驚愕の事実
【12】
俺は目の前で起きていることを理解できずにいた。
俺たちの目の前に突如として現れた白いドラゴン。そのドラゴンは俺たちの方を少し振り返ったのち、目の前の盗賊たちを蹴散らし始めたのだった。
「おいおい、こりゃ一体どういうことだ?」
ガタイのいい男も全く状況を飲み込めていないようだった。博識の男の方に目をやってみてもぽかんとした表情を浮かべている。
しかしそれはある意味当たり前のことだと言っていいだろう。
まずいきなりドラゴンが現れたこと。俺はこの世界に来てまだ間もないが、話を聞く限りではドラゴンと遭遇するなってことはこの世界でも滅多にないことのようだ。
そんな珍しいことが今にも盗賊に殺されそうになっているという時に起こったのだ。状況の理解に苦しむのもわかる。
さらにもう一つ、遭遇したのが白いドラゴンだということだ。
かつては最強とも言われていたらしい白いドラゴンではあるが、伝承によると約三百年前に絶滅したはずであるという。そんな半ば伝説の生き物が目の前にいるのだ。俺以外の人物にとっては状況の理解に苦しむどころか夢を見てるのでは、と疑いたくなるレベルだろう。
だが俺だけは知っている。このドラゴンの存在を。そしてこのドラゴンがむやみに人を襲ったりはしないことも知っている。少なくとも俺がこのドラゴンと向き合った時には俺は襲われることはなかった。
そんな白いドラゴンが目の前で盗賊を蹴散らしている。
ということは‥‥‥
──このドラゴンは俺たちを助けようとしてくれているにか?
そんな俺の疑問をよそにドラゴンは真っ白な体躯を弾ませ盗賊の数をどんどん減らしていった。
それから数分後、二十人以上いた盗賊はドラゴンに攻撃を受けるか、それを見て逃げ出してしまい、もう戦うものはいなくなってしまった。ちなみに商人もドラゴンが来る前に盗賊にボコボコにされ気絶しそこに転がっている。
残ったのは雇われた俺たち三人と白いドラゴンだった。
「こいつがにいちゃんが見たっていう白いドラゴンか?」
ガタイのいい男が問いかけてきた。
「ああ、おそらくそうだ」
「信じられない‥‥‥いったい何者なんだこいつは‥‥‥」
数分経ったが博識の男は未だに状況が飲み込めていないようだった。
ガタイのいい男には悪いがおそらくこの男が三人の中ではいちばんこの世界に詳しく、いちばん常識的だろう。つまりこの博識の男の反応がいちばん一般的な反応なのだろう。
すると白いドラゴンだ身を翻しこちらへ向かってきた。
だが俺たちを襲おうとしているわけではないようだ。ゆっくりとこちらに向かって歩いて来る。
「わわわ、よ、寄ってきたぞ」
博識の男が思わず引き腰になる。
だが俺は恐怖は感じなかった。それよりもこのドラゴンの行動に興味が湧いていた。今回のドラゴンの行動にいったいどういう意図があるのかが──
白いドラゴンは俺たちの目の前で止まった。
そしてまたあの大きな青い目でこちらを見つめる。
──同じだ。最初に出会った時と。あの時はこいつは俺から離れていった。だが今回は違う。こいつはおそらく俺たちを助けをうとした。そして前回とは違いこいつから俺に近づいてきた。目的はいったい‥‥‥
様々な思いを巡らせていると次の瞬間、目の前のドラゴンが青白く光りだした。
俺は思わず目を閉じる。
「爽真さん!」
光の中で誰かに呼ばれたような気がした。
数秒後、青白い光りがなくなっていき目が開けられるようになった。と同時に目を見開く。
目の前にいたはずのドラゴンがいなくなっていたのだ。
そして腹のあたりに、ふにゃんとしたやわらかい感触を感じ取る。
──抱きつかれている⁈
そう思い存在を確認する。
「無事ですか⁈ 爽真さん!」
そこにいたのは街で別れたはずの銀髪の美少女────セフィアだった。
「セ、セフィア? いったいどういうことだ?」
「あ、あの。驚かないで聞いてください‥‥‥
あの白いドラゴン‥‥‥あれは‥‥‥‥‥‥」
少しの間沈黙の時間が流れる。そしてセフィアが顔を上げた。
「あれは私だったんです‥‥‥」