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扉を開けて目にしたのは、綺麗な庭だった。

噴水が真ん中にあって、花壇や植木なんかもあって、のんびりするのには打って付け。

置いてあるベンチでお弁当を食べたり、本を読んだりしたら気持ちいいかもしれない。

大分高い所にあるのか、視界の先には雲海が広がっていた。


いいなぁ、私もこんな家に住みたい。

家じゃないけど。

学校に行くのも大変そうだけど。


辺りを警戒しつつ庭へと出ていると、ネザーでは感じられなかった太陽の光が差し込んでくる。

なんだかもうずっと長い事見ていなかった様な気になってしまう。

吹いてくる風も気持ちいいし、なんだか眠たくなってしまう。

延々と上がり続けるポップアップが無ければ。


目で見た物全ての情報を引き出してしまうシャルトスの瞳は、私の意志とは関係なくそれを与えてくる。

幸いなのは、本当に小さなウィンドウでそれを知らせてくれる事だろう。

地面、柱、小石、雑草、空、ベンチ。

そんなポップアップが小さな音と共に視界の端で上がり続ける。


正直に話せば、鬱陶しい。

ええい、音は消せんのか。

そう考えながら中庭に出た時だった。

背筋に悪寒が走るポップアップを目にしてしまった。



"悪鬼"。



思わず踵を返し、柱の後ろに隠れる。

きっとエネミーが視界の端に映ったんだ。

あんまり強くないモンスターだったらいいけれど。

そう思ってポップアップのウィンドウを開いた、その時だった。



「グオオオオオオアアアアアッ!!!!」



えええぇぇぇ・・・・!?

背後で聞こえる野太い雄叫び。

柱の陰から顔を出し、その声の主を確認する。


そこに居たのは、鬼だった。

岩石の様に大きな体。

丸太の様に太い両腕。

まるで天を突かんとばかりに伸びる額の角。

手に持ったあれは金棒だろうか。

大きく開いた口からは、鋭い牙がいくつも覗いている。


あれがあんまり強くないモンスター?

そんなの有り得ない。

間違いなくボス級のモンスターだ。

悪鬼は近くにあるベンチを掴み、私の方へと視線を投げる。

気付かれてる?

でも直ぐ隠れたし、もしかしたら―――


そんな希望的観測を打ち砕くように、私に向かって赤い線が伸びてきた。

これが何なのかは分からない。

けれど、間違いなく動いた方が良いだろう。

震えそうになる膝に鞭を打ち、無理矢理引きずるように走り出す。

もつれる足のせいで転びそうになるが、すぐ隣の柱に隠れる事が出来た。


その瞬間だった。

轟音と共に、先ほどまで居た柱が崩れるのを目にする。

突き刺さっているのは悪鬼が投げたであろうベンチだ。


もしもあのままあそこに居れば、デスルーラ待った無しだった。

先ほどの赤い線は、もしかしたら敵の攻撃を示した物だろうか。

けど、ディナダンさんと戦っていた時にそれは見えなかった。

……もしかして、シャルトスの瞳が?


説明文に乗っていたのは、"目にしたモノの情報を知ることが出来る"という物だった。

モノの内にモンスターの攻撃も含まれているのであれば、それを知ることが出来てもおかしくはない。


視界の端で開いたままになっている悪鬼の情報。

細かく見ている時間は無いけれど、ずっと隠れていても仕方がない。

覚悟を決めた私は、広い庭へと躍り出て悪鬼と対面する。

怖い、怖過ぎる。

なんであんなに牙がいっぱい生えてるの。

あれで舌を噛んだら穴が開いちゃうよ。



「ガアアアアアアァァァッッ!!!」



蹂躙開始だ。

悪鬼がそう言っているように聞こえた。

圧倒的弱者を追い詰める、まさに鬼のような所業である。


けれど、私には他にも見えている物がある。

悪鬼の左膝についている青いターゲットマーカー。

赤が警戒すべき物だとすれば、きっと青は突破口だろう。

すなわち、弱点だ。


ディナダンさんから貰った細剣は、きっと弱い物じゃない。

敵の攻撃も見える。

確かに身体を動かすのは得意では無いけれど、ゲームは今までたくさんやってきた。

負けを恐れなければ戦える。

一方的な蹂躙なんて、させてやらない。



"戦闘開始"だ。


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