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再会

【11】

 馬車が止まった途端、いきなり黒いマントのようなものを羽織った三人の男が馬車に飛び乗ってきた。そして何が起こったのかわからないうちに俺の喉元には鉄の剣の切っ先が突きつけられていた。


「動くな。おとなしくしてれば命までは取らない」


 ──なんだ? 一体何が起きている?


 そう思って周りを見回してみると一緒に乗ってきた二人も短剣のようなものを突きつけられ、身動きが取れない状態になっている。


「なんだお前らは」


 ガタイのいい男も状況が理解できていないようだ。


「そんなことはどうでもいい。とにかくおとなしくしてろよ」


 それを見て少しずつ状況が理解できてくる。


 ──襲われたんだ。


 俺たちが依頼された仕事は荷物を隣町まで届けること。その仕事内容に剣を突きつけられるなどという項目は存在していない。ということはこれは間違いなく想定していなかった事態のはずだ。俺たちは金儲けから一転、窮地に立たされてしまったのだ。

 などと考えていると依頼主である二人の商人がまた違う男に連れられて俺たちの乗っている馬車に放り込まれてきた。

 

「い、一体なんだお前たちは‥‥‥」


 商人の一人が怯えたように言った。

 すると一人だけ青いマントを羽織った目つきの悪い男が前に出てきた。


「はっ! 一体なんだ? もうわかってんだろ。俺たちゃ盗賊だよ。お前らの馬車は不運にも盗賊に目をつけられちまったってわけだ。ヒャ〜ッヒャッヒャッヒャッヒャ!」


商人の顔が青ざめていく。


「も、目的はなんだ。金か?金ならある分だけくれてやる。だ、だから解放してくれ」


「あ〜? 金はくれてやるから解放しろ〜? はっ、お前の頭ん中はお花畑か? そんなんで済むわけね〜だろ。うらぁ!」


 商人の頬に強烈な蹴りが入った。


「おっといけねぇ。こんなんでも一応大事な商品だ。使い物にならなくするわけにはいかねえな」


「商品‥‥‥‥‥‥」


 商人の顔がさらに青ざめていく。


「とりあえずお前らには俺らのアジトに来てもらおうか。おい、ロープかなんかでこいつら縛っとけ」


 おそらくこの青マントがリーダー格なのだろう。青マントの指示で俺たちは手と胴体をロープで縛られ、完全に拘束された。

 そして目の前に男が二人俺たちを監視している状態で馬車は道を外れて走り出した。

 俺たちは拉致されてしまったのだ。



「大変なことになっちまったな」


 そう声がかかったのは走り出して十分ほどが経過したのちだった。俺はこの十分間、いろいろなことを考えた。

 脱走できないか、交渉できないか、助けを呼べないか、などといったあらゆる方法を考えたが、どれも行動に移すほどの勝算を得られずにいた。

 そしてしびれを切らしたのか、ガタイのいい男が見張りにバレないような小声で話しかけてきた。


「俺たちどうなっちまうんだ?」


 俺は今俺が思っている最大の疑問を聞いてみた。


「そうだな、ヤワな盗賊なら積荷や金を奪うだけなんだが‥‥‥さっきの話からしてもこいつらは相当頭のいっちまってる盗賊だ。

 おそらく荷物奪うだけじゃなく俺たちも奴隷商に売り払うつもりだろうな」


「奴隷‥‥‥」


「とにかくやばいな。対等な条件ならやりあえるかもしんねぇがあいつらは武装しているのに対し俺たちは丸腰だ。とりあえず今は言いなりになるしかねぇ。」


「わかった」


 その一言を最後に恐怖の中でまた無言の時間が始まった。



 「着いたぞ。降りろ」


 その声がかかったのはそれからさらに二十分ほど経った後だった。

 俺たちは荷馬車から降ろされ洞窟の前にいた。


「ヒャッヒャッヒャ、ご苦労さん。お前らには一時間くらいこの洞窟の中でおとなしくしててもらう」


「そ、その後はどうする気だ?」


 訪ねたのは商人だ。


「あぁ〜? その後はお前らも晴れて奴隷の仲間入りだ。ヒャッヒャッヒャ」


「ふ、ふざけるな! 奴隷になんてなるものか!」


 商人が反抗する。


「うっせ〜なぁおっさん」


「ど、奴隷になくらいなら‥‥‥」


 ドンッッ!!!


「あっ?」


 リーダー格の男の太ももあたりから鮮血が飛び散った。

 俺は目を見開く。おそらくガタイのいい男、博識の男も同様だろう。

 商人が隠し持っていた銃でリーダー格の男を撃ったのだった。


「い、いてぇ。いてぇよぉ。ふ、ふざけんなよお前!」


「こいつぁやべぇ、こっちに来い」


 俺はぐいっと腕をガタイのいい男に掴まれ、近くに引き寄せられた。


「こ、殺してやる。全員殺してやる! 

 おい! お前ら! 全員殺っちまえ!」


 次の瞬間、洞窟前で待機していた盗賊も含め約二十人程が目を光らせてこちらに向かってきた。


「くそ! あのバカ商人が! おいお前ら、絶対に死ぬんじゃねぇぞ!」


 そういってガタイのいい男も臨戦態勢に入る。


 ──だがどう戦う? 俺たちは丸腰だ。なにか、なにか策はないか‥‥‥


「みなさんこちらへ!」


 言われた方を見るとあの博識の男が何らや魔法のようなものを展開していた。俺とガタイのいい男はそちらに向かって走り出す。


「私の後ろについてください」


 そう言うと博識の男は俺たちの前に幅3メートルほどのシールドらしきものをはった。


「サンキュー、助かったぜ」


「いえまだ助かってはいません。このシールドは30秒ほどしか持ちません。その間に何か助かる方法を考えてください」


「30秒⁈ 全然持たないじゃないか! そんな短時間で考えられるわけないだろう!」


「ではあなたたちだけでも逃げてください!」


「はっ⁈ それこそそんなことできるわけない!」


 俺は声を荒げる。


「くそぅ、やはり戦うしかねぇみてぇだな」


 ガタイのいい男は腹を決めたようだった。


「もう防御の魔法が切れます!」


 ──チクショウ。俺はこんなところで死ぬのか。異世界に飛ばされてこの世界がどんな世界なのかも全く知ることができずに元の世界にも帰れず死ぬのか。


「やってやるよぉぉ!!」


 目の前に展開されていたシールドの壁が消え、今度は盗賊たちの壁が迫ってきた。


 ──クソォォ‥‥‥


 ドオオオォォォォンン!!


 砂ぼこりとともに目の前が真っ白になった。

 一瞬、俺はもう死んだのではないかと疑った。

 だが違う。目の前に白い巨大なものが現れたのだった。

 恐る恐る俺はその物体が何なのかを確認する。


「お前は‥‥‥」


 そこにいたのは俺がこの世界でいちばん最初に出会った生物──


 白いドラゴンだった。


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