セフィアの過去(1)
【14】
俺はその日の夜、セフィアに招かれ彼女の部屋にいた。
セフィアは俺を部屋の椅子に案内し、そして自分はベッドに座った。
「少し長くなりますがいいですか?」
「ああ、いいよ」
「ではこれから爽真さんに私の全てを話します」
そういうとセフィアは真剣な面持ちになり話し出した。
「私はここからはるか南にあるリントバルムと呼ばれる山の麓で生まれました。
私は人間と白竜族のハーフです。
白竜族について何か聞かれました?」
「白竜族は約三百年前に黒竜族との戦いに負けて絶滅した‥‥‥そう聞いた」
セフィアは少し俯いた。
「伝承ではそうなっています。
ですが白竜族は滅んではいなかったのです。白竜族の中には人間に擬態化できる者がいたんです。そういう者たちが黒竜族から隠れ人間に紛れながら暮らしていきました」
「ということは白竜族はまだどこかにいるのか?」
「おそらく‥‥‥」
「おそらく?」
「私にはわからないんです。そのあたりも順を追って説明します。
私は父が白竜族です。父は生き残った白竜族でも良い家系の血筋を引いていたらしく、後々を期待されていました。
そんな中、父は用事で訪れていた町で母と出会いました。
母は艶やかな長い黒髪に整った顔立ち、そしてとても素敵な笑顔を振りまきながら宿屋の受付をやっていました。
父は母に一目惚れだったそうです。
その後、父と母は交際を始め、お互いに惹かれ合っていきます。
そして父は決心しました。母に自分が白竜族であること告白し、それを知ってもらった上で自分の想いを伝えることを。
ある秋の月が綺麗な夜だったそうです。父は母を村から少し離れた人気のない湖のほとりに呼び出しました。
そして自分の本当の姿である白竜の身体を母の前で露わにしたのです。
正直、父は不安だったそうです。騙していたことに失望されるのではないか、それ以前に恐怖のあまり逃げ出されてしまうのではないか、いろいろなことが頭の中を巡ったそうです。
しかし母の反応は意外なものでした。
最初は驚いた顔をしましたがすぐに穏やかな顔に戻り、そしていつもの素敵な笑顔を白竜の姿である父に向けたのでした。
その後、父と母の交際は結婚を前提としたものへと変わっていきました」
「なるほど、そしてセフィアが生まれたわけか」
「‥‥‥」
「どうした?」
「いえ、本当に大変だったのはここからなんです」
「え?」
「元々、白竜族と人間との結婚というのは白竜族の掟で禁止されていたんです。ましてや後々家を継ぐことを期待されていた父は、父の両親に大反対をされました。しかし父は決して諦めることはありませんでした。
その結果‥‥‥父は白竜族の村を追い出されてしまったんです。
追い出されてしまった父はその白竜族の村の近くでも生活することができず、村からは遠く離れた小さな町で人間として暮らすようになったんです。
質素な生活でした。しかし二人にとってその時間はとても幸せなものでした。
そんな中で二人の間には一人の女の子が生まれます。
それが私です。
父は母と私、周りに隠し事はしながらも、三人で幸せに暮らしていくことを夢見ていました。
しかし‥‥‥
私が二歳になったばかりの秋、母が疫病で倒れてしまったんです。
その疫病は感染力は高くないものの当時は治療法も見つかっておらず、発症すると7割の人は死んでしまうという恐ろしいものでした。
そしてその年の冬、母は帰らぬ人となりました──
父は母の死をとても悲しみました。白竜族の村を出てから唯一ずっと心の支えとなってくれていた人を失ったのです。
そして父も悲しみに明け暮れ、衰弱し、あろうことか父も母と同じ疫病にかかってしまったのです。
白竜族の体は本来、人間と比べるとかなり頑丈です。しかし、衰弱していた父の体を疫病は容赦なく蝕んでいきました。
そして母の死から一年後、父も母の後を追うように──」