(グランデール社・異世界帰還者保護事業部創設者)ルシエル・グランデールの祝福
(前編)神の箱庭・神力の継承者と自重を知らない神々。〜神の導きが繋ぎ結びし縁〜
短編第四弾です。
過去作品絡んでますので、気になったら読んでみてくださいね。
あらすじにオススメの順番も載せてます。
後編と連載の続きはもう少しお待ち下さい。
(ん?なんだ?)
目の前に見慣れない端末らしき物があった。
子供の頃に使っていたタブレット端末に似ているが、それは金色の光を纏っており、空中に浮かんでいた。
(おかしいな?さっきまで何も無かったはず・・・誰も居ないし、突然現れた感じだな?しかも、浮かんでいるし・・・何なんだ?)
私は手を伸ばし、指先でツンツンつついてみた。
恐れよりも好奇心の方が勝った結果の行動であった。
「うおっ。」
謎の端末に何度か触れると、指先に痺れるような痛みが走り、私は咄嗟に手を引っ込めたのだった。
すると、謎の端末を包んでいた光が徐々に広がり、辺りは金色の光で包み込まれた。
そして・・・
【認証完了・・・私はミリア・・・現時刻をもって、神導 縁を私のマスターとして承認しました・・・起動シークエンス・オールグリーン・・・シンクロを開始します。】
機械的だが、透き通るような綺麗な女性の声が聞こえた・・・
「ミリアって誰だ?何故私の名前を知っていた?シンクロって?一体何がっ、うおっ。」
疑問が口を付いて出た私だったが、辺りを包んでいた金色の光が突然強くなり、あまりの激しさに目が眩んでしまい、最後まで話す事が出来なかったのだった。
(全く何なんだ?未だ目がチカチカするぞ。)
両目を手で擦りながら眼の回復を待っていると、誰も居なかったはずの部屋で、謎の端末以外の声が聞こえてきた。
『随分と年取った爺さんね。期待できるのかしら?』
『少なくともミリアとシンクロしたんでしょ?ならば問題無いはずだわ。』
女性の声だった。
話し声から少なくとも二人は居るようだ。
私の方もようやく眼が回復してきたので、声のした方へ目を向けると、見知らぬ金色の空間に真っ白な服を着た金髪の美しい女性と、真っ黒な服を着た黒髪の美しい女性の二人がこちらを見ていた。
髪の色こそ違うが、二人は双子のように見えた。
「どちら様で?それと、ここはどこだ?」
私は二人に尋ねたのだった。
『私はクリエ。創造神よ。で、こっちの黒髪がトロイ。破壊神ね。因みに創造神とか破壊神というのは単なる役割ね。能力自体は変わらないわ。それで、ここは私達の領域の世界ね。私達が居た世界は昔、ウィンフリーと名乗る者に突然滅ぼされてしまったのよ。永い時を経てやっと力を取り戻せたので、ここに再び私達の世界を作ろうと思ってるのよ。』
金髪の創造神クリエが私に答えた。
『ところで、神導 縁。貴方はミリアとシンクロした唯一の人間なの。ミリアは私達がこれから作る世界に力を与え、増幅させて世界を繁栄に導く実体を持たない繁栄神よ。だからミリアがマスターと認めシンクロした貴方は、神の力を使用出来るのよ。だから貴方には神の一員としてこれから作る世界を繁栄に導いてもらう事になるわね。』
黒髪の破壊神トロイが私に説明した。
(そうか、あの端末は最新のVRゲーム機だったのか。となると、これはオープニングか。リアル過ぎて全然ゲームとは気が付かなかったぞ。)
私は病院で入院中だったはずだ。
今度心臓発作が起きれば命の保障が無いと言われている八十歳の老人だ。
まさかこんな状態で最新のゲームをプレイするとは思いもよらなかった。
まあ、長年勤めたグランデール社を退社してからは、特に打ち込めるような趣味も無く、のんびりと暮らしていただけだったから、冥土の土産に最新の技術を体験プレイしてみても良いだろう。
「世界を繁栄に導くって、一体何をすれば良いのだ?」
私は二人の神に質問した。
『何でも構わないわ。したい事を思い浮かべればミリアが実現してくれるから好きなようにやってもらって構わないわよ。』
クリエが答えた。
自由度が高過ぎのような気もしたが、あとでミリアにでも聞いておこう。
『そんなに心配なら、どんな感じになるのか見せてあげるわ。私達の配下が作った世界シリウスで実践してあげるわよ。』
トロイは私に話し掛けると、両手を胸の前で組み、祈るようなポーズで何か囁き始めた。
すると、金色だった空間全体が変化して、まるで全方向スクリーンの様に私の眼前に何処かの風景が映し出された。
『ここはシリウスのサウザーン王国ね。良い所でしょ?』
まるで中世の欧州のような石造りの街並で、遠くに立派な大きな王城の様な建物が見える。
街にはVRゲームではお馴染みのドワーフ族やエルフ族、獣人族等様々な亜人族が人間と共に存在していた。
魔法使いの様なローブと綺麗に装飾された杖を装備している者や、腰に剣を携え、金属製の鎧と盾を装備した戦士の様な者等が、ファンタジーVRゲームを彷彿させる。
(ファンタジー系の王道VRゲームか?今はチュートリアルだな。しかし、クリエとトロイのAIは凄いな。まるで私と会話をしている感じだな。)
「成る程、私はプレイヤーとして、魔物を倒してレベルを上げて、最後に魔王を倒して世界の繁栄に貢献しろって事だな。」
私は感じたままを口にした。
『プレイヤー?違うわよ。神導 縁、貴方はこんな感じに世界を発展させるようにミリアと共に力を使ってもらうのよ。私とクリエは貴方の発展させた世界で、ちょっと遊ばせてもらうから楽しませて頂戴。』
クリエもトロイに続いた。
『ちょっとじゃ済まないでしょ。トロイが何かする度に世界が滅びかけるじゃない。いくら退屈だからって、アレはちょっととは言わないわよ。私の苦労も考えてもらいたいものだわ。」
私には二人のやり取りが今一つ理解出来なかった。
「プレイヤーじゃないのか。それにしても、世界が滅びかける?一体何をしてるんだ?」
私は疑問を口にした。
すると二人はニッコリと笑みを浮かべた。
『だから言ったじゃない。実践してあげるって。』
トロイが答え、二人の笑みが悪戯な笑みへと変化した。
『さあ、始めましょう。ウフフ、楽しみね。』
『フフフ、そうね。』
私は二人の悪戯な笑みに、何か嫌な予感がしたのだった・・・
そして、トロイが叫んだ。
『この世界シリウスに、魔王召喚。』
すると、空間に映し出されていた景色が変わり、暗い遺跡のような所が映し出された。
床には魔方陣と思われる幾何学模様の円形の陣が書かれており、その上にはトロイが召喚した魔王らしき禍々しい異形な魔物の姿があった。
『成功ね。今回は当たりかも。さてと、次は魔物達に神の祝福を。』
トロイが叫ぶと、映し出されていた景色が消え失せ、元の金色の空間に戻り、代わりに私の脳内にシリウス全体の様子が流れ込んできた。
すると、各地で魔物達が進化でもしているかのように、身体が凶悪なモノへと変化している様子が見えた。
『さあ、ショータイムよ。魔物の大氾濫を。魔物達よ、魔王と共に世界を蹂躙しなさい。』
トロイの言葉に呼応するように、魔王が雄叫びを上げると、各地で魔物の数が爆発的に増大し、人々が生活を営んでいる近隣の街や村に向かって魔物達が進軍を始めたのだった・・・
『ちょっと、トロイ。やり過ぎよ。これじゃ世界が滅んでしまうわよ。』
クリエがトロイに文句を言っていた。
私も同感だった。
既に世界の人口の3分の1は魔物達によって失われた。
このままでは、この世界の人々は成す術無く魔物達に滅ばされてしまうだろう。
クリエはこの状況をどう納めるのだろうか?
