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第2話

人攫いから逃亡したフェイスと蒼愛は、無事にサマンサという街に辿り着くことが出来た。


武器を担ぐ冒険者、野菜を売る女性、肉を焼く男性、大きな荷物を転がす商人。

初めて外に出る蒼愛と、初めて森から出て街に来たフェイスには全てが初見で、何をしているのかわからない人間も多数見かける。


「蒼愛ちゃん!街って凄いんだね!」


フェイスは興奮した様子で、蒼愛の手錠の着いた手を引きながら一際大きな建物へと向かう。


「ちょっ、まって」


「あの旗!あれが冒険者ギルドだよ!」


刃こぼれした剣と折れた魔物の角が交差している。

一体何を意味しているのか分からないが、フェイスが言うには冒険者ギルドのようだ。


「ほら行こっ!今日中に稼がないと今日は野宿になっちゃうよ!」


「別にそれでも…」


「女の子なんだからそんなこと言っちゃダメだよ!」


「蒼愛って女の子なんだ」


「…ごめん、流石にそのレベルの世間知らずとは思わなかった」


「ならこれから思い知るといい。私は何も知らない」


「えぇ…

ってあぁもうほら、行くよ」


蒼愛のセリフに呆れながらもフェイスはギルドの中へと進んでいく。



扉を潜るとそこに広がるのは職員以外ほとんど人のいない寂しげな光景だった。


二人は冒険者としてギルドに登録するためにカウンターに向かう。


名前、年齢を書く程度の簡単な署名を終え、ダンジョンに向かうことにした。


ダンジョンはギルドのすぐ裏にあり、入り口付近は階段状に加工されている。




「ダークネス・ファイア!」


フェイスは黒色の炎をゴブリンに向けて放つ。

ゴブリンは石剣を振り回しながら絶叫をあげ、終には炎が肉体を灰になるまで焼き尽くす。

灰になった骨肉はうっすら光り、透き通った緑色の結晶に変化する。


「やった!蒼愛ちゃん見て見て!ゴブリン倒せ…たよ。えっ、蒼愛ちゃんほんとに人間?」


結晶を蒼愛に自慢しようとしたフェイスだが蒼愛の攻撃方法を見て唖然とする。


両手を壁につけると、天井から岩が巨大なつららのような形状に変化して落下、スライムやゴブリン、グールを貫き、刺殺する。

それぞれが赤や青、そしてフェイスが手に入れた緑色の結晶に変化する。


「これでいいの?」


蒼愛は結晶を集めて、白衣のポケットに入れながらフェイスに尋ねる。


「う、うん。あ、せっかくだからこのまま二層目まで行こっか。結晶一個でどれくらいの値段になるか分かんないし」


「うん。フェイスは体力とか平気?」


「平気平気!蒼愛ちゃんこそ平気?初めて外に出たんでしょ?」


「靴は欲しいけど、平気」


フェイスは蒼愛の足元を見て気がつく。蒼愛はずっと裸足で歩いていたのだ。


「だ、大丈夫なの?裏とか怪我してない?」


「大丈夫。汚れ一つ無い」


蒼愛は足の裏をフェイスに見せつけるようにあげるが、フェイスの目は足の裏ではなく蒼愛の股間部に向いてしまう。


「蒼愛ちゃん、なんでパンツ履いてないの?そもそもなんでシャツ一枚に白衣なの?スカートかズボンは?」


「履いたことない」


「良く襲われなかったね。あぁ、強いからか」


「…?裸なんて、いつも見られてたし」


「蒼愛ちゃん、それは人としてちゃんと怒ろう。怒りなさい」


「人扱いなんて、されたことない」


「蒼愛ちゃん?」


「なんでもない。来たよ」


会話をしながら数分進んだ頃、新たな魔物達の群れが蒼愛達の前に立ちはだかった。


「ダークネス・バレット!」


無数の黒い弾丸がフェイスの周囲に発生、魔物達を蜂の巣にする。


「フェイスも、強い」


ぱちぱちと、蒼愛はフェイスに拍手を送る。


「これでも悪魔とエルフのハーフだからね。魔法は得意なの。特に闇系統の魔法はね」


