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第1話

01、02…と進むのは作者さんside、

第1話、第2話と進むのは蒼愛ちゃんsideとなります。

白い壁

白い扉

青い液体

銀のパイプ


これが彼女、生まれて数時間後には試験管のようなものに入れられた『千晶(ちあき) 蒼愛(そあ)』の視界に映るものだった。

青い空も白い雲も、草原も海も、森も山も彼女は見たこともなければ知ることもなかった。

否、知ってはいた。知識としてのみではあるが。


蒼愛は興味を持たなかった。持つだけ無駄だと知っていたから。


理性と知性を持たせるために様々な知識を脳に刻まれた蒼愛だったが、彼女は知らない。喜怒哀楽を。人間が持つべき欲求を。

研究者もそれを良しとしていた。なにかに興味を持たれて外に出ようとされるよりかはよっぽど管理が楽だからだ。


国が運営する研究所に務めている彼らの目的は蒼愛の特異性を用いた新たなエネルギー生成。

明らかにエネルギー保存の法則からかけ離れたような現象の法則を見つけ出し、人工物で再現しようというのが彼らの目的。

彼らはアニメ、漫画に出るようなマッドサイエンティストでは無いのだが、それでも蒼愛を人間として見るものはいなかった。

扱いはまるでいつ爆発するか分からない核兵器のように慎重で、まず作りだしたのが拘束具だった程だ。


彼らは見ている。千晶蒼愛誕生の瞬間の映像を。

赤子の無造作な腕の動きは周囲の機材を爆破させ、誕生の産声は病院を瓦礫と肉片の山へと変貌させた。


二年に一度、彼女の身動きによる破壊力を計るのだが、確実に蒼愛は自身の特異性をコントロールを身につけている。


四歳で初めて行った時は指の動きでコンクリートの塊を粉砕したのだが、十二歳になって行った時にはコンクリートの塊に正三角形の穴を開けるという研究者達にも理解ができないようなコントロールをやって見せた。



