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そこからの戦闘で私に出来る事は少なかった。
ディナダンさんはたまに攻撃を受けて死にそうになりながら、それでも楽しそうに悪鬼と戦っていた。
アルカナオンラインでのハイレベル戦闘とは、こういう物なのだろうか。
柄にもなく、興奮してしまった。
「あ、危なかったー……!!」
ようやく悪鬼のHPを削り切ったディナダンさんは、槍を地面に落としながら大の字で身体を寝かせて空を仰ぐ。
肩で息をしているのは、緊張疲れだろうか。
私はすぐに駆け寄り、傍で地面に両膝を付いて、バシャバシャと手持ちのポーションを全てディナダンさんにかける。
それでも、ディナダンさんのHPを全快させることは出来なかった。
ディナダンさんの言う通り、ギリギリの戦闘。
けど、勝てた。
心の底から湧き上がる興奮に耐えられず、私はペチペチとディナダンさんを叩いていた。
「す、凄いです、流石です。まさか本当に倒しちゃうとは思いませんでした。ヒーラーもタンクも居ないのに」
「いやいや、ユンちゃんがどっちも軽くやってくれてたじゃない」
笑いながらディナダンさんが言ってくれる。
私に出来る事は本当に限られていた。
でも、だからこそ出来る事を精一杯やっていた。
タンクもヒーラーも、胸を張ってやっていたとは決して言えない物。
わざと後ろから近づいて尻尾を誘発させて時間を稼いだり、そういう細かい事だけを一生懸命頑張った。
「あれ、めっちゃ助かってたんだよ。本当によく見てるよね」
「え、いや、その……」
思わず頬が緩み、照れ臭くて視線を空へと移す。
暮れていく夕陽。
そうだ、確かディナダンさんから貰った素材の中にあれが有った。
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アーフルの果実
クオリティ C
レアリティ ノーマル
アーフルの樹になる瑞々しい果実。
甘いその果実は、人の心を幸せにする。
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アーフルの果実なんて言っているけれども、見た目は完全に林檎のそれだ。
きっと林檎と同じ味がするに違いない。
初心者調剤セットでお湯を沸かす。
紅茶を淹れるのに一番丁度良い温度。
シャルトスの瞳のお陰で、温度の調整が分かるようになったのは大きい。
そして、乾燥した薬草と一緒に折れた細剣で切ったアーフルの果実を浸した。
本当は、別々で出来ればいいんだけれども。
そうして出来上がったのが、お手製のポーション。
手間を加えたそれはきっとクオリティが―――
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アーフルのポーション
クオリティ C+
レアリティ ハンドメイド
プレイヤー ユンによって作られた、アーフルの風味を味わえる水薬。
HPを最大値の46%回復する。
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・・・・わひゃぁ。
ここに来て一番いい物が作れるとは。
やっぱりポーションは紅茶に似てるのかもしれない。
「お、またポーション?」
「ふひひっ、今までのとは一味違うんですよ、旦那。カップとかあります?」
怪しい笑いをする私を目に、ディナダンさんは苦笑いをしながらカップを出してくれる。
それにアーフルのポーションを注ぐと、何も言わずに飲んでくれた。
「……アップルティ?」
「はい。アーフルの果実を突っ込んでみたら、回復量上がりました」
「おいおい、マジかよ。これって、結構な発見だぞ……?」
目を見開いて驚いているディナダンさん。
私はカップを持ってないので、そのままポーション瓶から直飲み。
うん、薄い。
まだまだ改良の余地はありそうだ。
けど、美味しい。
「今度はサンドイッチでも持って、此処に来たいですね」
「ははっ、ダンジョンの最奥でピクニックか?それも良いな!」
最高の景色と、自分で淹れた紅茶。
悪鬼のせいで地面が荒れちゃったけど、ピクニックには持ってこいの場所だ。
いっそ此処にお店を開いたら、……それは流石に、あの女の人に怒られそうか。
突然、目の前にウィンドウが現れる。
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『ディナダンよりフレンド申請が届いています。承認しますか?』
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その誘いに、思わず目を見開いた。
きっとディナダンさんはトッププレイヤーなんだと思う。
実力もあるし、何よりほぼ一人で悪鬼を倒しきるなんておかしい。
そんなディナダンさんが、私にフレンド申請を……?
ゲームを始めた時、私は一人で楽しむつもりだった。
人と話すのが苦手で、友達だって少なくて、クラスでも一人ぼっちで。
そんな私とゲームをしたって、絶対に楽しくない。
だからいつも一人で遊んでた。
その方が私も楽だから。
表示されるウィンドウに手を伸ばす。
断ろう。
今回だって、アイテムを沢山貰って、剣だって折っちゃって。
きっと迷惑をかける事になる。
指がNoのボタンに触れそうになった、その時だった。
「さすがに、ユンちゃん一人じゃ此処まで来られないだろ?」
ディナダンさんの一言が、私の背中を押してくれた。
迷惑はかけるかもしれない。
けれど、それ以上に。
"誰かと一緒に遊ぶのが楽しかった"。
ほんの少し照れ臭いけれど、嬉しくて思わず笑ってしまう。
改めてウィンドウに手を伸ばし―――
「また来たいので、その時もパーティお願いします」
Yesのボタンに、そっと触れた。
2020.05.12
初めての作品という事で、一気に駆け抜けました。
次が上がるかもわからない作品でしたが、最後まで見ていただいてありがとうございます。
また何かの機会で、貴方に出会えますように。
asn。




