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遠い昔のお話。

心の優しい魔女が森に棲んでいた。

森の動物達と心を通わし、自然を愛し、人々を愛した。

傷つくものが居れば薬でその傷を癒し、強大な魔物が現れれば魔法を駆使してそれを退けた。


人々は事あるごとに魔女を頼る。



「作物が成りません。このままでは皆が飢えてしまいます」


「街に疫病が蔓延してしまいました。このままでは皆が死んでしまいます」



言われるたびに、魔女は人々を救ってきた。

知識と魔術を駆使して土壌を作り、作物を多く実らせた。

疫病の原因を探り、それを排除した上で皆に薬を与えた。

魔女は嬉しかったのだ。

人々に頼られることが。

人々に認められることが。


そんな見返りを一切求めない魔女の行いに感謝し、人々は魔女を女神の化身として祀り上げた。

しかし魔女はそれを強く否定した。

そんな大それた存在ではないと人々に話した。

けれど、人々の心は変わらない。

まるで本物の女神の様に持て囃し、その噂は方々へと伝播した。


しかし、それを良く思わない男が居た。

人の心を惑わす魔物だと声高々に主張し、魔女を貶めようとした。

それでも人々の心は変わらない。

魔女を信じていたからだ。




ある日、魔女の齎した薬で人が死んだ。

初めてのことに、人々は戸惑った。



「女神の化身であるのなら、こんな事を犯すはずがない」


「やはりあの娘は魔物だったのだ」



男は再び声を大にして人々に話した。

そんなはずはないと人々は口にする。

けれど、その言葉に以前ほどの力は無かった。

もしかしたら、本当にただの魔物なのではないか?

自分たちは騙されているのではないか?

人々の心が徐々に変わり始めた時、とある湖に一匹の水龍が住み着いた。

男は魔女の元へ赴き、こう語った。



「お前が本当に人々の為を思うのであれば、湖に住み着いた水龍にその身を捧げろ。もしも生きて帰ってこられたのならば、お前を女神の化身と認めてやろう」



魔女は何も言わず、ただ一度だけ小さく頷いた。




その夜、魔女は湖へと足を運んだ。

男が話す通り、そこには一匹の水龍が住み着いていた。

優しい顔をした穏やかな水龍は、嬉しそうに魔女に向かって尋ねる。



「此処まで心地良い土地は久しぶりだ。私を此処に置いてはくれないか?」



魔女は俯きながら答える。



「構いません。その代わり、一つだけお願いがあります。どうか私を食べて下さい。もう、疲れてしまったの」



言い終わると魔女は、湖の中へと身を投げた。

人々に頼られる事が嬉しかった。

人々に認められる事が嬉しかった。

ただそれだけだったはずなのに。

心を疲弊させた魔女を見た水龍は、深く心を痛めた。



「あぁ、清らかで哀れな女神よ。せめてひと時の間だけでも私の中で眠るがいい」



水龍は一口で魔女の身体を飲み込んだ。

水龍の胸の奥から込み上げてくる悲しみ。

まるで魔女の心を代弁するかのように、水龍は三日三晩涙を流し続けた。

その涙は湖を溢れさせ、溢れた水は人々の住む街へと迫る。


街の人々は悔いた。

魔女に頼り切っていた生活と、献身してくれていた魔女を一瞬でも疑ってしまった事を。

意を決した街の人々は、水龍の元へと赴いてこう話した。



「我々が間違っていた。彼女を弔う機会を、どうか我々に与えて欲しい」



その言葉を聞いた水龍は大きく頷いた。

これでようやく、彼女の優しさが報われる。

水龍の目から涙は止まり、そして。


魔女は本物の女神となった。


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