そして今日は蒼愛の十四歳の誕生日。六回目の破壊力テストだ。

手錠を嵌め、二の腕を固め、両足は車椅子に固められた状態で標的をまつ。


『蒼愛、まずはできる限り弱めにやってくれ。何も起こらなくても構わない』


スピーカー越しに男性の声が蒼愛の部屋に響き渡る。


「わかった。いいよ」


スピーカーの声の主は最古参の研究者の一人。年齢はもうすぐ七十で、蒼愛を最も長く見てきた人間の一人だ。もっともカメラ越しなので蒼愛は顔を見たことは無いのだが。


彼は今回の結果次第では蒼愛をある程度解放してもいいと思っている。

既に瞬きで破壊をするような事は起こらなくなったし、日常生活を送れるくらいの制御は身につけていると予想しているからだ。


蒼愛のだした結果は彼の予想以上に良いものだった。


デコピンのように指を動かしたが、何も起こらない。

うちわを扇ぐように両手を動かしても、何も起こらない。


蒼愛は完全にコントロールを身につけたと言っていい結果を出したのだ。


『…蒼愛、今度は破壊を行ってくれ。できる限り丁寧に、精密に』


スピーカーから声が響くと同時に蒼愛の部屋の地面が開き、白く塗装されたコンクリートの2メートル四方の立方体が設置される。


「車椅子、あれの前まで移動させて」


『分かった』


蒼愛の要望に応え、車椅子は電動でコンクリートの前まで移動する。


蒼愛はただ、右手人差し指でコンクリートに触れる。


その瞬間、コンクリートは蜂の巣のように六角形の穴が幾何学的にできる。

六面全てに貫通しているので、コンクリートはかなり軽くなっているはずだ。


『よくやった、蒼愛。後日いい報せがあるはずだから楽しみにしておけ』


「そう。分かった」


《異常なエネルギー反応発生。直ちに避難してください》


研究者の顔が綻んだタイミングでこれまでに流れたことの無い避難警告が流れた。


エネルギー発生地点は、例のコンクリートだ。


『蒼愛!急いで逃げろ!拘束具も壊していい!』


そう言う研究者。だが、蒼愛にそれは出来ない


「い、いや!やだ!」


拘束具は蒼愛にとってリミッターのような役割を果たしていた。

蒼愛は知っていた。自身の特異性の暴走で両親の、病人の、医者の命を奪っていることを。

また同じことを繰り返さない為に拘束具は気休め程度ではあったが無くてはならないものだった。


蜂の巣状態のコンクリートが黒く染まり、穴からは人間の目のようなものが覗いている。


「…なに」


『蒼愛!頼むから逃げてくれ!』


無情にも事態は進行する。


コンクリートと目はグチャ、グチョと音を立てながら小さな球体上に変化し、一つの黒い眼球を形造る。


「目?」


蒼愛が首を傾げてそれを見つめると、眼球に三日月形の口のような穴が空く。


バクッ


眼球はその直後巨大化し、その口で蒼愛を一口で丸呑みしてしまう。


「つまんねぇ」

「才能ねぇよ」

「設定は面白いけど…」


眼球は何に対してか分からない不平不満をこぼしながら、その場には何も無かったかのように消滅する。


残ったのは白い扉と蒼愛の入っていた試験管だけ。


観測していた研究者達は唖然とし、声一つでない。

未知の物理法則を持つ少女を、未知の何かが喰らい、消滅した。

まるで出る杭は打たれて均されるとでも言うかのように、異常は全て無くなった。





眼球に喰われた蒼愛は、自然の中に放り出されていた。


生い茂る草、高々と蒼愛を見下ろす木々、葉の間から差す陽の光。

これら全ては蒼愛にとって知識にはあっても実際に見て感じるのは初めてのことだった。


蒼愛は自身の手足が自由に動くことに気がつき見下ろすと気づいてしまう。

蒼愛の今の格好は試験管の中から出された時に着せられた無地の白いシャツ、その上から羽織る白衣。


そう、拘束具が無いことに蒼愛は気がついてしまった。


「あっ、ああっ、あああっ!!」


蒼愛の声に反応するように、周囲の草は枯れ、木々には無数のヒビが入る。


「あっ、だめ。だめ。抑えなきゃ。抑えなきゃ」


すー、はー。と深呼吸をしながらこれ以上周囲を破壊しないように破壊を抑えようとするも、上手くいかない。


「なんで?なんで?わかんない、わかんない、わかんない。蒼愛は悪くない。蒼愛は悪くない。蒼愛は、悪くない」


蒼愛は駆ける。自分から目をそらすように、破壊から目を離すために、現実から逃げるために。

走るという生まれてからした事の無い動作で不慣れなため、何度も足をもつれさせ、転びながら森の中を駆ける。


「痛い。恐い。痛い。やだ」


何度も走っては転び、走っては転びを繰り返すと、なにかにぶつかった。


それは馬車だった。馬車の荷台にぶつかった。

その衝突に気がついた持ち主が寄ってきて、蒼愛に手錠をかけて縄で縛り上げた。


「あっぶね、逃げられるところだったぜ」


汚らしい格好の男は蒼愛を軽々と持ち上げ、荷台に放り投げた。


「あれ?」


突然のことに思考が追いつかず、蒼愛は目を丸くする。


「あ、あなたも捕まったの?」


荷台にはもう一人居たようで、不安からか蒼愛に声をかけた。


青白い不健康な白い肌、血のように赤い眼、振れば折れそうな程に華奢な細い手足、左右に伸び、尖った耳。

頬には涙を流したような跡がある。


「ひいっ!?」


軽い悲鳴をあげたのは蒼愛だった。


少女にしてみれば心細さから声をかけたのかもしれないが、蒼愛にしてみればこんなに至近距離で、ガラスや液体を透さずに人と会うのは生まれて初めての経験で、人に会えた嬉しさよりも未知との遭遇による恐怖の方が強かった。


後ろに飛び退いてできる限り距離をとった蒼愛は目の前の未知をまじまじて見つめると、少女も自分と同じように縛られていることに気がついた。


「あなた、誰?」


「私?私はフェイスっていうの。やっぱり恐いのかな、耳とか。怖がらせたならごめんね」


「耳?

こちらこそ、ごめん。人と会うのって初めてだから、その耳、変なの?」


「あなたもなの?私もなの!私もお父さん以外の人と会うのは初めてなんだ!」


「そう。蒼愛は、蒼愛。ここってどこ?」


「あ、そうだった!」


「おいうるせーぞガキども!ぶっ殺されたくなかったら黙ってろ!」


なんとか蒼愛とフェイスが会話出来る程度の仲になった頃、だんだんと元気を取り戻したフェイスの声が馬に乗る男に聞こえたのか怒鳴られてしまった。


初めて聞く人間の怒りの声に蒼愛は肩をびくつかせる。

男を怖がってるのかと思ったのかフェイスは蒼愛に身体を寄せ、小声で蒼愛に話しかける。


「私たち今人攫いに攫われてるの。このままでいると売られちゃうんだよ。だから、逃げなきゃいけないの」


「逃げる?なんで?売られたら、困るの?」


これまで人間と関わったことの無い蒼愛にしてみれば人間も動物も、道具や食材だって同価値だった。そうでないのは自分と両親、研究者の人達だけ。


「困るに決まってるでしょ。売られて、もし買われちゃったら酷いことされちゃうんだよ?」


「そう。頑張ってね」


「じゃなくて、あなたも売られちゃうんだって」


「それは、嫌かも」


「でしょ?だからほら、あなたも一緒に逃げる方法考えて」


「そんなこと、考える必要ない」


蒼愛は腕と足を縛る縄に息を吹き付けて粉砕し、手錠だけは残す。


「うっそぉ」


蒼愛の人間離れした業に間の抜けた声をもらすフェイス。

両手の手錠以外は自由になった蒼愛はフェイスの手錠、縄を指先で切り裂く。


「…あ、ありがと」


「ん。どういたしまして。で、いいんだっけ」


「うん。あってるよ」


「そう。よかった」


蒼愛は安堵しながら膝立ちになり両手を荷台の床につける。


「ど、どうするの?」


「こうする」


キキーッ、と大きな音を立てながら馬車は停止する。


「な、何をしたの!?」


突然の揺れによろけながら声を上げるフェイス。理解不能と顔に書いているかのように驚愕の表情を浮かべている。


「別に、車輪の回転を止めただけ」


「止めただけって、どうやってよ」


「掴んで?」


「あなたが今掴んでいるのは床よ」


「別に、大して変わんない」


「おいガキ共!何しやがったてめぇら!」


馬から降りてきた男が戸を開けて怒鳴り散らす。


「ちょっ、ちょっと!どうするのよ!」


「邪魔」


蒼愛は飛び跳ね、男の鳩尾に張り手を当てる。


男の肉片が剣のような形に変化し、地面や木に突き刺さる。


「そ、そあ?あなた一体何をしたの?」


「害獣駆除」


男なんて蒼愛の目には人間としてすら写っていなかった。


「蒼愛、あなたって…」


「なに?逃げないの?」


「な、なんでもないわ。せっかくだから一緒に街まで行きましょっか」


「うん。よろしく」


こうして、蒼愛とフェイスは仲良く街へむかうのだった。

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