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少女5中

 堀川 雷鼓。

 夢幻のパーカッショニストの異名を持つ付喪神だ。


 そして今、布都の目の前にいる付喪神は雷鼓なのである。


「付喪神のようにお見受けするが、さては我と同じ尸解仙……ですな?」


 どんなにしつこいように思われても、布都のこれは個性だ。


「いいえ、違いますわ。私は、元は和太鼓の付喪神。そして今は……」


 雷鼓はタカタカと軽妙に、もはや装備であるドラムを叩いてみせ、言葉を続けた。


「ほら、この通り。色々あって、今は見ての通りドラムに宿ることにしているんです」


 一般的には古い物に霊が宿るのが付喪神で、たとえば提灯お化けや傘お化けが有名であろう。


 そして、かつて少名 針妙丸と鬼人 正邪が打ち出の小槌で起こした異変によって付喪神となったのが雷鼓なのだ。


 ☆


「それで、なるほど。つまりこの付喪神が……」

「いや、茨華仙ではないぞ。念のためな」


 布都の勘違い癖を鋭く看破した上で、小町は茨華仙ではなく堀川 雷鼓だと正しく紹介した。


「ふん、仮にも尸解仙の我に付喪神など紹介するとは、思い上がり……だな?」


 尸解仙に詳しくない上に、尸解仙と付喪神の優劣を知らない小町は遂に閉口した。


「いやしかし、九十九の神として、つくも神。あながち的外れというわけでもないかもしれませんぞ」

「仙人さん、アタイを混乱させないでくださいよ!」


 小町が怒るのは無理もないが布都の言うように、付喪神は「九十九神」とも表記する。


 そして「九十九」の文字は「九十九年に等しい長い時間や経験」「九十九種類に匹敵する多種多様な物」などを表す。


 また「器物は百年経ると化ける」と言う迷信から、かつての日本では古い物を九十九年で捨てる事が多く、それら物の多くは「あと一年で命を得られたものを」と恨んで妖怪になった、と言う故事にも由来している。