『全く・・・仕方ないわね。迷宮創造。魔物達を呼び寄せなさい。』
クリエが各地に迷宮を造り魔物達を誘い入れ、地上から魔物達を間引きしていく。
『さあ、反撃よ、勇者召喚。勇者に神の祝福を。』
クリエが勇者召喚を履行すると、サウザーン王国に勇者達が召喚されたようだ。
異世界召喚された日本人という設定だろうか?黒目黒髪の未だ成人してないであろう男女が二人ずつ、合計4人の若者達が王宮で説明を受けている様子が見えた。
定番の神の祝福も授かっている事だろう。
『反撃ですって?今回、私の召喚した魔王はかなりの強者よ。これならクリエの召喚した勇者達に負けないわよ。』
トロイが自信満々でクリエに語っていたが、対してクリエはトロイに微笑みを返し、返答していた。
『だから面白いんでしょ。どちらが勝っても良いんじゃない?後は見物しながら楽しみましょうよ。良いわね、トロイ。』
『そうね。そうしましょう。楽しみだわ。』
トロイが同意し、二人の神は嬉しそうに世界の状況を見ていた。
どうやら二人の神にとって、魔王や勇者は単なる暇潰しの道具であり、世界は神々の単なる遊び場にしか見えなかった・・・
「私は何をすれば良いのだ?繁栄に導くのが役割なんだろ?」
私の質問にクリエが答える。
『貴方は戦いが終わった世界を元に戻してくれればいいのよ。私とトロイがまた遊べるようにね。』
『そうそう、なかなか元通りに戻らないから暇なのよ。私とクリエはそういうのは面倒だからやりたくないのよ。だから貴方の繁栄神の力で元通りにして頂戴。能力自体は私達と変わらないんだから簡単でしょ?』
クリエに続いてトロイが答えた。
余りにも幼稚な答えに開いた口が塞がらない。
要は箱庭で自分達が遊びまくって散らかしたオモチャを片付けろっていう事だ。
そして、綺麗になったらまた遊び出す、の繰り返しなのだろう。
「私は保護者か?二人は神なのでは?後始末位は自分で何とかするべきだろ。」
歳のせいだろうか、思わず説教してしまう私であったが、二人の神は動じていないようだ。
『昔はミリアがいつの間にかやってくれてたもん。貴方がミリアなんだから役割は果たしてもらうわ。』
クリエが反論する。
『貴方は、繁栄神なんだから当然の事でしょ。』
トロイも同意した。
聞く耳を持ってない、これは言っても無駄なパターンだ。
ゲームなんだから当然か・・・
「そうか、なら私は自由にやらせてもらおう。今から参加させてもらうよ。」
私の言葉を聞いた二人がニカッと笑い頷いた。
【私のせいね・・・ご免なさい。】
ミリアの声が聞こえた。
彼女が二人と同類じゃ無い事を祈る私であった・・・
(これは間違いなく世界育成型シミュレーションゲームだな。)
私は今までの経緯からそう結論付け、対策法を模索する事にした。
(ミリア、今の状況をどう分析する?)
私は心の中でミリアに問い掛けた。
【マスターに申告します。このままでは魔王達が勝利し、世界の被害は甚大となると予想されます。】
ミリアの答えは私と同じだったが、会話が他人行儀過ぎるし、機械的な話し方なのが気になる。
(ミリア、私の事はエニシで構わないし、もっとフレンドリーな話し方で良いんだけど、出来る?)
【分かりましたわ。エニシ。このままだと魔王が勝ちそうですし、世界の被害も甚大になりそうですわ。】
どこのお嬢様ですか?という感じの話し方だが・・・まぁ、良いか。
(私達が勇者達に何かしらの力で加勢した場合はどうだろう?魔王を倒し、勇者達の世界の知識をフィードバックしてもらうのがベストだと考えているのだが。)
私なりの考えをミリアに話した。
【賛成ですわ。それなら被害を抑え、世界の復興も早まる名案ですわね。】
ミリアはクリエやトロイと違い、常識的な考え方を持っていそうだな。
これなら何とかなるかもしれない。
(シリウスには勇者達以外で、魔王と戦えそうな者は存在していないのか?何となくだが、力を持つ存在を2つ感じるのだが。勇者達の仲間に出来ないだろうか?)
