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一度ブラックアウトし、視界が晴れて最初に見たのは鬱屈とした薄暗い街並みだった。
アルカナオンラインの世界にはいくつかの主要都市が設置されていて、初期地点はそこからランダムで決められる。
人によってはきっとリセマラをするのだろうけど、私は何処でもやることは変わらない。
のんびり自分のペースで遊ぶだけ……と思ってはいた物の、この街は何だろう、余り良い雰囲気とは思えない。
まるでホラー映画の中に入ってしまったような感覚だ。
案の定、周りに人影は居ない。きっとリセマラ対象第一位の都市なんだろう。
「あれー?珍しいなー。ヒト族って初期で此処に来られたんだー?」
間の抜けた高い声がして振り返ると、そこに居たのは骸骨だった。
ボロボロのローブを身に纏い、明らかに強そうな杖を手に持った、なんともアンバランスなお人。
「迷子? ねぇ、迷子? ぷぷーっ! ゲームの中でまで迷子とか、可哀想ー!」
初対面なのにこの煽り方。
さすがはネットゲームの世界。
ワナワナと震える私をよそに、その骸骨はポイッと一枚の紙を落す。
見たところこの街の地図だろう。
地図の隅に書かれた"幽世の都市 ネザー"と言う文字が、やけに不気味に感じた。
「ようこそ、幽世へ……君が深淵を覗いている時、深淵もまた君をうんたらかんたらー!」
楽しそうに話しながら、骸骨さんは何処かへと行ってしまった。
……何だったんだろう。
知らない人に声を掛けられるのは、どうしても緊張してしまう。
どのゲームでもソロで遊んでいた私には、プレイヤーの誰かと交流するのは少しハードルが高過ぎる。
それでも、地図を貰えたのはすごくありがたい。
地図を広げて見てみると、ネザーはそこまで広い街ではない事が分かる。
いや、十分広いんだけど、複雑な造りはしていないと言った方が正しいだろう。
区画は大きく分けて二つ。
まず一つは、街の中央にある王城周りの上層区。
ここはその名の通り他の建物とは一つ上の層に作られている。
きっと上流階級の住む場所だろう。
そしてその下に広がる下層区は、上層区とは真逆の存在。
一般階級が居を構えたり、お店が有ったり、私達冒険者はこの下層区を主に使うことになるだろう。
逆に上層区は、きっとイベント関連が豊富に設置されていると睨んだ。
ふふふ、伊達にゲームばっかりやってる訳じゃないんだぜ。
とりあえず、まずはステータスの確認をして、そのあと下層区の探索をしよう。
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名前:ユン
種族:幽世の少女
性別:女性
レベル:1
VIT(生命力):7
MND(精神力):14
STR(筋力):6
INT(知力):13
AGI(敏捷度):15
DEX(器用度):21
LUC(幸運度):17
職業:冒険者
スキル:無し
スキルポイント:5
所持金:2500G
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アルカナオンラインにおいて、ステータスの値はある程度の希望は立てられるものの、ランダムで構成される。
例えば私であれば、DEX(器用度)が一番高くて、次いでLUC(幸運度)、AGI(敏捷度)、と、七つあるステータスの中で上位三つの順位は決められる。けれど、細かい数値はランダムで決定されるのだ。
そこに関していえば、まぁ基準値が分からない以上なんとも言えないけれど、概ね希望通りのものだと言える。
問題は種族の項目だ。
キャラクリエイトの時、私は間違いなくヒューマンを選んだ。けれど、此処に表記されているのは"幽世の少女"と言う物。
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"幽世の少女"
人外種の中でもアンデッド族が集まる"幽世の都市 ネザー"で生まれたヒト族の少女。
幽世での生活に耐えるため、生命力を犠牲にして精神力を底上げする事でその身体を確立した。
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んんー……?
人外種と言うのは、アルカナオンラインで選べるとんでも種族である。
スライムや骸骨など、いわゆるモンスターと呼ばれる種族の事だ。
そして、ネザーはその人外種達の中のアンデッド族が最初に送られるスタート地点なのは分かった。
けど、そのネザーにどうしてヒューマンを選んだ私が居るのかが分からない。
……まぁ、いくら考えたところで分からない物は分からない。
後でネットで検索すれば解決するだろうから、今は別の事をしよう。
向かう先はもちろん下層区。
ここで集めなきゃいけないアイテムを揃えて、スキルを取って、実際にこの世界で冒険をしていくのだ。
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