表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/80

12


そこからの戦闘で私に出来る事は少なかった。

ディナダンさんはたまに攻撃を受けて死にそうになりながら、それでも楽しそうに悪鬼と戦っていた。

アルカナオンラインでのハイレベル戦闘とは、こういう物なのだろうか。

柄にもなく、興奮してしまった。



「あ、危なかったー……!!」



ようやく悪鬼のHPを削り切ったディナダンさんは、槍を地面に落としながら大の字で身体を寝かせて空を仰ぐ。

肩で息をしているのは、緊張疲れだろうか。


私はすぐに駆け寄り、傍で地面に両膝を付いて、バシャバシャと手持ちのポーションを全てディナダンさんにかける。

それでも、ディナダンさんのHPを全快させることは出来なかった。

ディナダンさんの言う通り、ギリギリの戦闘。

けど、勝てた。

心の底から湧き上がる興奮に耐えられず、私はペチペチとディナダンさんを叩いていた。



「す、凄いです、流石です。まさか本当に倒しちゃうとは思いませんでした。ヒーラーもタンクも居ないのに」


「いやいや、ユンちゃんがどっちも軽くやってくれてたじゃない」



笑いながらディナダンさんが言ってくれる。

私に出来る事は本当に限られていた。

でも、だからこそ出来る事を精一杯やっていた。

タンクもヒーラーも、胸を張ってやっていたとは決して言えない物。

わざと後ろから近づいて尻尾を誘発させて時間を稼いだり、そういう細かい事だけを一生懸命頑張った。



「あれ、めっちゃ助かってたんだよ。本当によく見てるよね」


「え、いや、その……」



思わず頬が緩み、照れ臭くて視線を空へと移す。

暮れていく夕陽。

そうだ、確かディナダンさんから貰った素材の中にあれが有った。




-------------------


アーフルの果実

クオリティ C

レアリティ ノーマル

アーフルの樹になる瑞々しい果実。

甘いその果実は、人の心を幸せにする。


-------------------




アーフルの果実なんて言っているけれども、見た目は完全に林檎のそれだ。

きっと林檎と同じ味がするに違いない。

初心者調剤セットでお湯を沸かす。

紅茶を淹れるのに一番丁度良い温度。

シャルトスの瞳のお陰で、温度の調整が分かるようになったのは大きい。


そして、乾燥した薬草と一緒に折れた細剣で切ったアーフルの果実を浸した。

本当は、別々で出来ればいいんだけれども。

そうして出来上がったのが、お手製のポーション。

手間を加えたそれはきっとクオリティが―――




-------------------


アーフルのポーション

クオリティ C+

レアリティ ハンドメイド

プレイヤー ユンによって作られた、アーフルの風味を味わえる水薬。

HPを最大値の46%回復する。


-------------------



・・・・わひゃぁ。

ここに来て一番いい物が作れるとは。

やっぱりポーションは紅茶に似てるのかもしれない。



「お、またポーション?」


「ふひひっ、今までのとは一味違うんですよ、旦那。カップとかあります?」



怪しい笑いをする私を目に、ディナダンさんは苦笑いをしながらカップを出してくれる。

それにアーフルのポーションを注ぐと、何も言わずに飲んでくれた。



「……アップルティ?」


「はい。アーフルの果実を突っ込んでみたら、回復量上がりました」


「おいおい、マジかよ。これって、結構な発見だぞ……?」



目を見開いて驚いているディナダンさん。

私はカップを持ってないので、そのままポーション瓶から直飲み。

うん、薄い。

まだまだ改良の余地はありそうだ。

けど、美味しい。



「今度はサンドイッチでも持って、此処に来たいですね」


「ははっ、ダンジョンの最奥でピクニックか?それも良いな!」



最高の景色と、自分で淹れた紅茶。

悪鬼のせいで地面が荒れちゃったけど、ピクニックには持ってこいの場所だ。

いっそ此処にお店を開いたら、……それは流石に、あの女の人に怒られそうか。

突然、目の前にウィンドウが現れる。




-------------------


『ディナダンよりフレンド申請が届いています。承認しますか?』


-------------------




その誘いに、思わず目を見開いた。


きっとディナダンさんはトッププレイヤーなんだと思う。

実力もあるし、何よりほぼ一人で悪鬼を倒しきるなんておかしい。

そんなディナダンさんが、私にフレンド申請を……?


ゲームを始めた時、私は一人で楽しむつもりだった。

人と話すのが苦手で、友達だって少なくて、クラスでも一人ぼっちで。

そんな私とゲームをしたって、絶対に楽しくない。

だからいつも一人で遊んでた。

その方が私も楽だから。


表示されるウィンドウに手を伸ばす。

断ろう。

今回だって、アイテムを沢山貰って、剣だって折っちゃって。

きっと迷惑をかける事になる。

指がNoのボタンに触れそうになった、その時だった。



「さすがに、ユンちゃん一人じゃ此処まで来られないだろ?」



ディナダンさんの一言が、私の背中を押してくれた。

迷惑はかけるかもしれない。

けれど、それ以上に。



"誰かと一緒に遊ぶのが楽しかった"。



ほんの少し照れ臭いけれど、嬉しくて思わず笑ってしまう。

改めてウィンドウに手を伸ばし―――



「また来たいので、その時もパーティお願いします」



Yesのボタンに、そっと触れた。


2020.05.12


初めての作品という事で、一気に駆け抜けました。

次が上がるかもわからない作品でしたが、最後まで見ていただいてありがとうございます。


また何かの機会で、貴方に出会えますように。


asn。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 照れるユンちゃんきゃわわ フレンド申請よかったね~ ほっこりしました、ありがとうございます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