【それは精霊王と神獣王ですわ。精霊王は精霊界に、神獣王はサウザーン王国の東の森に居るようですわ。エニシの精神分身体を作り使用すれば交渉は可能ですわ。宜しくて。】
(ああ、頼む。早速行こう。)
こうして私は勇者達に加勢する為、精霊王と神獣王の元へと向かうのであった・・・
精霊王と神獣王との交渉は大きなトラブルも無く彼等の力も文句無しで、交渉を無事に終える事が出来たが、両王共に、直接勇者達と会ってその実力を確かめてからという条件付きとなった。
後は勇者達だが、こちらの方も快く了解してもらえた。
話してみると、彼等は日本から来た19歳の学生達で、環境課目と農耕課目を専攻していたようで、この世界でやりたい事が沢山有るみたいだ。
しかし、今は勇者として魔王軍を何とかしないといけないという状況で、なかなか手が付けられないと愚痴っていた。
クリエからは神の祝福を授かっていたが、魔王軍に押され気味で、何とか出来ないかと模索していたところだったようで、私の提案は互いにウィンウィンの良いとこ取りであった。
(やはり勇者達に加勢するのがベストのようだね。)
【後は勇者達の実力を精霊王と神獣王に認めてもらえれば全てが上手くいきますわね。実力は問題無いでしょうから安心ですわ。】
(そうだね。上手くいく事を願おう。)
そして、勇者達と精霊王と神獣王が初めて対面するのであった・・・
対面は精霊界で行う事にした。
彼等の力は強大過ぎる為、互いの力を出しても被害が出ないように配慮した結果だ。
私は精霊王に了解を貰い、精霊界の一部を切り離し、被害が出ないように結界で覆った。
勇者達には精霊界に出入り出来るように、精霊界にある転移石を加工して私が魔力を込めて作った宝玉を渡しており、準備が出来次第来ることになっている。
宝玉は私の母が持っていたモノに似せ、金色の装飾を施した枠組みに大きな青い転移石をはめ込んだデザインにした。
我ながら中々の自信作だと思う。
【勇者達が到着したようですわ。早速始めましょう。】
ミリアが勇者達の到着を私に告げた。
今後の世界の命運を担う彼等が遂に出会った瞬間であった・・・
やはり時代は彼等を必要としていたのだろう。
彼等は本気でぶつかり合い、互いを認め、すっかり意気投合し、協力を誓い合ったのだった。
ここに、最強の魔王軍討伐隊が誕生したのであった。
勇者達は友好の証として精霊王から切り離されたこの場所を譲り受け、自由に使用出来る事となった。
後に精霊の庭と呼ばれる場所であった。
私からは勇者達が暮らしていけるように、そこに屋敷をプレゼントさせてもらった。
そして、皆に私から神の祝福を贈ったのだった。
「では皆さん、宜しく頼みます。」
(後は彼等に任せよう。)
私は皆に頭を下げ、分身体を元に戻したのだった・・・
【エニシ、お見事ですわ。これで被害は最小限に抑えられるはずですわ。】
ミリアが嬉しそうに話し掛けてきた。
(そうだね。君の力のお陰だよ。有り難う。)
【誉められるのって恥ずかしいわ。でも、嬉しいわ。】
私はミリアに礼を言いながら、パートナーがミリアで良かったと思ったのであった・・・
魔王軍と勇者達の戦いは、精霊王と神獣王の加勢によって、形勢が逆転した。
勇者サイドが終始優勢となり、その後遂に魔王を打ち倒し、世界に平和をもたらしたのだった・・・
『ちょっとエニシ。貴方一体何をしたの?』
『何かアッサリ終わっちゃったじゃないの。どういう事?』
クリエとトロイが私を問い詰めた。
「自分の役割を果たしただけさ。大した事はしてないな。それより、クリエが召喚した勇者達は元の世界に戻れないのか?」
私は勇者達が気になり、クリエに質問した、
『さあ?私は戻すなんて考えた事無いし、興味無いわ。シリウスの神にでも聞いてみたら?』
クリエは興味無さそうに答えた。
やはり中身は子供だな。
聞くだけ無駄だったようだ。
【私がこちらの神に聞いてみますわ。・・・クリエが召喚したから戻すのは無理みたいですわね。あっ、でも元の世界への扉は開けると言ってますわ。私達で転移のサポートが出来るなら戻す事が可能みたいですわね。】
流石はミリアだ、随分と仕事が早い。
まあ、ゲームだからかな?サクサクいくな。
(そうか。有り難う。勇者達に伝えておくか・・・)
私は分身体を使用して勇者達の屋敷へ向かったのであった・・・
私は勇者達に、元の世界に戻れる事を伝えたが、彼等はもう少しだけ残りたいようだった。
サウザーン王国の復興で上下水道や、風呂の普及等のインフラ技術と日本の食文化も伝えたいらしく、それに伴う米等の農耕技術や味噌や醤油や酒等の発酵のノウハウも伝えたいらしい。
戻るタイミングは彼等に任せよう。
彼等は確かにその方面を専攻している学生だと聞いていたが、これ、本当にゲームなのだろうか?と思ってしまう程の知識だった。
最新の技術とは凄いものだな、最後に体験できて良かったと思わずにはいられなかった。
【最後なんて悲しい事は考えない事ですわ。エニシが転生したら、私がエニシの彼女になってあげますわよ。次は恋人同士かしら。宜しくて。】
(こんな爺さんに何を言ってるのさ。ま、期待してるよ。)
私はミリアに社交辞令で返事をしたのだった・・・
その後、勇者達はサウザーン王国の復興に尽力し、伝えたかった技術を伝え終わると、神に扉を開いて貰い、青い宝玉に込めた転移の力で元の世界に戻っていったのだった・・・
「さて、チュートリアルは終了だな。お陰で良い経験を積めたよ。」
私はクリエとトロイに話し掛けた。
『何かアッサリし過ぎて不完全燃焼よ・・・』
クリエが不満そうだ。
『も、もう一回だけ。魔王召喚よ。そして、魔物達に神の祝福を。物足りないの。軽くやらせて。』
トロイも同感だったらしく、勝手に魔王を召喚し始めたのだった。
『そ、そうよね。そうこなくっちゃ。勇者召喚よ。勇者に神の祝福を。』
クリエも勇者召喚を行った。
今回の召喚者は男女の二人だったが、何故だろう?この間の勇者達に雰囲気がそっくりだった。
30代前半位だろうか?
