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緊張する。
作戦が上手く行かなかったらどうしよう。
失敗して、迷惑をかけたらどうしよう。
ディナダンさんとシヴァさんを道連れにしたらどうしよう。
グルグルと頭を回るネガティブな思考。
正直今にでも逃げ出したかった。
自分の考えた物をみんなと一緒にやるっていうのは、こんなにも緊張するものなのか。
その様子を察してか、パーティのみんなが私を支えてくれた。
ディナダンさんは私の右肩を肘置きにして。
シヴァさんは私の左肩に手を添えてくれて。
そして抱いているセンセーはいい加減に放せと指を齧る。
「ユンちゃん、大丈夫だよ。誰も私達がこんなことをしてくるなんて思いもしないさ。絶対に上手く行く」
「そーそー。仮に俺らが抜けたとしても、レオノーラが何とかしてくれるだろ。折角面白い作戦なんだから、気負わずに楽しみながらやろうぜ」
ソロでは味わうことの出来ない一体感。
こもっていた肩の力がスッと抜けていくのを感じる。
センセーは私の腕をスルリと抜けて地面に降りた。
そして数歩前に進み、顔だけ私に向けてくる。
いつもの面倒くさそうな顔。
それでも"行くなら早くしろ"と言ってくれているようで、少し勇気が湧いてきた。
「ぎょ、玉砕覚悟です……!センセー、行くよ!」
左手の短杖で描く文字は、"アクアクリエイト"。
水魔術の初級呪文で、ただの水を作り出すだけの魔術だ。
それぞれ片手ずつ地面へ向けて放つと、二つの水の柱がそこに生まれる。
そこでセンセーが"フリーズ"の魔術を使う。
フリーズも初級の魔術呪文で、物を凍らせる程度の魔術でしかない。
センセーのフリーズが私のアクアクリエイトに当たる。
立派な氷柱へ変わっていくそれに、私は徐々に傾斜を付けて行く。
自軍の頭を通り抜けていく、空に架かる氷の橋。
物理法則なんてまるで無視したその橋の一本に私とディナダンさんが、もう一本にシヴァさんとセンセーが乗り、アクアクリエイトとフリーズで氷の橋を伸ばしながら全速力で走り出す。
落ちない様に、ちゃんと柵を付けて。
どれだけ走っただろう。
レオノーラさん達が率いている白組軍は、ずっと後ろの方に居る。
そして、それと反比例して見えるようになってくる敵の紅組軍。
予想した通り向こう側にもレオノーラさんと同じ類のプレイヤーが居たらしく、隊列を組んで行軍してきている。
彼らはもう私達に気付いている。
ここからは時間との勝負だ。
かき回すのが先か、撃ち落されるのが先か。
「シヴァさん!!」
「はいよ、任せてー! ……――――――!!!」
シヴァさんは一度息を吸い込み、声にならない叫び声を辺り一帯に響かせた。
"恐慌の声"。
初めて見た時は本当に驚いた。
アンデッド種族であるバンシーの特殊なスキルらしい。
この声を聞いた敵対者は恐慌のバッドステータスを与えられる。
紅組軍の先頭を歩いていたタンク部隊は、見事にその場で釘付けになる。
「な、なんだ!?」
「クソ、バンシーだ!! 遠距離部隊、早くしろ!!」
「ふははー、怖いだろー。もーっと恐れ戦け。そら、"エリアバインド"!!」
ケラケラと笑いながら、シヴァさんは次の呪文を唱えた。
もはや紅組軍は混乱に包まれている。
作戦の第一段階は成功だ。
その隙にセンセーは背負わせているバックパックを器用に開き、毒々しい色をした瓶をいくつも下へと落としていく。
私が作った特製の劇毒薬。
地面に当たって瓶が割れると、霧となって一気に辺りを包み込む。
「こっちもちゃっちゃとぶっ放すぞ!!」
ディナダンさんが構えるのは、いつもと違う槍。
作戦会議の時に、要らない槍は無いかと聞いたら沢山出てきた。
だから、沢山作った。
槍の先端に爆破薬を沢山くっつけただけだけど。
ディナダンさんはそれを構えて、投げつける。
その槍が捉えたのは紅組軍のヒーラー部隊だ。
轟音。
そして、爆炎。
「ちょ、ちょちょ、ユンちゃん!? これなに!?」
「ち、調子に乗って、やりすぎました……!」
まるでミサイルの様な威力になってしまったディナダンさんの槍投げ。
これがまだ、後三本もあるのだ。
「あはっ! 本当にユンちゃんは面白いね! そーら、こっちも!」
あらかじめ渡して置いた爆破薬を、シヴァさんはタンク部隊に投下した。
先ほどの爆発程ではないけれど、頭上からの空爆に紅組軍は大わらわ。
辺りが徐々に焼け野原へと変わっていく。
「折角だし、全部投げときますか―――っと!!」
ディナダンさんも続いて、紅組軍の遠距離部隊と近接部隊、最後にもう一度ヒーラー部隊に槍ミサイルを投げ込んだ。
こっちは焼け野原所ではない。
もはやクレーターだ。
ポツリと私の頬を何かが濡らす。
雨だ。
降ってきた。
「て、撤退です! てったーい!」
戦闘は引き際が肝心。
シヴァさんは先生を抱いて、ディナダンさんが私を抱える。
傾斜が付いて、尚且つ落下防止の柵が付いていて、更にそこに水が落ちてきている。
氷の滑り台の完成だ。
「ひゃっほーーーーっ! あばよーーーーっ!」
「それじゃ、元気でねー! また来るよー!」
「ぃ、ぃひゃあああああああっ!!!」
来る時とは逆に、白組軍の本陣へ向かって一気に滑り抜ける。
まるで通り魔の様な行い。
いや、通り魔の方がまだ可愛いかもしれない。
撤退の仕方といい、本当にたちが悪い。
でも、報いはちゃんと受けてるから許して欲しい。
だって私は、絶叫系のアトラクションが苦手なんだから。
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