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2020.05.18 1話目
「あはっ、いやー愉快愉快。まさか此処まで上手く行くとはねー」
みんなで本陣から少し離れた所までに戻ってきて、真っ先に口を開いたのはシヴァさんだった。
センセーを地面に下ろし、濡れてしまった服を軽く手で叩いている。
「いや、全くだ! これでレオノーラ達も大分楽になるだろ。何せヒーラー部隊は大打撃、タンク部隊も毒を食らってる。アタッカーの両方だって、それなりの被害が有ったろうしな!」
「何より、出鼻を挫けたのは大きいよ。ホント、ユンちゃん様様だ」
二人ともべた褒めしてくれる。
照れるからやめれ。
私は、素直に嬉しかった。
作戦が上手く行ったこともそうだし、二人が私を褒めてくれてるのもそう。
でも、一番嬉しかったのは、二人が楽しそうに笑ってくれてる事。
思わず頬が緩む。
やったったぞー!と、両手を突き出して喜びたい。
けれど、それが出来ないのは完全に腰が抜けてしまっているから。
絶叫系のアトラクションなんて、二度と乗らない。
VRだから大丈夫だと思ったけど、全然大丈夫じゃないんだもん。
怖かった。
「さて、此処からどうするか」
ひとしきり興奮してから、我に返ったかのようにディナダンさんが口にする。
一先ず奇襲は大成功。
レオノーラさんが率いる本隊は、このまま衝突すれば押し切れるだろう。
けどこの戦いは旗取り合戦。
本隊がいくら押していようと、旗を取られればお終いだ。
「私達はこのまま、旗の防衛に回るのが良いと思います」
本隊が押されている以上、紅組軍は一発逆転にかけて旗を取りに来る。
本隊にプレイヤー全員が居るとは考えづらいから。
きっと、私達みたいな遊撃部隊が―――
「はっはーーーー!! ディナダン見つけたーーーー!!」
突然の大声に、思わず身体が大きく跳ねる。
振り返るとそこには、両手に剣を持った男の人が立っていた。
見た目は騎士の様な格好をしているけど、その所作は粗暴そのもの。
クラスに居たら近寄りたくない人ランキングで1位を取れそうだ。
「お、アーチャー! お前、もうこんな所まで攻めて来てたのか? さすがだなぁ!」
「あ、アーチャー……?」
でも、両手に持ってるのは剣。
デザインも似ているし、きっと雌雄一対の剣なんだと思うけど。
「あいつはアーチャー。名前は弓兵だけど、根っからの近接馬鹿で―――」
「ディナダンの好敵手だ! 今日もお前とやり合うために全力で駆けつけて来たって訳よ! さぁ、俺と戦え!」
「えぇ、やだよ。今日くらいパーティ戦を楽しませてくれ」
食い気味に熱く語るアーチャーさんと、それを袖にするディナダンさん。
た、確かに、今ここからディナダンさんが離れられたら困る。
私やシヴァさんではタンクが出来ないし、もしも敵が攻めて来たら守り切れないかもしれない。
「ディナダン、行ってやりなよ」
そんな私の考えとは正反対の事を、シヴァさんは口にした。
「アーチャーってあの有名なアーチャーだろう? 君と同じくらい有名で、プレイスキルも高いって聞いてるよ」
シヴァさんの言葉を聞いて、アーチャーさんはなんだか嬉しそうに頬を染めている。
それどころか、フンッと鼻を鳴らして誇らしげに胸を張ってさえ居る。
なんだか、大型犬みたいでちょっとだけ可愛い。
怖い人かなと思ったけど、可愛い人なのかもしれない。
「もしそのアーチャーなら、君くらいしか止められないだろう?大丈夫さ、ユンちゃんは私が護るから」
「ふっふっふー、そう簡単にいくかなー?」
アーチャーさんの後ろから声が聞こえる。
男性というには高い声で、女性というには少年らしい中性的な声。
そこからヌッと顔を覗かせたのは、一人の骸骨だった。
見覚えがある。
確かあの骸骨さんは、私に地図をくれたヒトだ。
あの強そうな杖がその証拠。
「げ、リッチー……」
「うひょひょひょ! 良いのかな、良いのかな? 僕の魔王軍が総出で旗を取りに行っちゃうよー?」
それを聞いたシヴァさんは、面倒くさそうに頭を抱える。
リッチーで魔王軍という事は、召喚系の魔術師だろうか。
どうでも良いけど、喋る度にカタカタとなるのが面白い。
その時だった。
視界の端にポップアップが上がり、思わず私は走り出す。
その後を直ぐについて来てくれるのは、センセーだけだった。
「ちょ、ユンちゃん!?」
「シヴァさん、その骸骨さんをお願いします!」
シヴァさんの様子から察するに、リッチーさんもきっと凄いプレイヤーに違いない。
アーチャーさんと言い、リッチーさんと言い、そんな凄いプレイヤー二人をこの状況で考え無しに使うとは考えられない。
何より、シャルトスの瞳がその答えを教えてくれた。
"シャドウ"。
以前に薬草の採集ポイントで出会った、隠密性に優れた種族。
人の姿を真似出来るシャドウなら、旗を取りに行くのなんて簡単だ。
「むきーーっ! なんで無視するの! 君も僕と遊ぼうよ!」
突然、目の前の地面がボコボコと膨れ上がる。
そしてそこから顔を覗かせたのは、兜を被った骸骨だった。
い、いかん、足止めされてる時間は無いのに。
「"ヒプノシス"」
シヴァさんの綺麗な声が後ろから聞こえる。
その後すぐに紫色の魔術光が私を追い越し、出てこようとしていた骸骨を包み込んだ。
頭を半分だけ出した状態の骸骨は、その動きをピタリと止める。
そして、聞こてえるのがいびき。
骸骨なのに、いびき。
「相分かった。このがらは私が引き受けよう。気を付けて、行ってらっしゃい」
頼もしい。
それにしても、どうしよう。
頭を出している骸骨はもうすぐ傍だ。
避けようにも間に合わないし、飛び越えようとして転んだら格好悪いし。
……いいや、踏んじゃえ。
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