(ミリア、あの勇者って誰だか判るか?)
私は気になってミリアに確認する。
【二人とも前回の勇者達の子供のようですわ。しかもあの二人は結婚してるようですわ。ロマンティックですわね。】
道理で似ている訳だが、時間の流れが違うのか?
(ミリア、前回勇者達が戻ってからどの位の時間が経っている?)
【約380年経過しているわ。】
(は?では、私は何故生きている?)
【今のエニシは時間の流れから外れているわよ。問題無いかしら。】
成る程、ゲーム内では一瞬の間に多くの経験が出来る訳か。
(そうだ、また宝玉を作っておこう。必要になるかもしれないからね。)
【では、分身体で行きますわよ。宜しくて。】
(頼むぞ、ミリア。)
私は早速精霊界へ向かったのであった。
精霊界に着いた私は、精霊王と神獣王に魔王召喚と勇者召喚の事を伝えた。
そして、転移石で宝玉を作る許可を精霊王に貰ったのだった。
今回は高品質の赤い転移石が手に入り、それを使い赤い宝玉が出来た。
私が魔力を込めると、扉の力も宿ったが、ゲートを使用するには、かなりの魔力を必要とする為、今は使用不可能だった。
(さあ、勇者達に渡しに行こうか。)
私はサウザーン王国の勇者達の所に向かった。
勇者達はやはり前回の勇者達の子供であり、私の事も知っていた。
神城 衛と神城 光という名前であった。
元の世界には子供も居るようで、神城 翔というらしい。
元の世界では、彼等も生存しており元気で暮らしているそうだ。
孫の翔を可愛がっているとの事だ。
驚いた事に前回の勇者達は、私の勤めていたグランデール社の異世界帰還者保護事業部に保護され、そこで働いていたらしい。
しかし、話を聞くと私の居る時代より、もっと未来の時代らしい。
ゲームとはいえ、情報が細かい。
衛と光は両親の暮らしていた精霊の庭を見てみたいらしく、私は赤い宝玉を渡したのであった・・・
今回は魔物の進軍が無く、魔王も積極的に手を出して来ないので、小競り合いはあるものの、大きな戦いは起きていなかった。
勇者である衛や光も街を守りながら、精霊の庭で人々の役に立つ魔導具の開発をしていた。
二人のお陰で人々の生活は便利になっていき、街の生活水準は向上していったのだった。
冷蔵庫や洗濯機、魔導コンロやウォシュレット付トイレ等の生活用品や、鑑定機能付の魔導具や異空間に荷物を収納出来る魔法鞄も大発明であった。
だが、いつまでも魔王を放置するわけにもいかず、衛と光は精霊王と神獣王と共に魔王討伐へと旅立ったのであった・・・
戦いは勇者達が魔王を倒し、世界に再び平和をもたらしたのだった・・・
だが、払った代償は大き過ぎた。
戦いの途中でトロイが魔王に神の祝福を授けてしまい、神獣王が深手の傷を負ったところに魔王の一撃が迫った時だった。
衛と光が神獣王を庇い、致命傷をその身に受けてしまったのだ。
それでも二人は力を振り絞り、魔王を討ち滅ぼしたのだ・・・
私が衛と光の元に着いた時には彼等の命は風前の灯火だった。
扉を開いて元の世界に戻すにしても手遅れであり、打つ手が無い。
「衛、光、この世界の為に頑張ってもらっていたのに、こんな結果になってしまって、本当に済まなかった。」
私は彼等に謝罪をするが、彼等は首をウウンと左右に振るのだった。
「エニシ様、私はこの世界を救えたんだから満足よ。でも、息子の翔にもこの世界を見せてあげたかったかな。」
光はそう呟いた。
「初めは俺達の両親、次に俺達が呼ばれたんだ。翔もこの世界に来るのかもしれない。一目位は会いたかったが、これも運命だ、俺は悔いは無いさ。」
衛も呟いた。
「ん?この世界に留まるだけで構わないなら、二人の魂をこの赤い宝玉の中に閉じ込めれば可能だよ。ただし、どの位留まってられるかは私にも分からないけどね。やってみるかい?」
衛と光が頷いた。
やはり息子の翔の事が気になるのだろう。
「では、急ぐとしよう。」
私は早速二人の魂を宝玉に閉じ込める準備を始めた。
そして、二人の魂は赤い宝玉の中で眠りに着き、魂の修復を行いながら、目覚めの時を待つのであった・・・
『また魔王がアッサリ負けちゃったんだけど・・・』
トロイが悔しそうにしていた。
『戦いの途中で神の祝福を使うなんて反則じゃないの?お陰で私の召喚した勇者達が倒されちゃったじゃない。』
クリエが不満そうだ。
「もう気が済んだだろ?そろそろ自分達の世界を創ったらどうだい?」
もうチュートリアルも終わりで良い頃合いであろう。
『でもねぇ、シリウスの神が何もしてないのに、前より世界が繁栄してしまったのは気に入らないわ。このまま立ち去る訳にはいかないわよ。』
クリエが愚痴る。
『あの子達にもシリウスの神らしいところ見せて貰わないとね。何か良い方法を考えましょ。』
トロイがクリエに同調し、二人の神が相談し始めた。
どうやらチュートリアルはまだ続きそうだった。
また良からぬ事を思い付かなければ良いが・・・
私はやれやれとため息を一つ着き、自分なりに出来る事をしておこうと、再び分身体を使用して衛と光が眠っている精霊の庭へと向かったのであった・・・
「おっ、目覚めたようだね。」
私は宝玉の中の衛と光に声を掛けた。
「私達は宝玉の中で生き返ったのか?」
衛が私に問い掛けた。
「いや、魂と意識が宝玉の中に留まっているだけにすぎないよ。君達を死の直前で宝玉へ封じ込めたけど、宝玉の中ではゆっくりと時間が進んでいるからいずれ死を迎える時が来るよ。まあ、直ぐではないだろうけどね。」
私は今の二人の状況を説明した。
「衛、光よ、本当に済まなかった。もし、お前達の息子がこの世界へ来る事が有れば、私にお前達の息子を護らせてくれ。我に恩を返させて欲しい。」
神獣王が二人に懇願していた。
彼を庇い、致命傷を負ってしまった二人に負い目を感じているのだろう。
宝玉に深々と頭を下げていた。
