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そうこうして訪れたのは、街の上層区にある図書館だ。
思わずワクワクしてしまう。
現実世界でも私は図書館が好きだから。
静かな雰囲気と本の匂い。
あぁ、たまらない。
買ったばかりのケープをひらひらと揺らしながらその大きな建物に足を踏み入れると、受付らしき場所に座っているのは半透明な女性。
まぁ、ヒト族は居ないのだから当たり前と言っては当たり前なのかもしれない。
「こんにちは。本日はどのようなご用件ですか?」
「えっと、調剤に関する本が読みたくて」
「ご案内しましょうか?」
「いえ、大丈夫、です」
ふっ、これぞボッチの宿命。
知らない人に、それも綺麗なお姉さんに図書館を案内してもらうなんてレベルの高い事は私には出来ない。
図書館なんてどこも同じだし、目当ての本位すぐに見つかるでしょう。
そう思ってた私が馬鹿だった。
ネザーの図書館はやたらと大きく、一日で回り切れるかどうかすら怪しい。
そもそも一番上の棚にあるあの本はどうやってとるんだろう。
ハシゴで取るにしたって高過ぎる。
っていうか、本が入りきらず、床に積んであるし。
お子様が転んだらどうするんだ。
見上げているだけで首が痛くなりそう。
暫く歩いているけれど、皆目見当もつかない。
どこに何が置いてあるのかさっぱりわからない。
受付のお姉さんに案内を頼めばよかった。
そうこうしている内に、ふと気になる本を一冊見つけた。
"ネザーに存在する種族の一覧"。
始めた時から気になっていた事が一つある。
それは私の種族の事。
公式サイトにも載っていないし、種族の選択欄にも無かった謎の種族。
その情報も、もしかしたらこの本には載っているかもしれない。
わはは、流石図書館。
知識の宝庫である。
その本を手に取り、隅の方にある閲覧席へと持って行く。
ソファがフカフカで気持ちいい。
今度からお昼寝の場所はここにしても良いかもしれない。
ゲームの中だけど。
そして、持ってきた本を膝の上に置いて、開いてみた。
目次のついた、調べやすい本。
ゴーストやスケルトン等は細かく特徴が書かれていたので期待をしたのだけれど、目当てのページに書いてあったのはほんの数行だけだった。
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・幽世の少女
本来生者が生まれるはずのない幽世の都市 ネザーにて生を受けたヒト族の少女。
ヒトにもなれず、人外にもなれない特殊な存在。
見た目はヒトと変わらないが、人外種の大きな特徴である"進化の系譜"を持つ。
ある者は忌避の対象として蔑み、またある者は神の代行者として崇拝する事もあるが、その実態は―――。
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……実態は、なんやねーん。
運営さんめ、勿体ぶりよる。
まさか何も決めてない訳ではあるまいな。
とはいえ、分かった事が一つある。
それは、私はヒトの身でありながら進化が出来るという事だ。
進化は人外種の特権。
人外種を選ぶプレイヤー達は、ただのグレーウルフがいつかフェンリルになったり、ケルベロスになったりすることを夢見てプレイをしているという。
その楽しみも捨てがたかったけど、最初はヒトとしてプレイがしたかった為ヒューマンを選んだのだけれど。
まぁ、楽しめるというのであれば楽しむに越したことはない。
いつか悪魔になったり、それこそ神様になったりも出来るのだろうか。
……楽しみ。
パタンと本を閉じて元の棚へと戻してから、私は本来の目的を完遂すべく図書館の中を練り歩く。
あぁ、調剤の本は何処にあるのだろう。
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