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2020.05.23 1話目
ダンジョンへ行くにあたって、一番渋っていたのはキトゥンさんだった。
懇親会は必要ない。
自分は商人だから、街から出る必要性を感じない。
そう主張するキトゥンさんを、ディナダンは何度もパーティへ誘った。
そのやり取りが繰り返され、しびれを切らしたキトゥンさんはこう口にする。
「そもそも求めているのはビジネスパートナーであって、友達ではありません」
その一言を聞いて、泣き出した恥ずかしい人が居る。
何を隠そう、この私だ。
まるで滝の様に流れる涙。
さすがにそれを見たキトゥンさんはほんの少しだけたじろぎ、ディナダンさんが追い打ちをかける。
「あーあ、泣かせたー。先生に言いつけてやろー」
子供か。
けれど、キトゥンさんは普段の理知的な雰囲気からは想像できないほど取り乱した。
そして、シヴァさんがとどめと言わんばかりに言葉をぶつける。
「なんだかんだ言ってるけど、怖いだけなんでしょ?」
その一言が事態を大きく動かした。
青筋を立てるキトゥンさん。
杖を強く握り締めたまま両手を振り上げ、まるで小さな鬼の様に怒り出す。
「こ、怖い訳ないじゃないですか! 誰だと思ってるんですか! 良いですよ、行きますよ! 行けば良いんでしょう!」
そうした経緯を経て、私達は"ラルフの森"と呼ばれるダンジョンの入り口の前に訪れた。
ちなみに、トゥアレさんは忙しいという事でお店に残った。
その事でキトゥンさんがまた怒ったのは言うまでもないだろう。
ラルフの森は、その名の通り沢山の樹が生い茂っている森のダンジョン。
不穏な空気はあまりなく、神秘的な雰囲気すら感じられる。
「それじゃ俺が先頭で行きますか。その後ろに姐さん、キティ、最後尾にユンちゃんが無難かね」
「ユンさんが殿ですか?」
「他に近接戦が出来るヤツが居ないからな。まぁ、後ろ取られない様に気を付けるよ」
「余り安心は出来ませんね。……っていうか、キティって何ですか。友達じゃないんですから、やめてください」
なんだか物騒な話し合いをしてる。
キトゥンさんは、口ではそう言いながらもディナダンさんの提案に従ってくれている。
それにしても、キティって可愛いな。
私もキトゥンさんを―――
「き、キティ……キトゥン、さん……」
「ん? 何か用ですか?」
「……なんでもないです」
「用が無いなら集中してください。」
な、なんでもないですごめなさい調子に乗りました……。
ラルフの森はすごく綺麗な場所だった。
もしもダンジョンにおうちが建てられるなら、私はここが良い。
森の中に棲む魔女。
ふふふ、本当にシャルトスみたい。
「ゆ、ユンさん、ボサッとしないでください。不意打ちされたらどうするんですか」
キトゥンさんはダンジョンに入ってからというもの、ずっとこの調子だ。
景色を楽しむ余裕も、辺りを探索する余裕も無さそう。
……もしかして。
「キトゥンさんって、戦闘苦手ですか?」
不意に聞いてみた私の質問に、キトゥンさんはピタリと動きを止めた。
図星なのだろう。
普段のポーカーフェイスでは考えられない様子に、思わずクスリと笑ってしまう。
「な、なな、なにがおかしいんですか! 私は商人です、戦闘なんて必要無いんです!」
可愛い。
やっと年相応な所を見られた気がする。
「だ、大丈夫ですよ! 私が傍に居ますから!」
「失礼ですが、ユンさんがそこまで強いとも思えません。前回のイベントではシャドウの彼女を相手にギリギリだったじゃありませんか」
ぐうの音も出ない。
「で、でも、キトゥンさんよりは絶対に慣れてます! 」
「どうですかね。経験はありませんが、私だって多少の戦闘位なら―――お?」
キトゥンさんが突然止まり、川の傍に目を向ける。
私も真似をしてみると、シャルトスの瞳がポップアップを知らせてくれた。
「……妖精の、粉?」
「おや、ユンさんも鑑定を持っているんですか?」
「あ、えっと」
「……スキル構成を尋ねるのはマナー違反ですね。失礼しました」
言いながら、キトゥンさんは列から離れて川へと向かう。
ダンジョンを歩く事に慣れていないのだろう、その足取りはたどたどしい。
「き、キトゥンさん! 勝手に行ったら駄目ですよ!」
「大丈夫ですよ、取ったらすぐに戻りますから」
私の制止も聞かず、どんどんと進むキトゥンさん。
一応ディナダンさんに声をかけると、ニヤニヤと笑いながら手を払っている。
"行ってこい"。
そう言っているような気がした。
シヴァさんは若干呆れているようにも見える。
仕方なく、私はキトゥンさんについて行った。
年相応で可愛いけど、勝手な行動をしたら怒られるんだぞ。
ここはダンジョンの先輩として、ビシッと言ってあげなければ。
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