「はは、お前じゃ翔が怖がってしまうさ。気持ちは有り難く貰っておくよ。翔は可愛い女の子とオッパイとモフモフが大好きだからな。まあ、神獣化した銀狼王ならモフモフ出来るがね。普段の厳ついおっさんにケモ耳と尻尾が付いた姿じゃ逃げ出してしまうさ。」
衛が神獣王に答えると、光も口を開いた。
「貴方に娘でも居ればお願い出来たのにね。」
【エニシ、私達で翔君の理想の彼女を産み出すというのは如何かしら?彼は近い将来にこちらの世界に来る運命のようですわ。】
ミリアが私に提案してきた。
流石ゲームだ、都合良く出来ている。
(そうなのか?ならばそれは名案だな。やってみるか。)
「翔君の理想の彼女として、神獣王の娘を誕生させてみるかい?」
私は皆に提案してみると、衛と光だけでなく、神獣王といつの間にか現れた精霊王も提案に乗ってきたのであった。
「良し、折角だから、皆の力も宿らせるよ。将来が楽しみだ。」
こうして私達は、将来こちらの世界に来るであろう、翔を一発でメロメロにしてしまうような神獣王の娘を誕生させたのであった。
大きくなるまでは、精霊王と神獣王が育ててくれる事となったのだった・・・
神獣王の娘を誕生させた私は分身体を戻し、クリエとトロイの様子を伺った。
どうやら何か閃いたらしい。
クリエとトロイが悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「また魔王召喚と勇者召喚でもするのか?」
『ウフフ、シリウスの破壊神を召喚するのよ。あの子達にも頑張って自分の役割を果たして貰わないとね。』
トロイがこの世界の神を召喚するらしい。
良い事を聞いたぞ。
神には手が出せないと思っていたが、召喚出来るのならクリエやトロイが創った世界で、二人が暴走しても止める事が出来るかもしれない。
『フフフ、私は創造神を召喚して、破壊神と対決してもらわないとね。』
クリエまで神を召喚するらしい。
「創造神と破壊神で対決?そんな事したらこの世界が滅んでしまうんじゃないのか?」
私は二人の神の気まぐれで世界が滅んでしまうんじゃないかと心配したが、当人達は済ました顔をしていた。
『だから面白いんでしょ。あの子達がどうするのかが見たいのよ。』
トロイが答えた。
完全に子供の発想で、歯止めが効かなくなっている。
これで神だというのだから手に負えない。
私はこの自重を知らない二人の神に対抗出来るのだろうかと本気で思ってしまったのだった・・・
『さあ、いくわよ。邪神召喚。後は、歴代魔王召喚。』
トロイが召喚を始めた。
邪神(破壊神)と歴代魔王の召喚という極悪コンボだ。
『さて、私も。女神召喚。精霊王と神獣王に神の祝福を。』
クリエも召喚を始めた。
女神(創造神)召喚に加えて、精霊王と神獣王まで巻き込んだのだった。
「世界を巻き込む喧嘩は感心出来ないな。私も参加させてもらうとしよう。さあ、座標を神の召喚先にして、迷宮創造。続いてガーディアン召喚。ターゲットを魔王に設定。そして迷宮を結界で封印。こんなとこかな。」
私はこの戦いで世界に被害が出ないように自分なりに手を打ったのだった。
すると、クリエとトロイが驚いた表情で私を見ていた。
『ちょっと縁、ガーディアン召喚?結界?何よソレ。そんな能力は無いはずよ。どういう事かしら?』
クリエが私に問い掛けた。
「ミリアの力だろ?能力が同じなんだから二人とも出来るはずだろ?」
私はそう答えたが、どうやら違うようだった。
トロイも首を傾げているし、ミリアも自分の力ではないと伝えてきたのだった。
「違うのか?ならば私にも分からないけど、繁栄神の役割としてはこの位はしておかないとね。思い付いた事をしたまでだよ。」
私にもよく分からないが出来てしまったのだから開き直る事にした。
実は二人が創造神と破壊神を召喚した時の力を少しネコババしてガーディアン達に与えて強化していたり、ガーディアン達には戦った魔王の力を奪い、私に届けるように指示していたりもしている。
ミリアは知っているが、クリエとトロイには内緒だ。
『縁って何者?普通以上に神の力を使いこなしているし・・・何か納得いかないわね。』
トロイが疑惑の瞳で私を見ていたが、ゲームだし何でも有りだろうから、私はニッコリと笑いながらトロイに話し掛けた。
「ただの老いぼれだよ。それ以上でもそれ以下でもないな。」
『それもそうよね。まあいいわ。』
呆れ顔のトロイだったが、渋々納得したみたいだった・・・
戦いの方は私の打った手が見事に上手く行き、迷宮内での戦いとなり、迷宮外に影響は出なかった。
クリエとトロイが文句を言っていたが、私は目論見通りだったので黙りを決め、受け流した。
召喚された魔王達は、ガーディアンの猛攻に加えて、精霊王と神獣王との戦いを強いられ、徐々に数を減らしていった・・・
戦いは創造神サイドが有利ではあったが、運悪く精霊王と破壊神が出会ってしまった。
精霊王であっても格上の破壊神が相手ではどうにもならず、私は精霊王にこっそり神の祝福を与え、命を失わないように支援はしたのだが、力の差は大きく、最終的には破壊神に封印されてしまったのだった。
一方の神獣王は、精霊王が封印されたのにも関わらず、数を減らした魔王達と互角の戦いを見せていた。
ガーディアン達との連携も取れていたのが大きい。
結果的には魔王数体が瀕死の状態で残ってしまったが、神獣王も限界で立っているのもやっとの状態であった。
今の状況なら上出来といえよう。
そして、創造神と破壊神の対決が始まった。
私は傷ついた神獣王に影響が及ばないように結界の範囲を狭めておき、対決を見守ったのだった・・・
互いの実力が互角なのだろうか、両者共に決定打に欠けており、決着が着かず戦いは長期戦となっていた。
このままでは決着が着かないという事は、私だけでなく当人達も分かっているようだったが、私には二人が全力を出しているようには見えなかったのだ。
(ミリア、あの二人は全力なのか?互いに手加減をしているように見えるのだが。気のせいか?)
