。
気持ちは分かる。
私も、もっと混乱すると思っていたから。
「キティ、何かしたの?」
「チャンネルで呼びかけただけです。混乱が予想されるから、協力して欲しいと」
「それだけ、みんながユンちゃんの力になりたいって事さ。頑張って用意したかいがあるじゃないか」
ポーションの瓶を運んできてくれたシヴァさんが、嬉しそうに言ってくる。
そう、私はこの一週間頑張ったんだ。
ついこの間、イベントの準備のために頑張ったばかりだというのに。
キティはスパルタだ。
次から次へと素材を仕入れて、一日中調剤を強いてくる。
気の休まる時間なんて無かった。
逃げようかなとも思った。
そうだ、キャラを作り直せば気付かれない!
そう言う私に、キトゥンは鼻で笑いながら伝えてくる。
"センセーとお別れする事になっても良いんですね?" と。
良い訳ない。
センセーは私の大事な友達だから。
しかも、そんな時ばかりセンセーは足に頭をこすりつけてくる。
頑張らない選択肢が見つからなかった。
そのおかげで、沢山のポーションを準備できた。
アーフルのポーションは勿論のこと、クオリティの高い普通のポーションも用意した。
「――本日はありがとうございます! 想像以上に人が集まってしまったため、本日は購入制限を掛けさせて頂きます! アーフルのポーションは1点、通常のポーションは2点、合計3点までです! それでは今から販売を開始します!」
隣で叫ぶキティの言葉を聞いて、大広場に集まったプレイヤー達から歓声が上がる。
私は露店の裏へと周り、シヴァさんのすぐ近くで座って様子を眺めた。
販売が開始されても決して荒れる事は無かった。
みんな行儀良く列に並び、決して押し合わず、買ってくれた人は速やかに流れに沿って大広場から出て行く。
売り切れるまでにそう時間もかからなかった。
販売制限をしたとはいえ、私一人で作られる量は限られていたから。
それでも、列を乱さずに並んでいる人がちらほらと居た。
売り切れていることは伝えてあるのにだ。
不思議に思って見ていると、その人たちはキティに何かを伝えている。
「ちびちゃんによろしく伝えておいて!」
「今回は間に合わなかったけど、また買いに来るから!」
離れた所からでも聞こえる声で、大体の人が同じ様なことを伝えて大広場を出て行った。
直接言いにくればいいのにと一瞬だけ思うけれど、言いに来られれば私は固まってしまうだろう。
みんな気を使ってくれているんだ。
……なんだか、アイドルとマネージャーみたいだ。
私がアイドルなんて、烏滸がましいにもほどがあるけれど。
そうして第一回のポーション販売会は終わった。
勿論、良い事ばかりじゃない。
周りのことなんて考えないで暴れる人も、少しだけ居た。
それでも他の人達が協力してくれたおかげで、何とか大事になる前に対処ができた。
キトゥンが私の代わりに売ってくれた。
ディナダンさんとアーチャーさんがそれを護ってくれた。
シヴァさんが傍に居て、安心させてくれた。
……センセーは膝の上で寝てただけだけど。
そして、みんなが精一杯協力してくれた。
やりたいことが他にもあるはずなのに、買えるかどうかも分からないポーションのために並んで、買えなくても文句ひとつ言わないどころか応援してくれた。
ふと大広場を見渡すと、列の整理をしてくれていた人たちが楽しそうに話しているのを見つける。
あの人たちは、ポーションを買いに来たわけでもない。
ただ無償で手伝いに来てくれていただけ。
その中には、ネザーの廃墟で出会った男の人も居た。
「――よい、しょっ」
ガシャッという瓶が擦れる音が隣から聞こえた。
目を向けると、普通のポーションが大量に入った木箱を、キティが持ってきてくれていた。
「う、売り切れたんじゃなかったの?」
「まさか。一日で全部売るより、何日かに分けて販売した方が供給も広がります。あなたが頑張ってくれたおかげで、まだまだ余裕はありますよ」
「……き、キティ、怒られるかもしれないけど、聞いてくれる?」
「怒る前提で聞きましょう。なんですか?」
「その、あの人たちにポーションをあげたら、ダメかな。手伝ってくれたし」
キティはポーションを数えながら、耳だけ私に傾けてくれている。
返事は一切無い。
お、怒っている……?
「お、お手伝いしてくれたから、問題なく終わったし。何かお礼、したいし」
「ひとつだけ、条件があります」
やりたいことを伝える時は、もっとハッキリと話さなきゃいけない。
オドオドとした態度では、きっと相手もイライラしてしまうから。
現に、キティの表情は厳しい。
眉間にしわが寄り、唇はツンッととがっている。
今度はどんなお説教をされるのだろうか。
そう身構えていたけれど、キティは全く別の事を口にする。
「私ひとりでは、これを運べません。ユンがそっちを持ってください」
そっぽを向きながらそういうキティの顔は、ほんの少しだけ赤く染まっている。
キティが照れを隠す時にする仕草。
きっと初めからそのつもりだったんだろう。
箱の中のポーションは、丁度彼らと同じ数だ。
本当に、素直じゃない。
「――うんっ!」
イベントに出て、私の遊び方は確かに変わってしまった。
最初はイベントになんて出なければ良かったとも思った。
こんな風に遊び方を制限されるなら、ゲームなんて止めちゃおうかとも。
けれど、それがいつの間にか変わっていた。
ひとりで遊ぶゲームも、勿論楽しい。
けどそれ以上に、誰かと何かを達成するっていうことはそれ以上に楽しい。
ひとりでこっそり遊ぶことは、もうできないかもしれない。
それでもこんな遊び方も悪くないと思えるようになったのは、間違いなくみんなのお陰だ。
今なら自信を持ってハッキリ言える。
イベントに参加して、本当に良かったって。
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