表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

少女7中

 妖怪の山に住む河童通称「谷カッパのにとり」。

 人間とは仲が良いつもりだが、人見知りする性格で、人間を見るとすぐ逃げる。


 河城 にとりは、大雑把に言うならそんな妖怪だ。


「ぬぬ。なんだ、その雛の周りのおまけ軍団は」


 にとりは布都たちを雛の取り巻きと見なしたようだ。


「てえ~い。それとも雛に危害を加える危険な一味か、ぎったんぎたんにしてやる」

「やめてよ、にとりちゃん。厄払いなら別だけど、この方々は多分、悪い人たちではないよ」


 なんだか、にとりが暴走しそうなので雛がそれを制する形になった。


 ☆


「何を作っていたの?」


 雛はにとりが弄っていた謎の機械に注目した。


 にとりは根っからのエンジニアであり、人工物を見つけると、すぐにばらして元通りにする。

 だから、彼女の服のポケットには工具がたっぶり入っているのだ。

 

 技術に優れる河童にしてもその腕前はかなりのもので、確実に現代の技術よりスゴいモノを作っている気がする。


「うむ。これはな、雷を安定させる画期的なメカなんだよ」


 雷。その言葉に布都たちは過敏に反応した。


「じゃあ犯人はあなた……だな?」

「決めつけはダメですけど、もしや……」

「凄く……画期的です」


 雷鼓だけは妙にリアクションのベクトルが違うのは、事態を良く分かっていないのだろう。


 ☆


「異変だと? それならそうと早めに言ってくれないかな」


 布都が並々ならぬ様相で炎符「太乙真火」のスペルカードを取り出したので、いかに優しいにとりでも、怒りながらそう言った。


 もっとも布都の場合はやはり勘違い癖に由来する、早とちりの戦闘態勢ではある。


 にとりは水を操る程度の能力を持つ割には超妖怪弾頭の二つ名を持つが、別に好戦的なわけではない。


 水の弾を川の流れみたく降下させる水符「河童のポロロッカ」を始めとしたスペルは幻想郷の他の少女たちに負けず劣らずではある。


 しかし、にとりとしては人里でクリーニングやコンビニの仕事をしているのが向いていると思っている。


「というより、布都殿ではそうやってトラブルの原因になりかねませんね。どうです、ここも神霊廟に繋がるはずですから、屠自古殿を呼んできてはもらえませんか?」


 衣玖はあくまで事務的な口調で、布都に選手交代を促した。


 ☆


「ほほう。さてはあなた、我と再びの弾幕ごっこをお望み……だな?」


 布都はあくまで動じない。しかし、衣玖はにべもなくこう告げた。


「違います。本当に神霊廟に行ってほしいだけです。そしてそんな風なら、屠自古殿を呼んだら戻って来ないでくださいね」


 布都は言われるがまま神霊廟に戻っていった。

 そしてしばらくして、屠自古がやって来た。


「やってやんよ!」


 布都に何と説明されたのか、なぜかスペルカードを取り出しており、明らかに戦う気だ。


 雷矢「ガゴウジサイクロン」。


 全周に向かって丸弾と雷のようなギザギザに矢のワインダーを放つスペルだ。


 ☆


 ガゴウジとは奈良市にある元興寺、「がごうじ」、または「がんごうじ」と呼ばれる寺である。蘇我馬子が飛鳥に建てた法興寺が、平城京が遷都する時に飛鳥から新しい都に移り、元興寺となった。