「へー」


軽い返事を返しながら蒼愛は瞬きで周囲に転がっている石を爆散させ、残りの魔物を一網打尽にする。


「それ、どうやってるの?」


「なんか、パチッてしてドーン」


「ちなみにさっきのつららは?」


「キュッとしてストン」


「うん、もういいや。とりあえず魔法じゃなさそうだね」


大量の結晶を二人でかきあつめていると、蒼愛のポケットがついに一杯になってしまった。


「ねぇ、これならもう足りるんじゃない?」


「そうだね。二層はまた今度にして戻ろっか」




ギルドに戻り、二人はカウンターの女性にポケット一杯の結晶を手渡すと、職員は色ごとに分け、数ごとに報酬金を渡す。


「ゴブリン16体、1600カテル

スライム21体、1050カテル

グール4体、1000カテル

計3650カテルになります」


職員は紙幣一枚、小銭三枚をフェイスに手渡す。


「職員さん、どこか今からでも泊まれる宿ってありますか?」


職員の女性は窓から外の夕暮れを見てから答える。


「宿は今からでは厳しいかも知れません。ギルドの宿泊部屋が冒険者の方なら無料で使えますよ」


「へぇ。蒼愛ちゃん、それでいい?」


「別に、どこでもいい。野宿でも、犬小屋でも」


「ごめん蒼愛ちゃん、野宿も犬小屋も私がやだ」


「ならギルドに泊まればいい」


「そーする。ってわけだから職員さん、お願いします」


「はい。二人部屋を一つ空けておきますので、なにか食事をしてきたら如何ですか?」


「はーい。蒼愛ちゃん、何食べたい?」


「スープ類。恐らく、今の私に固形物は食べられない」


蒼愛は生まれてから1度も食事というものを経験していない。普段蒼愛が浸かっていた液体には蒼愛の行動を阻害する他、生命維持の効果があったため、食事をする必要がなかった。

ちなみに、味はスポーツドリンク味。






「フェイス、にんじんあげる」


「え?ちゃんと煮込まれててトロトロなはずでしょ?」


「美味しくない」


「えぇ~。好き嫌いしちゃダメだよ?」


「他で補えば、問題ない」


「そんなこと言わないで、ほら、あーん」


「あむ。

…ところでフェイス、ナスだけ残してるけど食べないの?」


「えっと…

蒼愛ちゃん、ナス食べない?焼きナス」


「フェイス、好き嫌いはダメって言った。あと、固形物は無理」


「そ、そうだった」


「というわけだから、お肉あげる」


「ありがと。お礼にじゃがいも食べてあげるよ」


「んーん、いい。じゃがいも、これは良きもの」


「あ、気に入ったんだ」


「これでにんじんを食べなくても…」


「そうはならないから」


「…ちょっと、にんじん畑壊してくる」


「待ちなさい蒼愛ちゃん。世の中にはにんじんが好きな人もいるんだよ?」


「そう。なら仕方ない」


「分かってくれたみたいでよかったよ」


「畑ごと、その人たちも壊すしかない」


「…その人たちを肥料にもっといっぱいのにんじんが出来ちゃうよ?」


「なら、やめる」


「ありがと。なんで私がお礼を言うのかわかんないけど、やっぱり畑だけ壊すとか言い出さなくて良かったよ」


「はっ!」


「いや、そんな無表情でその手があったかみたいな声出されても演技くさいよ?」


「蒼愛に人を困らせる趣味はない」


「ほんとに?」


「超ほんと」


「最初の一言のせいで信頼性が皆無だよ?」


「表情筋が仕事しない」


「え、大丈夫なの?」


「作り笑いとかできない」


「とんでもない事をしでかしたね、表情筋」


「うん。奴はとてつもないものを奪っていった」


「蒼愛ちゃんの感情!」


「別に、薄いし目に見えないけど無いわけじゃないから」

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