10
扉を開けて目にしたのは、綺麗な庭だった。
噴水が真ん中にあって、花壇や植木なんかもあって、のんびりするのには打って付け。
置いてあるベンチでお弁当を食べたり、本を読んだりしたら気持ちいいかもしれない。
大分高い所にあるのか、視界の先には雲海が広がっていた。
いいなぁ、私もこんな家に住みたい。
家じゃないけど。
学校に行くのも大変そうだけど。
辺りを警戒しつつ庭へと出ていると、ネザーでは感じられなかった太陽の光が差し込んでくる。
なんだかもうずっと長い事見ていなかった様な気になってしまう。
吹いてくる風も気持ちいいし、なんだか眠たくなってしまう。
延々と上がり続けるポップアップが無ければ。
目で見た物全ての情報を引き出してしまうシャルトスの瞳は、私の意志とは関係なくそれを与えてくる。
幸いなのは、本当に小さなウィンドウでそれを知らせてくれる事だろう。
地面、柱、小石、雑草、空、ベンチ。
そんなポップアップが小さな音と共に視界の端で上がり続ける。
正直に話せば、鬱陶しい。
ええい、音は消せんのか。
そう考えながら中庭に出た時だった。
背筋に悪寒が走るポップアップを目にしてしまった。
"悪鬼"。
思わず踵を返し、柱の後ろに隠れる。
きっとエネミーが視界の端に映ったんだ。
あんまり強くないモンスターだったらいいけれど。
そう思ってポップアップのウィンドウを開いた、その時だった。
「グオオオオオオアアアアアッ!!!!」
えええぇぇぇ・・・・!?
背後で聞こえる野太い雄叫び。
柱の陰から顔を出し、その声の主を確認する。
そこに居たのは、鬼だった。
岩石の様に大きな体。
丸太の様に太い両腕。
まるで天を突かんとばかりに伸びる額の角。
手に持ったあれは金棒だろうか。
大きく開いた口からは、鋭い牙がいくつも覗いている。
あれがあんまり強くないモンスター?
そんなの有り得ない。
間違いなくボス級のモンスターだ。
悪鬼は近くにあるベンチを掴み、私の方へと視線を投げる。
気付かれてる?
でも直ぐ隠れたし、もしかしたら―――
そんな希望的観測を打ち砕くように、私に向かって赤い線が伸びてきた。
これが何なのかは分からない。
けれど、間違いなく動いた方が良いだろう。
震えそうになる膝に鞭を打ち、無理矢理引きずるように走り出す。
もつれる足のせいで転びそうになるが、すぐ隣の柱に隠れる事が出来た。
その瞬間だった。
轟音と共に、先ほどまで居た柱が崩れるのを目にする。
突き刺さっているのは悪鬼が投げたであろうベンチだ。
もしもあのままあそこに居れば、デスルーラ待った無しだった。
先ほどの赤い線は、もしかしたら敵の攻撃を示した物だろうか。
けど、ディナダンさんと戦っていた時にそれは見えなかった。
……もしかして、シャルトスの瞳が?
説明文に乗っていたのは、"目にしたモノの情報を知ることが出来る"という物だった。
モノの内にモンスターの攻撃も含まれているのであれば、それを知ることが出来てもおかしくはない。
視界の端で開いたままになっている悪鬼の情報。
細かく見ている時間は無いけれど、ずっと隠れていても仕方がない。
覚悟を決めた私は、広い庭へと躍り出て悪鬼と対面する。
怖い、怖過ぎる。
なんであんなに牙がいっぱい生えてるの。
あれで舌を噛んだら穴が開いちゃうよ。
「ガアアアアアアァァァッッ!!!」
蹂躙開始だ。
悪鬼がそう言っているように聞こえた。
圧倒的弱者を追い詰める、まさに鬼のような所業である。
けれど、私には他にも見えている物がある。
悪鬼の左膝についている青いターゲットマーカー。
赤が警戒すべき物だとすれば、きっと青は突破口だろう。
すなわち、弱点だ。
ディナダンさんから貰った細剣は、きっと弱い物じゃない。
敵の攻撃も見える。
確かに身体を動かすのは得意では無いけれど、ゲームは今までたくさんやってきた。
負けを恐れなければ戦える。
一方的な蹂躙なんて、させてやらない。
"戦闘開始"だ。
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