 ☆


 だからと言って、別に小町は付喪神を探しに言ったわけではない。茨華仙として広く知られている華扇は、仙人を自称している。


 小町はまず自らの、距離を操る程度の能力で屋敷に直行するなり、華扇から異変について多少なりとも聞いた。


 そして雷をその名に含む雷鼓こそが頼りになるのではないかと、彼女に吹き込まれたのだ。


「というわけで、この子をよろしく。仙人さん」


 それだけ言って無造作に雷鼓をわずかに布都のいる方に進ませたなり、ツインテールの死神は仕事に戻っていった。


 小町はそれほど世話好きなわけではないが、かと言って冷淡なわけでもない。


 強いて言うならサボり魔の仕事人間。

 矛盾してはいるが、これほど小町を端的に表す言い方もない。


 つまり仕事に戻るために、程度の能力で雷鼓までわざわざ連れてくる恩を布都に売ったのだ。


 ☆


 雷鼓と名乗るだけあり、彼女もまた雷を操ることが出来る。


 先ほどの和太鼓からドラムに乗り換えた話を聞いて、布都は「雷鼓は屠自古というよりは、むしろ神子のような性格なのだろう」と予測した。


 だが雷鼓の名誉のために説明するならば、ミーハーとか適合とかいうのとは違う、魔力の源流に関わる話なので思想の点で既に神子とはベクトルは微妙に違う。

 魔力か信仰かというだけで似ているとも言えるが。


 更に性格としては確かに似ていなくはないため、少なくとも今後しばらくは様々な面で布都の勘違いの対象となる未来が見える雷鼓なのだ。


「さて、異変の犯人探しをしている我のところに来たのだから、つまりあなたが犯人……だな?」

「違います!」


 ☆


 そして雷鼓は、ゆっくりな雷は雷さえ操れるならば誰にでも出来ることだと布都に教えた。


「なんと。ならば雷使いは、みな等しく裁判に掛けられねばならない……のだな?」


 布都のその発想は極端にも思えるけれども、極端な話そうした可能性は確かにある。

 それもまた本質だ。


 そして雷鼓も次のように印象を告げた。


「閻魔である四季映姫様はそこまでしない、フェアな方だと小町さんには言ってはもらえましたが、ひょっとしたら、ひょっとしますね」


 映姫は仮にも最高裁判長なので、映姫が認める間は自由行動。


 つまり今、幻想郷の雷使いたちはギリギリ崖っぷちの大変な事態に陥ってしまっていると言える。


「仕方ない。まずは屠自古にも現状を自覚させよう」


 布都はそうして無難な選択肢を取ろうとした。

 しかし、布都はやはり布都だ。


 ☆


 雷鼓を連れた布都は急に、やはり茨華仙の屋敷に向かうと言い出したのだ。


「なんだかんだで、やはり仙人は怪しい。調べ上げるべき……だな?」


 仮にも尸解仙を名乗る布都がそう言うのは完全に自殺行為なのだが、雷鼓は雷鼓でその辺りは適当。


 つまり雷鼓はノリが軽いので二人は早速、山に向かうことにした。


 妖怪の山。


 ここに住む妖怪達は、人間や麓の妖怪とは別の社会を築いており、幻想郷の力関係としての一派となっている。

 特に天狗や河童は外の世界を参考にした高度な技術があり、天狗は写真・印刷・出版物製作の技術、河童は鉄鋼や建築・道具製作などの技術を持つ。


 その為、この山に攻め入る妖怪は居ない。


 ☆


 と、山に踏み入れた布都たちの前に、一人の妖怪が現れた。

 いや、正確に言うならば既に三途の川から着いて来ていた。


「空気を読む程度の能力……さすが竜宮の使いね?」


 雷使いに詳しいのか、雷鼓はその者が竜宮の使いである永江 衣玖だと分かったらしい。


 それを知ってか知らずか、衣玖は決闘に誘うべく言葉を紡いだ。


「弾幕ごっこはお好き?」


 弾幕ごっこ。

 決闘とも呼ばれる、少女たちの間でのスペルカードによる命がけの遊びだ。


「空気を読めてない……のだな?」


 布都は屠自古とは違い、喧嘩っ早くはない。

 しかし勘違い尸解仙ではあるので、つまりほとんど結果的には喧嘩っ早いのだ。


 ☆


 幻想郷内での揉め事や紛争、つまりケンカを解決するための手段。


 それが弾幕ごっこだ。


 弾幕ごっこは『殺し合い』を『遊び』に変える。


 かつて魔法使いの霧雨 魔理沙は言った、「この世でもっとも無駄なゲーム」と。


「仙人さま。お任せして良いので?」

「おう。ちょうど色々有りすぎて、むしゃむしゃしていたところだぞ」


 むしゃむしゃではなく、むしゃくしゃだが誰も指摘しない不思議だ。


 弾幕ごっこと呼ばれる割には攻撃は弾でなくてよく、スペルカードの技が弾幕である必要もない。


 手加減も必要なく、本気で戦って構わない。

 ただあくまで「ルールの範囲内で」であり、絶対に勝たなければならない、負けられないなどの意気込みがないだけである。


 死者が出ることもあるものの、あくまで遊びである。


「互いに一回。それで十分でしょ?」

「ふん。天人だからと侮りおって、だが我はそれで良いぞ」


 決闘を開始するには、まず、こうしてカードを使う回数を宣言する。


 技を使う際には「カード宣言」をする。


 宣言が必要とされるため、不意打ちによる攻撃は出来ない。


(天人がカードを取り出した……来る!)


 尚、「カード宣言」は叫ぶ必要は無く、技の名前を言う必要もない。

 相手がカード宣言したと分かればよいのである。


 ☆


 竜宮の使いの天人、衣玖が電符「雷鼓弾」のスペルカードを取り出し、それを使った。


 雷鼓弾は名前こそ雷鼓とあるが、堀川 雷鼓に関わりはない。


 あたかも雷神の太鼓のように渦が広がるような軌道で八つの弾に分裂・拡散した弾幕が、ごっことは言え、ごっこでなく布都に飛んで来た。


「避けきる!」


 布都は上手く回避したが、雷鼓は幾つか当たっていた。

 付喪神ゆえに、元は道具。よって戦い慣れしている達人たちには及ばないのか。

 あるいは単に油断していたのだろう。


 一方、衣玖に対する布都は、風符「三輪の皿嵐」のスペルカードを取り出した。

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