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振り上げられる金棒。
予想通り、赤い線がその攻撃を予測して示してくれる。
今はまだ紙一重で避けようとするな。
オーバーアクション位で丁度良い。
横に走ってその赤い線から逃れると、金棒は赤い線をなぞるように地面へと叩きつけられる。
グラグラと揺れる地面に足を取られてしまって、顔から地面に倒れ込む。
痛みは無いけど、格好悪い。
それでもすぐに立ち上がって、悪鬼を視界に入れる。
シャルトスの瞳は、目にしたモノの情報しか与えてくれない。
避け続けるには悪鬼をずっと見ていなければいけない。
次に悪鬼は、まるでバットを振る様に両手で金棒を構える。
すると、悪鬼を中心に赤いサークルが現れる。
それだけでどんな攻撃かは予測できた。
距離を離す様に走ると、悪鬼は回転しながら金棒を振り―――地面にドタンッと尻もちをつく。
再び揺れる地面。
けれど、先ほどほどの揺れではない。
なるほど、攻撃のタイミングは此処だろう。
焦らず、次のタイミングで飛び込もう。
立ち上がった悪鬼は、まるで何かをためる様に息を吸い込む。
そして今度は悪鬼の正面に放射状の線が伸びる。
それならと背後を取るように回り込みながら様子を見ていると、悪鬼は炎を口から吐き出した。
これも予想通り。
炎を吐き続ける悪鬼は隙だらけで、流石にマーカーは突けないけれど、後ろから攻撃出来そうだ。
そう思って警戒しながら近づこうとした、その時だった。
突然、悪鬼の後ろにも放射状の線が現れる。
怪しいモーションは無かった。
前進しようとする足を無理矢理止め、後ろへ跳ぶ。
その瞬間、悪鬼の太い尻尾が私の身体すれすれの所を通り過ぎていく。
息が止まる。
生きた心地がしなかった。
けれど、まだ生きている。
落ち着いて距離を取り、心を落ち着ける様に何度も呼吸を繰り返す。
その間も、悪鬼は待ってはくれない。
距離が離れれば、近くにあるものを掴んで投げてくる。
落下地点は赤い線が教えてくれるものの、心が一切休まらない。
それと同時に、どんどんと気持ちが高揚してくる。
一発でも食らったら即アウト。
ヒリつくような緊張感。
ゲームを好きな理由を改めて実感する。
準備を重ねる事で絶対に勝てる勝負をするのも好きだ。
けれど、この緊張感も大好きだ。
段々と悪鬼が振るう金棒の範囲も分かってきた。
そのギリギリを攻める様に、距離を詰める。
縦振りの時は横へ跳び、スタンを避ける。
ブレスが来れば走り、悪鬼の側面を取る。
決して後ろには回らない。
繰り返される攻防は、どれだけ続いただろうか。
そして、ついに来た。
バットを振るような、横振りのモーション。
後ろへ跳び、紙一重で金棒を避けて、一気に前へと駆け出す。
右手で持った細剣を引き、腰の回転と共に悪鬼の左膝へと―――
おかしい。
悪鬼が倒れない。
さっきは有った尻もちをつくモーションが発生しない。
その代わりに現れる、縦に走る一本の赤い線。
回転を堪え、そのまま縦へ振る攻撃へ移る。
気持ちが逸り過ぎてしまった。
何度かモーションを見てから攻撃へ移るべきだった。
赤い線は見事に私を捉えている。
身体は止まらない。
あぁ、くそ、もう少し楽しみたかった。
出来る事なら、このまま倒してみたかった。
独り言チャンネルで自慢したかった。
諦めの気持ちが過ぎった、その時だった。
『そのまま、突っ込め!!!!』
聞き覚えのある声が頭に響く。
色々確認している暇はない。
どの道、回避は間に合わない。
一矢報いる覚悟を決めた私は、引いた細剣を鋭く突き出した。
それと同時に、私の右上を青い線が走る。
視界の端、悪鬼の情報が映るウィンドウの下に現れるポップアップ。
"鉄血の槍"。
その槍は金棒を握る悪鬼の腕を鋭く穿ち、その攻撃を阻止した。
そして、私の突き出した細剣は深々と悪鬼の左膝に突き刺さる。
「グガアアアアアアアァァァッ!!!」
膝を突かれた悪鬼は悲鳴を上げながら、バタリと仰向けに倒れた。
それと同時に、私の持っている細剣はパキンッと音を立てて折れてしまう。
悪鬼のHPはまだまだ残っている。
攻撃へ移るなら―――いや、そうじゃない。
態勢を立て直すのが今なのだ。
柄だけになった細剣を握り締め、悪鬼に背中を向けて走る。
入れ替わるように走ってくる影を見て、ようやく心が安らいだ。
「よく頑張った、後は任せろ」
あぁ、ディナダンさん。
この人はどうしてこんなにイケメンなのか。
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