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2020.05.21 2話目
トゥアレさんが用意してくれたのは、栗色のロングスカートと真っ白な袖の無いシャツ、首元に付ける細くて黒色のリボンに同じ色で少しオーバーサイズのマントだ。
マントは袖口が広くて、ギリギリ指先が出る位の大きさ。
そしてなんと、お気に入りの三角帽子まで新調してくれた。
どれも店売りで買った物よりずっとクオリティが高くて、少し大人っぽい雰囲気のデザイン。
「おぉ、似合うじゃん。流石はトゥアレだ」
着替え終わるまで待っててくれたシヴァさんが、嬉しそうに言ってくれる。
お姉ちゃんが居て、一緒に買い物に来たらこんな感じなんだろうか。
「当たり前でしょ、誰が作ったと思ってるのよ。とはいえ、大丈夫?きつい所とか無い?」
「は、はひ」
完全に人形状態だ。
実生活ではおしゃれはあまりしないし、お出かけの時はお母さんが選んで買って来てくれた服をいつも着ている。
部屋着も、つい最近までは中学生の頃の体操服を着ていた。
お母さんに体操服を全部捨てられて、新しい部屋着を買ってもらわなければ未だにそうしていた。
変な服は着てないだろうけど、此処まで綺麗な服を着たことも無い。
「イベントの映像見た時から、勿体ないと思ってたのよ。こんなに可愛いんだから、ちゃんとした服を着せてあげたいって!」
興奮した様子で、トゥアレさんがグイグイと詰め寄ってくる。
こ、怖い。
けど、さっき来られた男の人よりは怖くない。
シヴァさんもセンセーも、その様子を察してか止めに来てくれない。
「さて、ユンちゃん。シヴァからはここであなたを匿う様に言われているけど、私から一つ条件を出させてもらうわ」
そうだ、トゥアレさんはシヴァさんの友達で、別に私の友達という訳じゃない。
少なからず迷惑をかける事になるし、ちゃんと役に立たなければ。
息をのむ。
難しいクエストとか、高いお金だったらどうしよう。
私、お金持ってないし。
「条件は、他の所で服を買わず、私の所に来てくれること。それから、今回の件が落ち着いたら、スクショをお店に飾らせてくれること。」
スクショを、お店に……!?
シヴァさんに助けてもらいたくて目を向けると、シヴァさんはニヤニヤと笑ってこっちを見てるだけ。
センセーにいたってはもう寝てる。
「もし良いなら匿うのは勿論、今ユンちゃんが着ている服もあげちゃう! 最高傑作とは言えないけど、今着てる服よりもずっと良い物よ! それでも渋るなら、腕の良い鍛冶師も紹介してあげるわ! ユンちゃんのメイン武器は細剣よね? それくらいならきっと一日で―――」
「トゥアレ、ストップ。ユンちゃんの頭がパンクしてる」
目を輝かせながらまくし立てるトゥアレさん。
口をはさむ隙なんて全くなかった。
色々と思う所はある。
お店にスクショを飾るという事は、言ってしまえばファッションモデルみたいなものだ。
私みたいなちんちくりんより、もっと凹凸の激しい女の人の方が服が映えるに違いない。
それでも、トゥアレさんは私を選んでくれてる。
こんなに良い服を選んでくれて、それをほぼ無料で差し出してくれて。
断ったら断ったで失礼なのかもしれない。
……この服可愛いし。
出来る事なら、欲しいし……。
「わ、私なんかで、良ければっ」
「ホント!? やったーーー!!」
両腕を上げて喜ぶトゥアレさん。
そ、そこまで喜ぶ様な事だろうか。
私の方こそ喜ばなきゃいけないのに。
「ユンちゃん、良かったね。トゥアレはこう見えて、一流の裁縫師だ。オーダーメイドで買おうと思えば、いつまで待たされるか分かったもんじゃない」
「な、なによ! シヴァのだってちゃんと作ってるわよ! 今は仕事が立て込んでるけど! っていうか、シヴァだってスクショ飾らせてくれれば直ぐに作ってあげるって言ったじゃない!」
「はっはー、絶対にごめんだね」
オーダーメイド……!
それに、予約待ち……!
一流プレイヤーのシヴァさんが利用するくらいの、凄腕裁縫師……!
とんでもない人と知り合ってしまったのかもしれない。
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