その少女、ボッチにつき。
2020.05.12
初めて小説を書き、投稿します。
暇つぶしになってくれれば幸いです。
asn。
「ついに……買ってしまった……」
ポツリとこぼす一人言。
電気屋さんの自動ドアが開き、それを潜ると後ろから店員さん達の声が背中越しに聞こえた。
私が今両手に抱えているのはゲームのハード機だ。
今流行りの、フルダイブ型ゲームをプレイする為のハード機『フィルポーター』。
これを買う為に、私は他のゲームをプレイする事なく一生懸命働いた。
アルバイトは怖いからお母さんのお手伝いをして、沢山お小遣いを貰った。
あくせく働き、身を粉にして働き、今まで貯めたお年玉も全て下ろしてお金を集めた。
そして今、念願のフィルポーターを抱きしめているのである。
始発でお店の前に並んで抽選券を貰い、当選発表の時間までその場から動かず、誰よりも早くフィルポーターを受け取った。
当選したと分かった時は高校受験の時よりもずっと嬉しかった。
自然と持ち上がってしまう口角も、普段なら諌める所ではあるが、今日だけは許してやろうと思う。
この日まで汗と血と涙を流しながら必死に頑張ったのだから。
やるゲームソフトはもう決めてある。
"アルカナオンライン"。
剣と魔法を駆使して、中世ヨーロッパの様な雰囲気の世界を自由に冒険するフルダイブ型のVRMMORPG。
ダンジョンに挑むのも、世界中を歩き回るのも、NPCからクエストを受けるのも、何でも出来る自由度の高いゲームだ。
何でも出来るが故に何も出来なくなるプレイヤーが続出すると聞いたが、それでも根強い人気を誇っているこのゲームを、βテスターが募集され始めた時からずっと欲しかった。
勿論βテスターに応募はした。
しかし、落選してしまったのだ。
その日は泣きながらご飯を食べたのを覚えている。
そんな事よりも、今は家に帰ってから始まるであろう冒険に心を馳せるべきだ。
どんな冒険が待っているだろう。
どんなシステムが待っているだろう。
いくらかの下調べはしたものの、初めて作るキャラクターは失敗したとしても初見で作りたい。
早く帰らなければ。
逸る気持ちに呼応して、どんどんと早く動く足。
今の私は風よりも早い。
一刻も早く、おうちへ。
息を切らしながら家に着いた私を待っていたのはフィルポーターの初期設定だった。
ネットワーク接続はすんなりと出来たものの、脳波検知などといったフルダイブシステムに関わるものなどはかなりの時間を要した。
もうかれこれ二時間近くはベッドの上でフィルポーターを頭に付けたままゴロゴロしている。
最初はわくわくしながら残り時間を凝視していたものの、それも飽きてきた。
うつらうつらと睡魔に襲われていたその時、機械的な女性の声が頭に響く。
『初期設定が完了しました。ソフトウェアの読み込みを開始します』
それまで訪れていた睡魔がどこかへ吹き飛ぶ。
ついに始まるんだ。
期待で胸を膨らませていた私の視界にアルカナオンラインの文字が飛び込んでくる。
森と、大きな河と、綺麗な大空。
「おおおぉぉ!!」
写真を見ている感覚ではなく、実際目の前に広がっているような不思議な感覚に思わず声を上げてしまう。
現実の私はベッドの上で睡眠に似た状態になっているはずのため、実際に声は出ていないと思うけれど、だからだろうか、なんだか不思議な感覚だ。
『アバターの作成に入ります。キャラクターの情報を入力して下さい』
目の前にキーボードの様な物が現れる。
私は自分の名前や身長、体重などをシステム音声に従って入力していく。
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キャラクター名:ユン
種族:ヒューマン
身長:147cm 体重:39kg
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確認し、決定のボタンに触れる。
その後、髪型や音声の設定に進んだ。
髪型は腰まで伸びたストレートのものを選び、色だけ白に近い蒼に変更した。
それに合わせて瞳の色も薄い黄色に変える。
自分が色々なゲームで使っていたアバターに似せる為……というよりは、校則で出来ない事をしてみたいという子供染みた反骨精神からだ。
音声設定は、恐らく実際の声がそのまま使用されるのだろう、長い文章を読まされたり無駄に長い間声を出さされたりした。
なるほど、ネカマは出来ないという訳か。
そうして出来上がったのが私のアバター。
私の分身。
『お疲れ様でした。それではゲームを開始します。良い旅を』
システム音声さんに見送られながら、私はアルカナオンラインの世界に旅立った。
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