【流石縁ですわね。両神共に力を抑えていますわよ。全力で戦えばこの世界が崩壊してしまいますから。】
私の質問にミリアが答えてくれた。
成る程、シリウスの創造神と破壊神はクリエとトロイとは違い常識を持っているようだ。
自分達の世界の心配をしていた良い神だったのだ。
(ミリア、私の結界で耐え切れないかな?ミリアなら判るだろ?もし耐えられそうなら、シリウスの神に伝えてもらえないか。)
【フフフ、もう伝えましたわ。縁ならそう言うと思ってましたもの。】
(流石は私のパートナーだね。ミリア、有り難う。これからも頼むよ。)
【勿論ですわ。来世もパートナーですわ。宜しくて。】
(来世が老いぼれじゃなくて、イケメンの若者である事を願うよ。)
ミリアは私のパートナーとして、しっかりとフォローをしてくれる良く出来た神だとつくづく思ったのだった・・・
創造神と破壊神の戦いの方は、ミリアに結界の話を伝えてもらった後直ぐに決着が着いた。
双方が全ての力を使って消滅の道を選んだのだった。
とはいえ、消えてしまった訳では無く、力を使い果たして神界で眠りに付いたという事らしい。
世界を巻き込む程の戦いを続けるよりも自分達が眠りに付いた方が良いと判断したようだ。
クリエとトロイと違い、この世界の事を大切にする本当に良い神だと私は思ったし、神としての在るべき姿を両神に見せてもらったような気がしたのだった。
私の結界も両神の最後の一撃を無事に耐え切り、シリウスの神の望んだ通り、世界に直接の被害が出る事は無く、戦いは終わったのだった・・・
『また縁に邪魔されちゃったわね。もっと派手にやりたかったのに残念だったわ。』
クリエが不貞腐れながら私に文句を言っているが、何故だろう?悔しそうにはしていなかった。
『まぁ、精霊王が封印されたし、この世界の神も眠りに付いたから良いんじゃないかしら?魔王も何体か生き残ったしね。起きた時には世界が滅んでしまってるかもね。』
トロイも結果に満足しているようだ。
話の内容から察すると、世界は崩壊に向かっているように思えたのだった。
(ミリア、これはどういう事なんだ?世界は無事だったはずだよね。)
私はミリアに疑問をぶつけてみると、残念そうな声で答えが聞こえてきた。
【精霊王はこの世界の生命を司っている存在なのです。自らが創り出した精霊界から生きとし生ける者達に力を与えていたり、精霊達の生命を育み、神獣王の力で産み出された器に精霊を宿らせる事によって、この世界に命を与え支えている無くてはならない存在なのですわ。だから精霊王が封印されてしまっている間は新たな生命が誕生する事が有り得ませんし、力の恩恵も受ける事が出来ませんの。魔王も生き残り、封印を解ける神も眠ってしまっている現在、この世界は滅びに向かっているといっても間違いでは無いですわ。】
(成る程、精霊王が封印されたのが原因か・・・)
結局、クリエとトロイが望んだ展開になってしまったようだったが、これでは世界の為に眠りに付いた両神が報われない気がした。
『まぁ、この位で良いかしらね。続きは私とトロイが創る世界でしましょう。』
『縁も自分の役割が判ったみたいだから、ここはもう用無しね。クリエ、縁、戻りましょう。』
クリエとトロイが戻る準備を始めたが、私は世界をこのままの状態にしておいてはいけない気がしたのだった。
「ちょっと繁栄神として試したい事が有るんだけど・・・良いかな?」
私が二人の神に頼んでみると、二人は顔を見合せた後、頷き合って私に微笑みかけた。
『何をするのかしら~?無駄だと思うけど?』
『神も精霊王も居ないのよ~。縁が頑張ったところで状況は変わらないわよ。まぁ、それで気が済むならば好きにしなさい。』
良し、許可は貰ったからやるだけやってみよう。
「ミリア、神獣王の所へ案内してもらえないかい?」
【喜んで案内しますわ。期待していますわよ。】
ミリアもこの世界を何とかしたいと思ってはいたようだな。
声が嬉しそうだったから判り易かった。
「では、急ぐとしよう。」
早速ミリアに分身体を頼み、神獣王の居る精霊界へと向かったのだった・・・
「神獣王の力でも精霊界の崩壊は止まらないのか?」
「おお、縁殿。我の力では精霊界の崩壊を遅らせるので精一杯なのだ。精霊の庭の方は娘が守っているぞ。だが、もし我等に限界が来ればこの世界は終わってしまうであろう。その前に精霊王を何とかしたいのだが・・・神は眠っておるし、シリウスと精霊界が分断されてしまっている以上、我等にはどうにも出来ぬのだ。口惜しや。」
神獣王が悔しそうにしていた。
精霊王を救い出せる手立てが皆無なのだ。
神の力を持つ私も直接手は出せないのでどうにもならないのだ。
クリエもトロイもそれが分かっているので私の好きにさせてくれているのだ。
「私の方でも色々試したい事が有るから直ぐに取り掛かるとしよう。期待はしないでくれよ。あっ、君の娘にも協力して貰うからね。何とか持ち堪えて欲しい。」
「我は神獣王なり。約束は守るぞ。ここは我に任せよ。」
神獣王が任せろというのだから問題は無いだろう。
後は私の筋書き通りにいくかどうかだな?