「やれやれ。布都の不始末のためとは言え、私も心が痛みます」


 雷を起こす程度の能力。

 雷を落とすというのは怒れる怨霊にありがちな能力だそうだが個体差があり、小さな怨霊は精々ゴロゴロと音を鳴らす程度だ。


 恨みのレベルが上がるとバリバリ鳴り出すらしく、大怨霊ならば、ついに雷を落とせるようになる。

 つまり屠自古は自分の周りに雷を落とす事ができるため、そこそこ強い怨霊のようである。


「待ちなさい。やるならあくまで弾幕ごっこよ」


 ☆


 雷鼓がそう提案したが駆り出されたのはなぜか、にとりだ。


「ひゅい!?」


 にとりは、たじろいだけれども水符「河童のポロロッカ」で布都に対抗した。


「凄まじく互角の美しさだ。雷の勇ましい弾幕と、水の流れる弾幕。半端じゃない幕圧感。ゴージャスなイルミネーションの完成だあーっ」


 こうして半端じゃないリアクションを挟み込んだ衣玖は、あまりの感動で絵画「モナリザ」になった。


「なんで!? 竜にまつわる何かならまだしも、何ゆえにモナリザ!? せめて竜巻とか竜田揚げとかになろうよ!」


 雷鼓の熱血ツッコミが炸裂だ。


 やがて元に戻った衣玖だが、どのようにして絵画になったかは謎のままだ。


 ☆


 それからなんだかんだで打ち解けた一行。

 すっかり意気投合し、にとりの計らいで妖怪の山の住民である妖怪や天狗たちとバーベキューをすることになった。


「ふぁふぁふぁ。こんな閉鎖的な山にのこのこ来るとは、よほどの用件かお暇なのでしょう。どうです、取材を受けてみませんか?」


 射名丸 文。

 妖怪の山にある天狗の里で暮らす鴉天狗の少女にして新聞記者。いわゆるブン屋だ。

 ちなみに鴉天狗は、読んで字のごとくカラスが死して天狗に変化した者だ。


 そもそもで言うならば、「鴉天狗は報道を担当する」という天狗たちの掟があるらしいが、文自身もまた新聞記者であることは嬉しいようだ。


 また、文は〈風を操る程度の能力〉を持つという如何にも天狗らしい天狗だが、たとえば哨戒天狗である犬走 椛は〈千里先まで見通す程度の能力〉であり、程度の能力は天狗ごとに違うらしい。


 文に限ったことではないが、数々の異変に関与した者は実に様々な二つ名が与えられる。


 博麗大結界が出来る前から生きており、幻想郷の隠れた実力者である文もその一人だ。


 伝統の幻想ブン屋、里に最も近い天狗、風雨の鴉、紅葉を散らす天狗、我田引水の天狗、……。


 これらは一つ一つが全て、文の二つ名である。


 ☆


 赤い山伏風の帽子がいかにも天狗らしい文ではあるが、しかし隠れた実力者だからとその力を見せびらかすような真似はしない。


 現に今まで関わって来た異変の大半において、ある時は単なる記者に徹し、またある時は霊夢のサポート役に回る。


 それは人に負けず劣らぬ高度な文明を持つ天狗ならではの性質らしく、何も文に限った話ではないようだ。


「千年以上前の鬼がいた頃から幻想郷に住んでおられたのですか。さぞ大変なご苦労があったでしょう」

「ふぁふぁ。なあに、天狗なんて大抵は似たようなものです。当たり前と言っても良いほどですよ」


 屠自古の気遣いにも堂々と応じる辺り、賢さの卓越ぶりが伺える文。


 屠自古たち珍しい来客を天狗の代表よろしく歓迎しつつ、幻想郷に「海」があった頃の思い出などで文は場を盛り上げた。


 現在の幻想郷には無い「海」を知っているのも、博麗大結界がない時代に文が生きていたことの手がかりだ。


 つまり最近の幻想郷の住人は、よほどの長生きでもないと「海」を知らないということでもある。


 ☆


 そうして相手の気分を乗せておきながら、文の狙いは自らが自費出版する「文々。新聞」に異変にまつわる記事を掲載するための取材なのだ。


(だが、こんなに容易いものなのか……? 雷の異変に関与出来る者たちが、おめおめとこんなに集まるなんて)


 しかし文が張った罠に掛かったわけでもなんでもないだけに、やはり異変の当事者が複数犯であり、今は新たな異変のための会合を開いていると見れなくもない。


(じゃあなんで私を呼んだのだろう……)


 そこまで考えて、文はこの者たちは限りなくシロに近いクロとして密かに取材していくことに決めた。


(裏を取るには地道な取材しかない、か)


 そしてこんなに無警戒なほとんどシロの雷使いとは別に、「今も暗躍しているかもしれない真犯人」の存在も念頭に置かねばならないことは、文の頭を大いに悩ませることになっていく。


「って、す、萃香さん?」


 ふと急ごしらえのバーベキュー場を見やった文は、いつしか一人酒をあおる伊吹 萃香の姿をその視野に認めたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