私は神獣王に手を振り精霊の庭へ向かったのだった・・・
精霊の庭に着いた私は早速屋敷の中へと入り、神獣王の娘を探した。
娘は奥の部屋で衛と光が宿っている赤い宝玉を握り締めながら眠っていたのだった。
(神獣王の娘か・・・いつの間にか大きくなって。もう立派な美少女じゃないか。潜在能力も高いぞ。)
私が神獣王の娘の成長に驚いていると、宝玉から衛が声を掛けてきた。
「縁様、お久しぶりです。状況は余り宜しく無いようですね。彼女が毎日宝玉に祈りを捧げながらここを守ろうと頑張ってはいますが・・・限界が近付いているようです。力を貸してあげたくても彼女に私達の存在は認識出来ないので、見てる事しか出来ないのが辛いところです。」
「私とミリア、精霊王と神獣王以外で衛と光の存在を認識出来る者が居るとしたら・・・対の宝玉を持つ君達の両親、つまり前勇者達位だね。まぁ、その事で相談しに来たんだけどね。」
私はこの世界を救う為の方法の一つを衛と光に伝えに来たのだ。
「衛と光の子の翔君が異世界転移出来たとしたら、封印された精霊王の所へ行くことも可能かもと思ってね。どう考えても精霊王の所へ行くよりも異世界転移の方が難易度高いよね。だから可能性が有ると思うんだよね・・・」
私はそのまま話を続けようとしたが、光が割って入ってきた。
「縁様ならこの宝玉で異世界の扉は開くことは可能そうね。」
「ただ私の力では翔君の精神を一時的に召喚するのが限界だね。転移は無理そうだね。後は神獣王の娘と翔君の波長が合えば、この世界との繋がりが出来て異世界転移の下地が出来るだろうね。でも、問題はその後なんだよ。」
「何か有るのですか?」
光が聞いてきた。
衛も興味津々だ。
「向こうの世界で赤い宝玉で扉を開き、青い宝玉で転移しなければならないのだけど・・・宝玉を起動するには、衛と光の命と君達の両親である前勇者達の命を対価にして、ようやく翔君を異世界転移させる事が出来るんだよ。問題有りだろ。」
「確かに・・・。でも、縁様が気にする問題では無いですよ。私と光は本来ならばもうこの世に存在していないですし、諦めていた翔の成長した姿も見られるのだから感謝したい位ですね。」
「後は、前勇者の私達の両親達だけど・・・」
光の話が止まる、当然だろう。
本人達が居ないのだから答えられるわけがない。
「それは今決める事では無いさ。私は皆に思うまま行動してもらいたいから結果は求めていないし、強制するつもりもないよ。私もそろそろ旅立ちの時だからね。最後までは見られないんだよ。」
「そうだったのですか・・・縁様、今迄本当に有り難う御座いました。」
光と衛が私に感謝の意を示したが、私は何か照れくさかった。
「シリウスが良い世界になると信じてるよ。じゃあ、扉を開いて翔を召喚するから後は頼んだよ。」
「「はい。」」
こうして私は翔を召喚してクリエとトロイの元へと戻ったのだった・・・
途中でガーディアンと魔王が戦った時に集めた魔王の力を、強く正しき心を持った次世代の者達数名に神の祝福として贈った事は内緒にしておくのだった・・・
『縁?翔と神獣王の娘の御対面だよ。見なくていいの?』
クリエが翔に興味津々だ。
『翔だっけ?彼だけでは世界は変わらないと思うけどねー。』
トロイも翔が気になっているみたいだ。
「それは時が全てを解決してくれるさ。どんな結果になったとしてもエンドロールは流れるものさ。だから後はシリウスに居る者達に任せるから見なくても良いだろ?」
『『良くないわよ。こんなの見せられたら結果が気になっちゃうじゃない。』』
クリエとトロイが力を使って未来を覗こうとしていた。
どうやら確定している未来像なら見る事が出来るらしいのだ。
腐っても神ということか・・・
『えっ、世界が無事だなんて。嘘でしょ・・・精霊王を救って、全ての魔王達まで倒してしまうなんて・・・それに、翔と神獣王の娘以外のあの者達は何者なの?』
クリエが驚いていた。
衛と光と前勇者達は翔を異世界転移させたようだし、神獣王の娘とも上手くいったようで良かった。
私が神の祝福を与えた者達も戦ってくれたようで結果としては最高だった。
世界は無事に救われたのだった。
これで眠っているシリウスの神も安心できるだろう。
でも、本当に世界を救ったのは衛と光と前勇者達だ。
彼等はシリウスを守る為に命を差し出した英雄だ。
私は彼等の勇気ある行動を胸に刻み込み、冥福を祈ったのだった。
『縁の仕業ね。ここまでの仕掛けをいつの間にしたのかしら?油断できないわね。』
トロイがジト目で私を見ていた。
「私は後押ししただけさ。それに、これはまだ練習だろ?」
『そ、そうね。本番はこれからよ。ねっ、クリエ。』
『ええ、本番では縁が驚くような世界を創るつもりよ。さあ、さっさと戻るわよ。トロイ。』
『そうね。じゃあいくわよー。』
トロイの掛け声と共に私は金色の光に包まれたのだった。
(シリウスの事は頼んだよ、翔君。頑張れよ。)
こうして私は異世界シリウスに別れを告げたのであった・・・
「ん?ここは何処だ?」
気が付くと私の目の前に真っ白な天井が見えた。
どうやら私は横になって居るようだ。
「知らない天井だ・・・んな訳無いか・・・」
入院先のいつも通りの見慣れた景色であった。
私は元の世界に戻って来たのだった・・・
(やっとログアウト出来たか。それにしても驚いたな。時間が全く進んでないぞ。)
異世界シリウスでの経験がこちらの時間で反映されていないのだ。
たかだかゲームに何故神業と言える程のテクノロジーが組み込まれていたのだろうか?
そもそもこんな技術は聞いたことが無いし、クリエやトロイ達等のNPCのAIもまるで人間そのものであり、私の常識の斜め上をいっていたのだ。
そういった意味では疑問は尽きない謎のゲームである。
(あっ、ここはグランデール社直轄の病院だったな。最先端の技術が投入されていても不思議ではないな・・・)
グランデール社は私もかつて所属していたガイア・グランデールが設立した企業で、義手や義足等の開発をしていた企業であったが、VR技術にも定評があり、それを医療に応用した独自の技術を娘のルシエル・グランデールが開発し成り上がった企業だ。
余談ではあるが、このルシエル・グランデールという女性は私の名付け親であり、私の両親の友人でもあったのだ。
そのルシエルさんが開発をした技術とは、VR空間でリハビリやトレーニングをして収集したデータで個人専用の義手等の補助具を作成するのだが、その技術は神の奇跡とも言われている。
この技術で作成された補助具は、義手ならば腕を失ってしまった者には、自分の腕が戻ってきたかのように感じてしまう程の完成度だった。
更には、生まれつき四肢の一部が無い者でもこの技術で補助具を作成し装着すると、VR空間と同じように動かせるのだ。
四肢に加えて、視力や聴力等の補助具も同様であり、数え切れない程の人々に希望を与え、それが神の奇跡と言われる由縁となっている。
それだけでなく、ルシエルさんはグランデール社に異世界帰還者保護事業部を設立し、異世界から帰還した者達を保護して社会復帰させたり、異世界に召喚されて家族を失った者達も保護する土台を創り、異世界の存在と干渉を世に知らしめ、仲間と共に異世界へと旅立っていったというとんでもない人物である。
まさに予想の斜め上を地で行くような人物や技術があるのがグランデール社というところなのだ。
そんなグランデール社直轄の病院であれば何が起こっても不思議では無いのかもしれないと私が思った時であった・・・
【ガイアとルシエルを知っていたとは驚きですわ。やはり縁には何か有りそうですわね。】
「ミ、ミリアか?何故ここで声が?私は今、ゲームからログアウトしているはずだろ?」
頭の中に居ない筈のミリアの声が響き驚いた私だが、ミリアの存在を感じたので思わず声が出てしまった。
【ログアウト?ゲーム?何の事ですの?縁とずっと一緒だと言った筈ですわよ。】
「まさか、今迄の出来事はゲームではないのか?」
突如浮かんだ不安が声に出る。
【現実ですわよ。宜しくて。】
衝撃の事実であった・・・
だが、私も若ければここで狼狽えるところだろうが、生憎と百戦錬磨の爺さんである。
状況を冷静に分析し、現実を受け止める事位は出来るし、今後の事だって考える事も出来たのだった。
ただ、シリウスで散っていった者達や衛と光、その親の前勇者達の事を想うと胸が痛むのだった。
あの出来事が現実だったとは・・・
(そうか・・・では、クリエとトロイの様子はどうだ?)
まずは情報収集が基本である。
あの自重を知らない神々の様子を確認だ。
【自分達の世界を創りましたわ。今は色々と試しているようですわね。世界の名は縁の名から頂いて、シンドールに決まりましたわ。私と縁の世界に相応しい名前ですわね。フフフ・・・】
(シンドールねぇ。名も無き世界よりは良いか。ところで、私はシンドールに直ぐにでも呼ばれるのかな?)
【まだ時間は掛かりそうですわね。今迄でかなりの鬱憤が溜まっているようなので・・・随分と暴れているようですわ。】
(本当に子供みたいだな。時間が有りそうなら少し話をしようか。)
【嬉しいですわ。私も縁の事を知りたいですし・・・私の事も知って欲しいですわ。それに、もしかしたら縁の力の事も解るかもしれませんわ。】
(なら、早速始めよう。ミリア、改めて宜しく。)
【縁、こちらこそ宜しくですわ。フフフ・・・】
パートナーならば、互いを知る事が大きな力となるはずである。
そんな期待をしつつ、私達は親睦を深めるのであった・・・
(グランデール社ってとんでもない所だったんだな。)
ミリアとの話が一段落した私だったが、驚きが止まらなかった。
グランデール社は異世界からの悪意の有る侵入者を撃退する為に設立された組織だったのだ。
私が産まれる少し前にも大きな戦いが有ったらしいのだ。
私の両親やルシエルさんも参加した戦いで、月の破壊神達と月で戦ったらしいのだ。
人間が神と戦う事自体が無謀なはずだが、これには理由が有ったのだ。
私の知っている人達の中に、神々の血脈を継ぐ者や本物の神まで居り、勝算が有ったからだった。
結果、敗北はしなかったそうだ。
グランデール社の主要メンバーと私の両親が映っていた映像メモリーをミリアが見て、私に教えてくれた。
グランデール社の創設者、ガイア・グランデールはこの世界の神で創造神だったのだ。
そして、娘のルシエル・グランデールは娘ではなく、異世界の創造神だったのだ。
映像には同じ異世界から転生したトーマという青年とリリットというウサギ耳の少女の二人も映っており、二人はルシエルの仲間であり、神の力を持つ者だった。
ちなみに、シリウスで産み出した神獣王の娘はこのウサギ耳のリリットさんがモデルだったりする。
翔がケモ耳が大好きというのでピンときたのが彼女だったからだ。
更に、私の父である神導 繋と母である神導 結は人間で在りながら、月の神で日本を創造したイザナギ神とイザナミ神の血脈を受け継いだ神力を持つ者だったという衝撃の事実が判明したのだった。
【縁は月の神の神力の継承者だったとは驚きでしたわ。その宝玉が何よりの証ですわね。】
私が両親から貰った宝玉の事である。
シリウスで勇者達に渡した赤い宝玉と青い宝玉のモデルとなった宝玉だが、中央には七色に輝く不思議な石が納められているのだ。
ミリア曰く、この石は月の核石の一部らしく、神力を持つ者に渡される物であり、所有者の私が神力の継承者ということらしいのだ。
(もしそうだとしても、老い先短い爺さんが今更神力の継承者と言われてもなぁ。)
【その宝玉には秘密が有りそうですわね。縁には名付け親であるルシエルから神の祝福が与えられていますわよ。命の危機に何か起こるようですわ。フフフ・・・】
(ここまでくると、いちいち驚くのも馬鹿らしく思えるよ。時が来れば判るさ。これもまた神の導きなのだろう?)
【・・・秘密ですわ。】
今はどうなるのかは全く見当も付かないが、ルシエルさんが絡んでいる以上、私にはまだやらなければならない事が有るのかもしれない・・・
(ミリア、まだ時間が有るなら、クリエとトロイがシンドールでやっている事を教えて貰えないかな?こちらも対策を考えておかないとね。今は出来る事をやっておこうよ、二人でね。)
【ふ・た・り・・・良い響きですわー。何でも教えますわよ。宜しくて。】
(ああ、宜しく頼むよ。)
私とミリアの二人はシンドールでの自重を知らない神々の暴走を止めるべく策を練るのだった・・・
後編に続きます。
最後までお読みいただき有り難う御座いました。
過去作品の短編と合わせて読んで頂くと色々と楽しめる様にしたのですがどうだったでしょう?
後編はシンドール編です。
お楽しみに。
全ての作品で評価・感想お待ちしております。
過去作品も含めてぜひとも応援お願いします。
この下にリンク貼ってありますので、宜しければどうぞ。